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リアムが馬を止めて辺りの様子をうかがう。

僕もリアムの隣に止まり、耳に神経を集中させた。

咆哮はまだ続いている。一、二…三?三匹もいるのか?ラズールから聞いたことがある。魔獣も様々で、大して強くない小物から手に負えない大物までいるそうだ。今聞こえてくる声の魔物は強いのかもしれない。だってリアムの顔が緊張で強ばっているように見えるから。

「リアム…」

「動くなよ」

僕は素直に頷いた。

木々が風に揺らされる音と魔獣の咆哮しか聞こえない暗い森の中。ごくりと唾を飲み込んだ音がやけに大きく響いた気がする。

その時、前方の木々の間から目を光らせながら大きな異形が現れた。

あれが…魔獣。

想像していた通りの恐ろしい姿。全身を硬い黒い毛で覆われ大きな口からは鋭い牙が覗いている。そして四足歩行する手足の先には鋭い爪が。

「なかなかの大物。やっかいだな」

リアムが馬から降りて剣を抜く。僕も続いて降りると、ロロに離れているようにと首を撫でる。

「フィーは何もするな」

剣の柄に手を置いた僕に、リアムが前を向いまま言う。でもそういう訳にはいかない。リアムは強いのだろうけど、目の前の魔獣はどう見ても簡単に倒せそうにない。

だから僕はそのまま剣の柄を握りしめた。

「グアウッ!」

「フィー!」

いきなり後方から咆哮が聞こえた。素早く振り返ると同時に剣を抜く。前方にいる魔獣と同じ姿の魔獣が大きな口を開けて飛びかかってきた。僕は転がりながら横に避けて魔獣の後ろ足を斬った。

リアムが剣を頭上に構え、倒れた魔獣の頭を真っ二つに斬る。

「すごい…」

僕の力では魔獣の足を斬るのが精一杯だった。なのにリアムはすごい力だ。男としてうらやましい。

「大丈夫か?」

リアムが剣を振るって血を払い、膝をついていた僕に手を差し出す。

その手を掴もうとして僕は思わず叫んだ。

「あっ、危ないっ!」

「チッ!」

最初に現れた魔獣がリアムに向かって鋭い爪を振り下ろそうとしている。振り向きざまにリアムが剣を構えようとするが間に合わない。

僕は咄嗟に持っていた剣を投げた。剣は魔獣の目に突き刺さり、一瞬動きの止まった魔獣の腕をリアムが斬り落とした。

「グアアアッ!」

恐ろしい叫び声を上げて魔獣が暴れる。大木に巨体をぶつけながら残った方の目が僕を捕らえた。一瞬の間を置いて僕に向かって飛びかかる。その瞬間、あらわになった魔獣の腹をリアムが斬り裂いたが、構わず魔獣は僕に飛びかかり左肩を裂いて息絶えた。

「フィーっ!」

「う…」

飛びかかられた衝撃で倒れる僕を、リアムが抱きとめてくれる。

左肩が燃えるように熱い。痛みよりもとにかく熱い。リアムが何か叫んでる。青い顔をしているのにすごく汗をかいてる。あれ?僕だけじゃなくリアムも暑いの?結局僕は、人ではなく魔獣に殺されるのか。ふふっ、でもまあ、王の命令を受けた者に殺されるよりはマシか。

「あ…」

遠のく意識の中で、リアムの背後に魔獣を見つけてあせる。

「…まだいる…。そうだ…三…いた…」

僕は鉛のように重たく感じる右腕を上げて、手のひらを魔獣に向ける。そして途切れそうな意識を集中させて白い光の玉を魔獣に飛ばした。

白い光に重なるように黄色い光も見えた気がする。

「リア…厶…?」

「フィー!」

瞼が重くてもう目が開かない。だから魔獣を退治できたのかわからない。

僕は確認したくて口を開こうとするけど、全身から力が抜けて動かすことが出来なかった。



夢を見ていた。城で暮らしていた頃の夢。幸せな夢ではない。食事に毒を盛られ、四方八方から矢が飛んでくる夢だ。それらのほとんどをラズールが回避してくれたが全てではない。ラズールがいない時に毒を口にしてしまい死にかけた。ラズールの結界をも突き破って矢が僕に届き死にかけた。

今、身体がとても熱い。これは毒によるもの?あ…でも左肩がひどく痛いから矢が刺さったの?またラズールの堅固な守りをかいくぐって僕に刃が届いたの?今度こそ死ぬの?

