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「へえぇ~、なかなか律儀なニィちゃんじゃねぇか」

「そうですね、わたしの中の好感度がミドリムシからミジンコ程度にはアップしました」


それはホントにアップしてるの? てゆうかその好感度、オレの初期値が低すぎない?


「ふ、ふんっ……どうせあたしに負けて、あとから同じ事を言う事になるのに。ホント、バカなんだから」


オレは、若干顔を赤くしなから文句を言ってるかぐやの方へと目を向けた。


「で、その勝負っていうのは、いつやるんだ? 下の道場は、いま新人たちが使っているけど――あと一時間もしたら空くはずだぞ」


ちなみにこのビルは一階が練習用の道場で、二階がロッカールームとシャワールーム。そして三階がこのオフィスになっている。


「ハアァ? あんたバカァ?」


再び赤い全身スーツのヒロインみたいな呆れ顔でオレを指差し、ふんぞり返るかぐや。


「ああっ!? お前が勝負とか言ったんだろ?」

「オイオイ佐野ぉ……下の道場なんて、本気で言ってるのか?」


かぐやに続き、佳華先輩まで呆れ顔。


「マズイですか? 新人達の練習の空き時間なら問題ないでしょう?」

「そういう意味じゃない。かぐやは仮にも元三冠王者だぞ。そのかぐやに道場マッチをさせる気か、お前は?」


へっ……? 違うの?


「そういう事。わたしと勝負をするなら、それなりの舞台を用意してもらわないとね」

「ああ、当然用意するさ」


今度はオレが呆れ顔――とゆうか、|呆《ほう》け顔。


そんなオレを置き去りにして、佳華先輩は壁に掛かるカレンダーを一枚捲ると、ちょうど一ヶ月後――翌月の14日に花丸を付けた。


「本団体アルテミスリングは、来月の7月14日に旗揚げする事をここに宣言する! そして二人の対戦は旗揚げ初日のファイナルマッチ――つまり、メインイベントだっ!!」


振り返りながらカレンダーを叩き、高らかに旗揚げ日を宣言する佳華先輩。

それはいい。仮にもオレは、この団体の社員である。旗揚げ日が決まるのには大賛成である。


しかし、問題はその後だ……


「みんなっ! 異論はないなっ!?」

「「「はいっ!!」」」


気合いの入った返事を返す三人。その隣でオレは、異論を唱えるべく高らかに手を挙げた。


「…………却下だ」


そんなオレを一瞥して、端的に結論だけを口にする佳華先輩。


「なんでですかっ!?」

「だってお前、かぐやとの試合を了承したじゃないか?」

「そりゃあしましたけど、興行としての試合だなんて聞いてないですよ」


聞いてたら了承してないし。


「理由は説明したろ? それと文句は策士かぐやに言え」


ん……? 策士って……


「まだ分からないのですか? アナタは策士孔明の罠にハマったのですよ。男の娘」

「ちょ~っと! なんでバラしちゃうのよ!」


え、えーと……孔明の罠って……まさかっ!?


「も、もしかして、さっきのは全部演技……ですか?」

「ああ。かぐやがお前をぶん殴った時、なんとなくアイツの意図が分かったからな。乗っかってみた」

「な、なにーっ! そうだったのかぁぁぁーっ!?」


アッサリと肯定する佳華先輩と、呆けるオレの代わりに大声で驚く荒木さん。


「まぁ、約一名――アナタを含めて二名は分かっていないようでしたけど、こちらに都合よく動いてくれましたし」


二人の話を聞いて、オレのデスクに寄り掛かるかぐやを睨み付けた。


「かぐや、テメェ……」

「ふんっ、騙される方が悪いのよ。それとアナタもレスラーなら、言いたい事はリングで言いなさい」


まったく悪びれる風もなく、ソッポを向くかぐや。


「まっ、そう言う事だ。それとな佐野――さっきのは確かに演技だけど、お前の発言にムカッ腹が立ったのは本当だからな」

「うっ……」


それを言われると弱い……


「分かったよ、分かりましたっ! その代わり、オレが勝ったら試合に出るのは、この一試合だけですからね!」

「ああ、そうゆう約束だからな。お前が勝ったら、辞めるも続けるも好きにすればいいさ」


誰が続けるかっ!


「さて、そうなってくると、さし当たっての問題点は衣装よね。いくら優人が細身で女顔だと言っても、さすがに普通のリングコスチュームを着たら男だってバレそうだし」


女顔は余計だっ!


「そうですね……ちなみにそこの男の娘。豊胸手術を受ける予定は――」

「あ・り・ま・せ・んっ!!」


とはいえ、かぐやと木村さんの言う通りだ。ましてや、水着みたいな女性物のリングコスは勘弁してもらいたい……


「フッフッフッ……その点は問題ない。みんなもドアの外で聞いていたんだろ? あたしが佐野のデビューは、少し前から考えていたって。実はちゃ~んと衣装も用意してある」


胸を張って、自慢げに話す佳華先輩。てか、どこまで用意周到なんだ、この人は……?


「という訳で、さっそく試着してみるか? もうロッカールームに届いているはずだ」

「い、今からですか?」

「当然だ。善は急げと言うだろう?」


そう言って、佳華先輩はオレの手を引きロッカールームへと連れ出そうとする。


てか、女装はどう考えても『善』ではないだろう……


「そう言う訳で、かぐやたちは少し待っていてくれ。もしヒマなら、あたしのデスクの一番上の引き出しに、コイツが一年の時の新歓コンパの記録映像――佐野がセーラー服着てセンターで歌ってる『熱唱! セーラー服を脱がしちゃって』のDVDがある。Dドライブさえ開かなければ、あたしのノーパソ使っていいから」


「おおっ! そんなお宝映像がっ!?」

「って、ちょっと待ったぁぁぁぁーっ!!」

「いいからお前はコッチに来い!」


慌てて引き返そうとするオレの襟首を掴み、ズルズルと引きずる佳華先輩。そんな売られていく仔牛のようなオレの目の前では、DVDをノートパソコンにセットし始めるかぐや達……


「ついでだから、ちゃんと女に見えるようにメイクもしてやるから楽しみにしてろよ、センター総選挙ダントツトップ男」


ああぁ……オレの黒歴史に、また新たな1ページが……

レッスルプリンセス~優しい月とかぐや姫~

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