すやすやと眠る水を眺め、水の部屋の
ドアを開ける
「お母さん、水寝たよ」
水の部屋のドアの横にいた母に声をかけた
母は既に電話を終えていて、ちょうど目が合った
「そう、お疲れ様、あと桃」
「黒のお迎えに行ってあげてくれない?」
「…え、なんで?」
「体調が悪いみたい」
母はそう呟いて「水を見てる」と
水の部屋に入っていった
「分かった…、」
誰も聞きはずのない廊下に、声を漏らした
そして、玄関に向かって歩みを進める
玄関を開けると、朝の風が体を共鳴させる
1歩、2歩と歩みを進めただけなのに
もう汗をかきそう
半分は、俺の運動不足が原因だが
そのことは目を瞑るとしよう
幼い頃に引っ越して来たこの街
引っ越した理由となった自然は、
誰が見ても「綺麗」と呟くだろう
山道を抜けるとさっきまでの緑の自然とは
打って代わり、水色の海と空が俺の体を 覆った
綺麗に太陽の光を反射する海に
思わず眉間に皺を寄せてしまう
俺には眩しすぎる光だ
「はぁ、…」
思わず大きなため息を吐いてしまったが
人がいないので気にしない
数十分経ったぐらいだろうか
黒と俺の学校に到着した
俺が学校に着くと同時に、
全校生徒の視線を奪った
3年にとっては来なくなったクラスメイト
1年、2年にとっては今日初めて顔を知る先輩
人に見られるのが苦手な俺は、
パーカーのフードを目元まで深く被り
約2年休んだ学校に足を進めた
廊下をまっすぐ突き進み、職員室の
扉の前に立つ
一息吐き、職員室のドアをノックし、
扉を開ける
「失礼します、…」
「2年賽ノ目黒のお迎えに来ました」
教員全員からの視線が痛い
数秒沈黙が続いた中、ある中年の
少し小太りした教師が立ち上がった
初めて見た顔だ
俺が不登校になった後に来た教師だろう
「賽ノ目くんのお迎えですね」
「保健室はこちらです、”お父さん”」
「ぁ、…っ」
思わず体が固まる
「お父さん」、言われたことも無い言葉
童顔な黒に比べれば、俺らは年の離れた兄弟
下手すれば親子に見えるのだろうか
「俺と黒は年後なんです」と、
今すぐ泣き叫びたい欲を押し込み
ただ俺の前にいる先生の背中を追った
足音だけが響いている廊下
おそらくさっきまでは休み時間で、
今は授業中なのだろう
そう考えていると、「保健室」と書かれた
部屋が見えてきた
保健室に着くと、教師は俺の方を振り向き
微笑んだ
何笑ってるんだ、と腹が立つ
「それではお大事に」
小走りで帰る先生の背中を眺め、
震える手で保健室のドアを開ける
それと同時に、白い髪の男の子と目が合い
カーテン越しの黒の影も見えた
その白い髪の子は、カーテンを開け、
俺と黒が目が合うようになった
…なにか話さないといけない
でも分からない
何を話したらいい?
一年以上、まともな会話をしなかった俺ら
黒から話しかけてくれる事以外、
俺らが話すことはなかった
話と言っても、言葉のキャッチボールが
上手く続くこと無く、いつも俺が強制的に終わらせてしまう
「…黒、帰るぞ」
相変わらず冷たい会話だ
もう少し暖かい会話が出来たらいいのだが
それが出来たら俺はもう苦労はしていない
「あ、…おんっ」
そう言うと、黒はベットから降りて、
白い髪の子からバッグを受け取り、
俺の方へやってきた
俺の隣にやってきた黒を確認し、
保健室の扉を閉めた
そして、出口へと向かっていく
黒と通学路に着いて数分
「電車を使えば良かった」と後悔が
頭をよぎる
…、黒は今体調は大丈夫かな
顔色を伺うため後ろを振り向く
顔色が真っ青を超えて真っ白だった
本人は自覚してないのかキョトンと俺を
見つめてくる
俺を見る瞳はとても透き通っていて、
俺の暗く澄んだ目とは違う
その瞳に苛立ちを覚える
『大丈夫?』
『なんで言わなかったの』
『無理しないで』
言いたいことがまとめられない
「大丈夫?」とも聞きたいが、
帰ってくる言葉は知っている
心配もしたい、抱きしめたい が
朝の様子を見ていた黒からしたら、
急な手のひら返しだろう
俺は何をしたら正解なのか
求めているうちに俺が出した答えは
「弟を叩く」ことだった
…手を挙げてハッとする
何をしてるんだ、俺は
違う、違う、違うだろ?
俺は何がしたかった?
違う、怖い、酷い、憎い、辛い
体が毒に侵されていくのが伝わる
黒、俺はお前が大っ嫌いだ
なんでもかんでもお前の方が優秀で、
俺が何年も努力した事も、
お前は数ヶ月で俺のことも越してしまう
水もお前の方が懐いてるよ
そりゃそうだもんな、優しくて賢い兄と、
無愛想で不登校な兄に比べたら、
当たり前に前者を選ぶよな
分かってるよそんな事、水と母の
行動を見たら、身をもって知ってるよ
それなのにお前は、なんで
「お兄ちゃん」って着いてくるんだ
そんなお前が憎い、嫌いだ
顔も見たくない、お前と 俺の全く違う 顔を見たら、俺が辛くなるから
頼むから、もう俺の名前を呼ぶな
「お兄ちゃん」って呼ぶな
俺の方が上だという事を自覚させないでくれ
だから、俺は大っ嫌い弟を
「…、俺は帰るから」
突き放した
コメント
5件
うわわわ……😭 辛いですね……😭 今回通知来ました!!
やばいコメントしてなかった! 次回♡2000 あ、後新連載(ニキ主人公ではないやつ)初めようとしてます