テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#Paycheck
ゆゆゆゆ
ゆゆゆゆ
紳士と、囚われた姫君。
手首はネクタイで軽くまとめられたまま。
逃げる余地はない。
それでもエリオットは、まだ笑っていた。
「……で?」
小さく首を傾ける。
「どうするの」
挑発みたいな声。
チャンスは何も答えない。
ただ――ゆっくりと視線を落とす。
エリオットの首元。
緩められたネクタイ。
指が、そこにかかる。
「……っ」
エリオットの呼吸が、わずかに止まる。
するり、と。
チャンスの指が結び目に触れて、
ゆっくりほどいていく。
慣れた手つき。
急がない。
わざと時間をかけるみたいに。
「……ねぇ」
エリオットが小さく声を出す。
「なに」
「遅くない?」
「そうか?」
淡々と返しながら、さらに緩める。
布がほどけて、首元が開いていく。
エリオットの喉がわずかに上下する。
「……っ」
完全に外れる。
ネクタイがするりと抜けて、チャンスの手の中へ。
静寂。
何も起きない。
距離は近いままなのに――
表情を何も変えず、何もしてこない。
「……」
エリオットが一瞬待つ。
でも、何もない。
チャンスはただ見ているだけ。
その目で。
「……ねぇ」
少しだけ声が不満げになる。
「なに」
「外しただけ?」
「そうだな」
短い返事。
エリオットの眉が少し寄る。
「それだけ?」
「それだけだ」
完全に、余裕の声。
わざと。
沈黙が、長くなる。
近いのに、触れない。
それが逆に――落ち着かない。
エリオットが小さく息を吐く。
「……じれったい」
ぽつり。
チャンスの目がわずかに細くなる。
「そうか」
「うん」
少しだけ視線を逸らして、
すぐ戻す。
「早く、なんかしたら?」
言った瞬間。
空気が変わる。
チャンスがゆっくり一歩近づく。
距離はもう、完全に逃げられない。
「……へぇ」
低い声。
エリオットの顎が、軽く持ち上げられる。
視線が強制的に合う。
「その状態で」
一瞬だけ間を置く。
「何かされたいのか?」
静かに、はっきりと。
エリオットの目が大きく開く。
「……っ、」
言葉が詰まる。
一気に顔が熱くなる。
「ちが……」
否定しようとして、止まる。
うまく言葉が出ない。
チャンスはそれを見て、ほんの少しだけ笑う。
「さっきまでの余裕はどうした」
「……うるさい」
小さく返す。
視線を逸らそうとして、でも逸らせない。
顎を軽く支えられたまま。
「……別に」
エリオットは小さく息を吐く。
「そういう意味じゃないし」
「じゃあ、どういう意味だ」
すぐに返される。
逃げ道がない。
エリオットは一瞬だけ黙って――
それから、少しだけ目を細める。
照れたまま。
でも、まだ負けてない顔。
「……分かってるくせに」
小さく言う。
チャンスの目がわずかに揺れる。
一瞬の静寂。
どちらも動かない。
でも――空気だけが、じわじわ熱を持つ。
触れていないのに、近いまま。
何もしてこないのに、離れない。
その焦れったさの中で、
エリオットが小さく息を吐いた。
「……ほんと、ずるい」
チャンスは何も答えない。
ただ、少しだけ距離を詰める。
それでも――まだ触れない。