「それでは将棋を始めましょうか 」
と、右膝に大量の湿布を貼っている僕は目の前のデリヘル嬢”さくら”に言った。一緒に将棋をしたいが為だけに、僕は今日、大金を用意して彼女を家に招き入れた。
「お客さん、過去一で健全な依頼ですね 」
「人生も終盤戦なんで、健全に詰ませたいんです」
「ちょっと何言ってるかわかんないです 」
机の上には、ど真ん中にワッサァと大きな盤、脇におしぼりとドクターペッパーが在る。
対面にはさくら
右にはペットのハムスター”コックローチ”
左にはペットのハムスター”モスキート”が
在る。
「将棋のルールは分かりますか?」
僕はそう言うと彼女は立ち上がって、独特なサイドステップを踏みながら歌いだす。
「歌ですか。セッションしようぜ!」
僕も彼女の動きに合わせて肛門括約筋をギュギュッと締めながら、サイドステップを踏んだ。
(Lyrics)
私のキングはキンキンよ(キンキンよ)
あなたのクイーンはクイクイよ(クイクイよ)
私のキングがあなたのクイーンに
あなたのクイーンが私のキングに
はっちゃめっちゃかバンバン!
ドンガラガッシャンババババン!
チェックメイトぉおお♪♪
バチバチバチバチバチバチ!!
部屋中に魂の喝采が鳴り響いた
「完璧じゃないですか、それじゃ始めましょうか」
ここで、将棋のルールについて軽く説明させていただく。
将棋とは白と黒の石を交互に置いて、陣地を多く取った方が勝ちという、世界最古級のボードゲームだ。主に日本、中国、韓国で発展した。
盤には19×19の格子がある、駒は白石と黒石のみ、順番は黒が先手だ。
相手の石を上下左右から完全に囲むと、その石は盤から取り除ける。石は角でつながっていても囲まれていたらアウトだ。
「それじゃ配りますね」
モスキートの口の中から、54枚のカード風の物を取り出し、参加者全員に配り始める。
ほう…僕の手札は、
4が2枚(♧&♤)
5が3枚(♧&♡&♢)
8が1枚(♧)
9が2枚(♡&♢)
Qが2枚(♧&♤)
Kが1枚(♧)
Aが1枚(♤)
ジョーカー1枚
の計13枚。
ジョーカーは2枚だから、他の3人の中に1枚持ってる奴がいるな。
「ルールはどうしましょうか。二歩はアリにしますか?」
「そうですね。アリにしましょう。あと、
“打ち歩詰め”、”千日手”、”着手禁止点”、
“三三”、”四四”、”長連”もアリにしましょうか 」
「分かりました」
カードを扇のように広げ、僕は無意識のうちに指を走らせていた。
左から弱い順…4、5、8と、いつもの癖で並び替えていく。紙の擦れる乾いた音が、部屋に小さく響いた。
そのとき、足の指先の感触が一瞬だけ途切れた。
「あ」
視界の中央で、黒い影がふわりと宙を舞う。重力に引かれるまま、くるりと一回転して、赤と黒の奇妙な笑顔をこちらに向けたまま落ちていく。
カツン♪
床に伏したそれは、場違いなほど鮮やかなジョーカーだった。
「ご主人様、ジョーカーを落としたんだがね」
と、コックローチが言う。
「おい、何見てんだお前。ぶっ飛ばすぞゴラァアアア!!!!」
僕はコックローチに殴りかかった。
気づくと僕は地面に叩きつけられていた。
「すみません」
順番はデリヘル嬢”さくら”から時計回りという風に納得させられた。
「私のターン!!6を2枚(♧&♢)召喚!!ターンエンド!!」
「朕のターン!!10を2枚(♤&♢)召喚だがね!!これにより10捨ての効果が発揮されるだがね!!朕はこの2枚のカードを捨てるだがね!」
コックローチはジョーカー1枚と2(♢)を1枚、捨てた。
「僕の番かぁ…何を出そう…」
ここは、初手から1番強いカードを出すのが定石!!
「僕のターン!!A(♤)、ジョーカーを召喚!!」
突然だが、僕の脳みそはミジンコの脳みそよりも小さい。そのため、僕は今まで女性経験はおろか男性経験も一度もない。
「あ…あたし…出せるものが…無いわ。もう… 」
モスキートが盤の上にある首吊り用のロープに手をかける。
「ひぇっ…!」
「ちょ待てよ!!おい!自殺なんかやめろ!!これからの未来の楽しいこと考えようぜ!」
「一緒に水族館でイルカと一緒に泳いだりとか!動物園でゴリラにダンスを披露するとか!刑事裁判を見に行くとか!銀行のATMで金を引き落とすこととか!」
僕のとても素晴らしい必死の説得のおかげでモスキートのメンタルは全回復した!
