季節は巡って春になった。
またこの季節、三年という間は開いたがその間にもぽつ、ぽつと点のように会っていたため、そこまで久しい感じはしない。だが、一緒の学校……まあ、学校つっても職業学校だが。給料もちびっと出るし、一人前の警察官になる為の修行場と俺は捉えている。
それに、隣には彼奴がいる。
「どう、どう!? 制服に合ってる!?」
「何か、幼く見えるのは気のせいか?」
「童顔って事!? ありがとう!」
「ポジティヴだなあ……」
制服を着て、やけに浮かれている空を見て変わってないなあと思いつつも、それがいいと口には出さなかったが、内心思っていた。
俺達は、今日から警察官になるための一歩を踏み出す。入校式の日だ。
「それで、警察で良かったのかよ」
「何が?」
「進路の話し」
そう聞けば「今更?」とクスクスと笑われてしまった。こっちは、もしかしたら自分のあの言葉でそこまで興味なかった世界に引き込んでしまったかも知れないしと負い目を感じているというのに。だが、そんな心配もないようで、空は俺の方を見る。
少し大人びた顔も、入校式のために切って短くなった癖ッ毛も、その青い澄んだ空の瞳も、何も変わっていなかった。あの時のままだ。俺の知っている空。
「見惚れてた?」
「いいや、変わってないなあと思って」
「そりゃあ、殆ど毎日顔会わせてたし。でも、また毎日会わせることになるね。幼馴染みで、親友で、これからは同じ時間を歩む同期って。青春って感じしない?」
と、空は笑っている。
その笑顔を見ると、俺もつられて笑ってしまう。
「確かに、部屋も一緒だといいな」
「相部屋だよ~四人部屋だって聞いた。ひぃ、怖い人じゃなかったら良いな」
「そんなんにびびってたら、警察なんてやってけねえぜ?」
分かってるって。と空は言ったが、若干震えていて、その様子が立ち上がったばかりの子鹿のようで笑えてしまった。
空の言うとおり、これからは同期達と共同生活をする事になる。双馬市にある警察学校に入校した俺達は高卒のため、十ヶ月共に生活することとなる。規則も厳しく、外出外泊も許可が必要だ。それも、最初の一ヶ月は外に出られないと言っても過言ではない。勿論、スマホの使用も娯楽の道具の持ち込みも禁止だ。
中学生の頃はゲームなどしたが、高校生になってからは部活一本だったため、ゲームもぱったりやめ、有り余る体力を使いたくて趣味でボルダリングを始めた。体一つあればどうにかなる娯楽施設を転々としてきたため、そこら辺はあまり気にしていない。最小限の道具で一人キャンプもしていたためそういう体力面では自信がある。
空の方は倒れそうだったが。
「でも、オレ人見知りだし……ミオミオがいるって分かってるから、矢っ張り一緒がいいな……とか思っちゃうんだよ」
「お、おぅ……俺もそりゃ、お前と一緒がいい」
「でしょ!? だから、警察にしたの! それに、警察なら色々サポートしてくれるだろうし、何より……ミオミオの側にいたいし」
「最後聞こえなかったぞ」
「なんでもないよー」
「嘘つけ! 絶対なんか言ってただろ!」
「さあ? って、遅れたら怒られるじゃん。もうミオミオの道連れは嫌だからね!」
と、空はぴゅーっと効果音が聞えるぐらい早足でいってしまった。
あいつ、道覚えてんのか? と、不安になりながらも俺は空の後を追った。若干の方向音痴も混ざっており、まだ警察学校の施設や地形を覚えきれていないんじゃないかと思い、俺は空を追った。案の定、足を止めておどおどとしている。これから、厳しい訓練に耐えられるのかと不安に成る程だった。
「空」
「うひゃいっ! びっくりしたぁ。何だ、ミオミオか」
「俺以外誰がいるんだよ」
「いや、いっぱいいるでしょ」
空は、正論をビシッと返しつつ、安心したような目で俺を見上げた。そういえば、結構身長差が出来ちまったなあと思う。一0㎝近くは差があるんじゃないかと。
(小さくて、可愛いな……ハムスターみてえだし)
ついそんな事を思ってしまって、頭をぶんぶんと横に振る。俺は何を考えているんだと、変な妄想を振り払うように。でも、その小さな口にいっぱい食べ物詰め込んで頬膨らますんだろうなとも妄想してしまった。幼馴染みに、親友を何だと思っているんだという話になる。
だが、空は首を傾げながらこちらを見ていて、その仕草にドキッとしてしまう。空は俺の顔を覗き込む。
「ミオミオ?」
「あーあー入校式、会場あっちだ。ほらいくぞ!」
「おっ? 大胆。オレの手繫いでくれちゃって」
「迷子になるからな」
走り出した俺についてくるように、ギュッと手を握り返して空も引っ張られるように走り出す。空は「確かに」と自分の方向音痴を認めつつ、何処か嬉しそうにも見えた。
それから、無事に入校式を終え部屋に案内された。
部屋割りは、男女別で書いてあったとおり四人の相部屋だった。そして奇跡的にも空と同じになり俺達は、一番端の部屋となった。
部屋に入って、俺達は荷物を置く。
「取り敢えず、ミオミオと一緒で良かった」
「運命って奴かもな」
「言えてる」
と、少し狭いようで広い部屋で二人で笑う。俺達の声は結構響いていた。
それから、あと二人いるはずなので、俺達は待ち伏せしてやろうと二人してとても警察とは思えない悪い顔をし、部屋の外に出ることにした。
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