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夜の錆の都は、かすかに浮かぶ月明かりだけが唯一の明かりで、霧のように漂う霊の気配が街を覆っていた。ゴーストバスターとして派遣された鋼谷直樹は、鉄鎖を手にこの夜の街を巡回していたが、どうにも不安な予感が付きまとっていた。
「……この静けさが不気味すぎる」
ゴーストバスターとしての任務は幽霊の退治。しかし、ここ数日、幽霊退治に明け暮れる直樹に、妙な視線を感じることが増えていた。それは、物理的な視線というよりも、どこか心の奥にまで冷たく食い込むような……不気味なものだった。
「骸教団の連中がこちらを狙っているという噂があるが……まさかね」
直樹がぼそりと呟いたその瞬間、背後でかすかな足音が響いた。振り返ると、薄暗い路地の影に人影が浮かび上がる。そいつは、頭からすっぽりと黒いフードをかぶり、目だけが光る異様な姿をしていた。
「……ようやく現れたな、ゴーストバスターよ」
その声には異様な響きがあり、まるで魂そのものが話しかけてくるかのようだった。直樹は息を呑み、瞬時に鉄鎖を構える。
「骸教団か……そんなに俺が気に入らないってわけか?」
骸教団の男はにやりと口元を歪ませた。そして、フードの中から何かを取り出すと、それが闇に瞬く光を放った。彼が手にしているのは小さな銃型の霊具、「骸撃」と呼ばれる武器だった。
「我らが神々と一体化するためには、貴様のような異端者を排除するのが筋というものだ」
「一体化? お前らは何のために幽霊になりたがってるんだ?」
「我らは幽霊となり、神々と共に永遠を得るためだ。貴様には理解できんだろうがな」
骸教団の男が軽く銃口を向けた瞬間、霊弾が鋭い音を立てて直樹へと発射された。直樹は瞬時に鉄鎖を操り、鋼鉄の壁のようにそれを広げて弾を防いだ。
「そんなもんで俺を仕留められると思うなよ!」
直樹は鉄鎖を巻き上げ、反撃に出る。鉄鎖が唸りを上げて男に迫るが、男は驚くべき速度でそれをかわし、さらに次の霊弾を放ってきた。直樹は再度鉄鎖を盾のように使いながら、少しずつ距離を詰めていった。
「お前ら、なぜそこまで死ぬことに執着する?」
男は直樹を睨みつけながら、狂気じみた笑みを浮かべる。
「死は解放だ。死は救済であり、我らが神々と一つになる唯一の道だ。貴様のような異能を持つ者には理解できぬのだ!」
男は再び銃を構え、力を込めて霊弾を放つ。直樹は鉄鎖を振り回し、空中で弾を叩き落とした。そして、霊具である鉄鎖に全力を込め、男に向けて勢いよく投げつけた。
「俺には理解なんてしたくもない!」
鉄鎖が鋭い音を立て、男の銃を叩き落とし、そのまま彼の腕を拘束する。直樹は男に近づき、力を込めて鉄鎖を巻きつけた。男はもがきながらも、呪詛のような声を漏らす。
「貴様には……やがて我らが訪れることを覚えておくがいい。骸教団は、必ず貴様をその神々の祭壇に捧げてやる」
直樹は無言で鉄鎖を強く引き、男を地面に叩きつける。その瞬間、男の体から霊体が浮かび上がり、淡い光を放ちながら消えていった。骸教団の信者は、すでに半ば幽霊のような存在だったのだ。
夜が明け、直樹は一息つきながら霧の中を歩き始めた。骸教団の刺客を退けたが、彼らがこの街で活動を続けていることは明白だった。
「骸教団……しつこい連中だな。でも、ここが俺の派遣先なら、覚悟は決めないとな」
直樹は自らの異能とこの錆の都の行く末を改めて噛みしめた。この街にはまだ多くの闇が潜んでいる。彼の戦いは、今始まったばかりなのだ。