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もちぷよ
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きゅー
2,024
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スマホを耳から離し、僕は画面を消し談話室のソファの向こうへと視線を走らせた。
しゅんの姿を探すと、少し離れたプレイルームのような場所で小さな子供たちに紛れて楽しそうにはしゃいでいる彼をすぐに見つけた。
子供たちはみんな病衣やパジャマを着ていて、この病院に入院している子たちなのだと分かる。
なんだかその光景がもの凄く微笑ましくて、もう少しだけ見ていたくて、僕は車いすに乗ったまま、廊下の陰からこっそりと彼らの様子を覗き込んだ。
どうやら今度は、絵本の読み聞かせを始めたらしい。
子供たちも嬉そうに、しゅんの周りへとちょこんと集まっていく。
彼が子供好きなのは前から何となく知っていたけれど、まさかここまで子供の扱いが上手だとは知らなかった。
新しい一面を見た気がして、胸の奥がじんわりと温かくなる。
その時、僕のパジャマの袖をぐいっと引っ張る、小さな手に気付いた。
顔を下げると、そこにはプリンセスの人形を大切そうに抱えた、五歳くらいの可愛らしい女の子が立っていた。
「お兄ちゃんは、王子様?」
あまりにも突拍子もない質問に、僕は「はぇ?」などと間抜けな声を漏らしてしまった。
「えっと……僕は残念ながら、王子様じゃないの。ごめんね?」
「そうなの? キラキラしてるから、私の王子様なのかと思った!」
キラキラかぁ……。
頭に包帯を巻いて車いすに乗った、二十代半ばの男が王子様に見えるのだろうか。
などと現実的な思考が頭をよぎりつつも、こんなに可愛い女の子に王子様なんて言われるのは、決して悪い気分ではなかった。
僕は困ったように笑いながら、女の子の頭を優しく撫でた。
女の子は嬉そうに目を細めながらも、恥ずかしそうにもじもじと身をよじっている。
「みて? あそこにもっと、かっこいい王子様がいるよ」
僕は、子供たちに囲まれて絵本を読んでいる彼を指差した。
女の子はしゅんの方をチラッと見て、にまぁっと可愛らしく笑う。
そして、なぜか僕の手をきゅっと両手で握りしめてきた。
「でも、私はお兄ちゃんが好き!!」
曇りのない、満面の笑顔でそう言い切る。
僕は思わず頬を緩ませながら、「そ、そう?」などと少しドギマギとした反応を返してしまった。
僕が一人で慌てているうちに、女の子は僕の乗った車いすのグリップを小さな手で掴み、ぐいぐいとみんなのいる方へと押し始めた。
「みんなー! 王子様連れてきたよー!」
その元気な発言に、プレイルームにいた全員の視線が一斉にこちらを向く。
「おーう! ゆずちゃん! 王子様連れてきてくれたん?」
「うん! 私の王子様!」
どうやら僕は、このゆずちゃんというプリンセス専属の王子様ということになってしまったらしい。
「ゆずちゃん、見る目あるやん! 俺も柔太朗王子様、大好きなんよ〜。ライバルやねぇ」
しゅんは満面の笑みを浮かべ、本当に楽しそうにゆずちゃんと会話を交わしている。
本当に子供が好きなんだなぁと、彼が子供たちと目線を合わせて遊ぶ姿を、僕は車いすの上から穏やかな気持ちで見つめていた。
「さぁーてと! お兄ちゃんたちはもう、そろそろ部屋に戻るな?」
しばらくしてしゅんがそう言うと、子供たちは一斉に残念そうな声を上げて文句を言い始めた。
「ふはは、また明日も来るって! 待っててな!」
その約束に、子供たちもようやく満足したように笑顔で僕たちを見送ってくれた。
彼が後ろから押してくれる車いすに揺られながら、僕たちは中庭を少しだけ散歩してから、静かな病室へと戻った。午後からはいくつかの精密検査が入っていたため、しゅんは一度会社へと戻っていった。
それから週末にかけて、僕は病室のベッドの上でしっかりと身体を休めた。
数日間の点滴と丁寧な療養のおかげで、貧血気味でフラフラとしていた僕の身体も、驚くほどすっきりと回復していった。
週明けに行われた最後の検査でも特に異常は見つからず、明日には無事に退院できることが正式に決まった。
これなら予定通り、仕事に復帰できる。
その旨を会社と、彼ら二人にメッセージで伝え、僕はその夜、早めにベッドに入って目を閉じた。
ここ最近、本当に色んなことがあった。
でも、まだ何もかもが手探りのままで、僕たちの時間は止まったままだ。
……しゅんへの、返事。
窓の外の静かな夜空を見つめながら、僕は消えかけの首元の痕へとそっと指先を這わせ、今度こそ真っ直ぐに彼と向き合うための未来を、心の奥で静かに描き始めるのだった。
to be continued…