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ギターの弦を、そっと鳴らす。
それだけで、心の奥がざわめいた。
冥晶と響き合ったあの記憶が残る身体に、
今度はもうひとつの“闇”――聲哭の気配が、確かに混じっていた。
聲哭:「なあ、“ないこ”。お前はそれでも歌えるのか?」
ないこ:「ああ……どんな声になっても、俺の声だからな」
聲哭:「……なら、俺も、お前の声になる」
ふたりの“声”が、心の中で重なった。
怒り、哀しみ、諦め、愛しさ――
人には見せられなかったすべての感情が、
ギターの音に、歌に、変わっていく。
ないこ:「これは……俺ひとりの音じゃない。
冥晶と、お前と、そして“まだ言葉にならない何か”との共鳴だ」
聲哭:「……“まだ言葉にならない何か”、か。
それはきっと、まだ目を背けてる“最後の影”だろうな」
ないこ:「……ああ。けど、そいつにも、ちゃんと会いにいくよ」
音が空間に満ちる。
それは決して明るくはない旋律。けれど美しかった。
ないこ:「これが……“俺たち”の曲」
聲哭:「名を持たぬ叫びが、やっと声になったな」
*
現実の部屋に戻る。
録音機材の前に座るないこ。
その目は、これまでで一番穏やかで、まっすぐだった。
録音ボタンを押す。
ないこ:「――『混沌ブギ』、歌ってみた」
画面には、ひとつの影が映り込む。
それは、冥晶でも、聲哭でもない。
まだ名前を持たない“第三の何か”が、静かに“ないこ”の背後に立っていた。
次回:「第三十六話:三つ目の心、名を求めて」