テラーノベル
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“あ、あの子だよ…例の子…”
“ねえ…あの子って噂の子だよね…”
学校中に飛び交う噂話は全て宏斗のものだった。ある意味視線は独り占めだし、学校で2番目に有名人であることも間違いなかった。
理由は明白______如月律にキスをされたのだ。
___________
「皐月」
力強く腕を引かれ、柔らかな唇が宏斗の唇を覆った。
辺りは静まり返り、漠然とした空気となった。
「好き」
如月のそのたった二言だけがやけに響いた。
脳内は真っ白で理解が追い付かない宏斗は、言葉すら出なかった。
おかしい、だってここ少女漫画の世界なんだぞ……。完璧なヒーローが俺を好きになるわけが……
「さつ……宏斗。こっち見て」
突然名前で呼ばれて不覚にも鼓動が跳ねる。周りの生徒たちは顔を赤らめてこちらを見ていた。
「ちょっと……ちょっと待て!少し頭冷やせ!」
如月の腕を引き、屋上へ連れて行った。意図もわからない自分の鼓動にイライラしながらも、宏斗は必死に冷静を装う。一方、如月律は宏斗のされるがままに着いていき、満更でもなさそうに少しだけ口角を上げた。
「お前、どういうつもりだよ!」
「どういうって、そのままの意味だけど」
風に煽られる宏斗の髪は、乱れていく一方なのに、如月の髪の毛は乱れるどころか絵になるほどの美しさだった。そんな主役が自分を好きだなんて心底信じられなかった。
「そんなん、ただの一時的な感情だろ……」
力強い如月の視線から耐えられず、目線を逸らし一歩引く。なのに、彼はゆっくりと距離を縮め宏斗を逃がさなかった。
「勝手に俺の気持ち決めつけないで」
「…っ」
「俺だって、こんな感情初めてなんだよ」
耳と頬に赤斜線、手の甲で顔を隠し、また髪の毛が風になびかれる。
これって……完全にヒロインに向ける表情とセリフだろ…………。
なのに、相手が俺だなんて……。
「宏斗、好きだよ」
真剣な眼差しで宏斗を見つめた瞬間、雲に隠れていた太陽が光を刺した。いつだって、神様は如月律の味方だった。
しかし、好きと言われても恋愛経験のないどころか、男相手に想いを寄せられるなんて未だかつて初めての経験だった。
ただ如月は返事を待つように、じっと宏斗を見つめていた。
しかし、返ってきたのは――
「おう、ありがとう」
返す言葉も見つからない宏斗に、如月律は不服そうに眉を寄せた。
「それだけ?」
「え?」
「宏斗は俺に対してどう思ってることとかないの?」
あ、えーーーーーーーー?!そういう感じ!?
男と付き合うとか考えたこともないし、そもそも…ここの世界の人間じゃないし……。
目を泳がせながら、返す言葉を探す。話を逸らさなければと、話題を考えているうちに如月律は宏斗を強引に抱きしめた。
「宏斗、付き合って」
自分でも驚くほど、鼓動が早かった。シトラスの香りに包まれ、如月律の体温は心地よかった。しかし、宏斗はそんなことを考えている余裕はなかった。
「と!友達からで!」
「嫌だ」
「順序っていうもんがあるだろうが!」
「俺、そういうの待てない」
抱きしめる力が徐々に強くなる。一見、感情が無さそうに見える彼がこんなにも必死になる姿は誰が想像できただろうか。
宏斗は、如月律の肩に熱くなった顔を隠した。
「まだお互いのことちゃんとわかってないだろ」
如月の抱きしめる力が弱まり、宏斗の顔を覗く。
赤くなった宏斗の顔を見て満足そうに笑った。
__こいつ、こんな顔するんだ。
「俺のこともっと知ったら、好きになってくれる?」
「……わ、わかんない」
如月のすらっとした大きな手が宏斗の顔を包んだ。
「顔は正直なんだね」
そう言って、また唇を落とした。如月の背景に飛び交うキラキラのオーラは鬱陶しく、眩しかった。
「じゃあ、友達からでもいいよ」
如月は宏斗から離れて、屋上の出口へと向かった。
ドアに手をかけて、真っ赤になった宏斗を見つめ微笑んだ。
「すぐに俺のものにしてみせるから」
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噂話の主人公は顔面蒼白で校舎をくぐった。別の意味での学校の有名人となり、宏斗のイメージは完全に、
“如月律にキスされた男”
である。
靴箱にローファーを入れ、上履きを取り出すと後ろから覆いかぶさるように手を突かれる。いわゆる______壁ドンだ。
「宏斗、おはよう」
朝から輝かしいオーラをまとって空間に華を咲かせる。
気づけば廊下の奥から、ざわざわと人が集まってくる気配がした。
「き、如月…おはっ」
“おはよう”と言いかけた瞬間、頬をつままれ如月は眉をひそめる。
「律って呼んでよ」
見たこともない如月律の表情と言動に“バタバタ”と女子生徒たちが倒れていく。それはそうと、今まで感情が薄かった彼がこんな表情をするなんて誰も想像しなかっただろう。
「お、おはよう…りつ」
律は目を細め、ほんの少しだけ頬を赤らめた。
そして、また女子生徒が倒れる音が廊下に響いた。
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