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結局、仁太がぬいぐるみを買い、二人で選んだ結果、玲はアクリル製のパンダのキーホルダーを二つ買い、さらに家族へのお土産として、「パンダまんじゅう」なるお菓子も一箱買った。
「パンダづくしだね」
「ホント。でも、どれもかわいい」
そう言って、うれしそうに笑う玲が一番かわいいと仁太は思う。
帰りの電車の中でも、玲はずっと、ぬいぐるみが入った大きな袋を抱きしめるようにして持っている。
その姿もかわいいし、どさくさにまぎれて、お揃いのグッズを手に入れられたこともうれしい。
「このキーホルダー、どこに付ける?」
「うーん、通学カバンに付けちゃう?」
「えっ、マジ? そうする?」
「うん」
お揃いのキーホルダーをカバンに付けて学校に通うのは、なんだか照れくさい気もするが、うれしいことに変わりはない。仁太はにやにやが止まらない。
電車に揺られながら、仁太は、今日撮った写真の中から、どれをスマートフォンの壁紙にしようかと考える。
家に帰って、じっくり見比べながら考えよう。そう思っていると、隣に座っている玲がこちらを向いて言った。
「あのね、この子に名前を付けちゃった」
ぬいぐるみのことらしい。
「へぇ、なんて?」
「仁太くんが買ってくれたから、『ジンジン』だよ」
「え……」
固まっている仁太を見て、玲が不安そうな顔をする。
「駄目?」
「いや、すごくいいと思うよ。うん」
駄目なわけがない。うれし過ぎて、言葉にならなくて固まっただけだ。
「そう? じゃあよかった」
ほっとしたように微笑む玲。まったく、どこまでかわいいんだ……。
その日の夜は、父と兄もいたので、家族揃って食卓を囲み、デザートに「パンダまんじゅう」を食べた。それはパンダの顔が描かれたまんじゅうで、玲は食べる前に写真を撮った。
それを見て、父が微笑みながら言う。
「玲くんは本当にパンダが好きなんだなぁ」
姉と兄も、何度も角度を変えてまんじゅうを撮る玲を微笑みながら見ていた。もちろん仁太も。
そして「ジンジン」は、玲のベッドの枕元に置かれた。ジンジンと名付けられたからには、仁太は自分の分身のような気がして、うれしいようなうらやましいような、なんとも言えない気持ちになったのだった。
ある日、国語の授業が終わった後で、担任の国語教師が仁太に声をかけた。
「委員長」
「はい」
そう呼ばれるときは、何か用事があるときだ。
「今日の放課後、空いてるか?」
「はぁ」
案の定、教師は言った。
「簡単な仕事を手伝ってほしいんだが」
「わかりました」
「じゃあ悪いけど、ホームルームの後、職員室に来てくれ」
「はい」
教師が教室を出て行った後、玲が近寄って来て言った。
「先生、なんだって?」
「放課後、なんか仕事を手伝ってくれってさ。クラス委員も楽じゃないよ」
「じゃあ、僕も手伝うよ」
「いいの? 悪いね」
玲が微笑んだ。
「だって、どうせ一緒に帰るんだから」
「そうか」
放課後、二人で職員室に行くと、教師が言った。
「日向も一緒か」
「はい。僕も手伝います」
「そうか、悪いな。じゃあ、あっち」
そう言って、職員室の奥の会議室へと促す。
中に入ると、長テーブルの上に、いくつかのプリントの山がある。漢字の問題集のようだ。
「これを端から一枚ずつ取って、ホチキスで留めてもらいたいんだ」
「わかりました」
二人が、椅子の上にカバンを置くと、それを見て教師が言った。
「おっ、それ、お揃いなのか」
キーホルダーのことらしい。玲が笑顔で答える。
「はい。動物園で買ったんです」
「ほぉ、動物園に行ったのか」
「はい」
照れくさい仁太は、会話に加わらず、いち早くホチキスを持ってプリントをまとめ始める。
会話はまだ続いている。
「最近二人は仲がいいんだな」
「はい」
「日向はこのところ、遅刻、欠席が減ったんじゃないか? いや、全然してないな」
「はい、仁太くん、いえ江崎くんのおかげです」
「うん?」
教師が、問いかけるように玲を見た。
「今、江崎くんのお宅にお世話になっていて」
「えっ? それは江崎の家に住んでるってことか?」
驚く教師に、玲はたじろぎ気味に答える。
「はぁ、居候っていうか……」
教師が、玲と仁太を見比べるようにしながら言った。
「そういうことは、ちゃんと報告してくれないと」
「え……そうなんですか?」
プリントをまとめるどころではなくなった。
「どういう経緯で、江崎の家で暮らすようになったんだ?」
玲がしどろもどろになりながら答える。
「えぇと、家庭の事情っていうか……」
「家庭の事情とは?」
教師は追及の手を緩めない。生徒の住所が変わったことを把握していないと、何かまずいことでもあるのだろうか。
「それは、えぇと……」
困っている玲に変わり、仁太が答える。
「ちょうど、日向くんが怪我をしたときなんですけど、日向くんのうちの人は留守がちなので、うちの姉が病院に連れて行って、多少介助が必要だったりしたので、そのままうちに来てもらって、それがきっかけでって感じです」
教師がどう受け取るかはともかく、嘘は言っていない。
「ふぅん、そうなのか。日向のうちの人も同意の上なんだな?」
「もちろんです」
「そうか。じゃあ、そのように書類を書き替えて、報告もしておくよ」
「報告、ですか」
「あぁ、職員会議でね」