ああ、違う。そうだった。僕は城から出たんだ。城から出て始末される所をリアムに助けてもらった。リアムは僕を女だと勘違いして妻にするなんて言ってたけど。僕はもうすぐ死ぬだろうから諦めてくれるといいな。それに男だと知って落胆するリアムは見たくないから。リアム、動かなくなった僕の身体はその辺に置いていっていいからね。

「あつい…」

「大丈夫か?」

あまりの暑さに目を覚ました。目を覚ますなりリアムが覗き込んできて少し驚いた。てっきり僕は死んだと思っていたから。

「…リア…ム?」

「そうだ、わかるか?おまえは肩の傷による発熱で三日間目が覚めなかった。だが出血は止まっているし質のいい化膿止めや熱冷ましの薬も飲ませた。心音も安定している。だからもう大丈夫だ」

「そう…ありがと。ねぇ、なんでそんな…顔、してる…の?」

リアムが怒ったような困ったような不思議な顔をしている。どうしたのだろう。

「もう大丈夫だけど…この三日間は本当に危なかったんだ。目を覚まさなかったらどうしようかと思った。おまえは華奢すぎる。もう少し体力をつけた方がいいぞ…」

「目覚め…なければ…僕を置いて、先に…進めばいい…だけ…だよ」

「バカが。そんなことできるわけないだろ。フィーは…」

「なに…?」

「いや。それにっ、何もするなって言ったのに無茶しやがって…っ」

リアムが一瞬躊躇ためらって、僕の怪我をしていない方の肩に顔を埋めた。

頬に触れるリアムの柔らかい髪を右手で撫でながら、考えるよりも先に言葉が出た。

「何もしない…なんて、無理だよ…。僕だって…戦える。大切な人を…守りた…い」

リアムが勢いよく顔を上げて、真剣な表情で見つめてくる。

僕は何を言ってるんだろうと慌てて背けた顔を元に戻される。そして端正な顔が近づき唇を塞がれた。優しく食まれ舌先で突かれる。そっと開けた唇の隙間から舌が挿し込まれ、僕の舌に触れた。

「んんっ…」

や…おかしい。触れ合う舌も唇も、頭の中も、リアムに触れられている頬も密着している身体も全てが痺れている。この世にこんなに気持ちがいいことがあるなんて。でもどうしてこんな気持ちになるんだろう。わからない。全然わからないよ…。

僕は初めての感情に戸惑い、涙が溢れるのを止められなかった。

僕の涙に気づいたリアムが慌てて顔を離す。唇が離れてしまうのが何だか名残惜しくて、僕は思わず手を伸ばした。でもその手は握られることはなく空をかいて落ちた。

「もう…休め。まだ熱が引いてない」

「うん…」

リアムが僕の隣に寝転び背中を向ける。

僕は広い背中を見て胸が苦しくなった。

リアムが変だ。優しいけど素っ気ない。僕に触れたけど、それは何かを探っているように感じた。

僕が三日間眠っている間に何があった?僕を好きだという気持ちが間違いだと気づいたの?

知らず知らずに右手で左肩の傷に触れた。そして気づく。

そうか。リアムは僕の手当をしてくれた。その時にわかったんだ。僕が男だということが。

出会った時に、男だと助けなかったとはっきり言われている。男だと知られた僕はもう、リアムには必要ないのだろう。だってこんなにもはっきりと態度で拒絶されているじゃないか。

ごめんリアム。今まで黙ってて。

動けるようになったらリアムから離れよう。リアムの傍は心地よくて離れるのは寂しいけど仕方がない。それに嫌われることには慣れている。

ただ男だとわかっても捨て置かないで手当をしてくれたリアムは、本当に優しいと思う。そのことは感謝しなきゃ。

「リアム、手当…して…くれて…ありがとう」

リアムの背中にそっと囁いて、僕も背中を向けた。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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