モスキートは精神がちょっとブラックで、たまに自殺を図ろうとしてしまう。
だが、僕は絶対そんなことはさせない。
だって僕らは一心同体、付和雷同、才色兼備、呉越同舟なんだから。
「私…パスします」
「さっき捨てたから出せないんだがね。朕もパスするんだがね」
「よっしゃ僕が親だ!!4(♧)を出すぜ 」
その後はモスキートが7(♢)を出して、7渡しの効果で、デリヘル嬢”さくら”に2(♤)を渡した。
さくらは10(♡)を出して、8(♤)を捨てた。
コックローチはQ(♢)を出した。Qボンバーの効果で、コックローチは”右腕”を指定し、4人の右腕が爆散した。
「僕のターンか…ん?」
コックローチが出したQ(♢)をよく見ると、
と書いてある。
「何だこれ?」
「ご主人様、ここに書いてあることは絶対だがね。ジュース買ってくるんだがね」
僕は今、両足を扇風機に変えて暗い空の中を飛んでいる。右腕が無いから、飛行姿勢が上手く安定しない。家から最寄りの自販機まで10kmある。
やっとのことで到着すると、 500mlのミネラルウォーター (280円)を購入した。
それから猛スピードで帰宅した。
山の一番上はQ(♢)だ。
油性マジックでK(♧)に何か書いたあと、そのカードを召喚した。
キエエエエエエとモスキートが叫んだあと、家を飛び出した。1分後、モスキートが帰宅した。
「皆さんの分もどうぞですわ!」
1人分のファミチキだけでよかったのだが、なんと全員分を買ってきたのだ。
と、感謝の言葉をデリヘル嬢”さくら”、僕、コックローチ、モスキートが言う。
衣はザックザク、外はモッチモチ、中はネッチョネチョ、下はトロットロで大変美味だ。
モスキートがA(♧)を召喚した。
デリヘル嬢”さくら”が浴室に向かったあと、
冷たあああい!!右腕が無いから上手く洗えなーい!と浴室から叫び声が聞こえてきた。
「すんませーん!今ガス代滞納してて止められてるんです!」
デリヘル嬢”さくら”が独特なサイドステップを踏みながら、フィールドに戻ってきた。
さくらが2(♧)を出した。
「や…いや…朕…嫌だがね! 」
「いきますよ」
100面ダイスを振って97が出た。
アチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョチョ!!
デリヘル嬢”さくら”から繰り出される左手97連発ビンタ!
コックローチは股間を押さえながら悶絶している。
パスが3連続いて、さくらが親だ。
「はい、Q(♡)を…」
さくらがカードを召喚しようとしたその時だった…
間の抜けた電子音が、白熱した戦場に水を差すように鳴り響く。
「誰だ?こんな時間に」
「…やっと来たんだがね」
コックローチが玄関に行って数十秒後、
フィールドに戻ってきたコックローチの手には、白い箱の山が抱えられていた。
「上寿司4人前なんだがね。将棋が長引くと思ったから注文しといたんだがね」
「お、気が利くじゃーん」
「美味しそう…」
「早く食べたいですわ! 」
蓋を開けた瞬間、酢飯と魚の香りが一気に広がり、張り詰めていた空気が、嘘みたいにほどけていく。マグロの青、サーモンの黒、玉子の黄色、パンダの白、イカのピンクなど、極彩色の寿司たちが雄弁に僕らの視線を奪った。
箸が配られ、箸を蹴る。
醤油皿が並べられ、醤油皿を蹴る。
再度、箸を配り、醤油皿を並べた。
僕は左利きだから、右腕が無くても食べるのに何の支障も無いが、他の3人は食べるのに苦労している。
僕は”しょうがねぇなあ”という気持ちで、自身の再生能力でデリヘル嬢”さくら”の右腕を治した。
「ありがとうございます」
「朕も治してほしいんだがね」
「あたしもお願いしますわ!」
他2人も治した。
全員が寿司を食べ終えると、
将棋を再開した。
Q(♡)を出したデリヘル嬢”さくら”は”右腕”を指定した。
コックローチはK(♢)を出した。
僕はパス。
モスキートはパス。
デリヘル嬢”さくら”はA(♡)を出した。
コックローチは2(♡)を出した。
他3人はパス。
コックローチが親となり、4(♡)を出した。
僕は8(♧)を出し、ここで8切りが発動した。山が崩壊し、僕が親となった。
ここで、僕は勝負をしかける!
5を3枚だあ!!!!
「な…パスですわ」
「パス」
「パスなんだがね」
Qを2枚だして…
「Qボンバー発動!!4と9を指定だ!」
その後は、なんやかんやあって
2位 デリヘル嬢”さくら “
3位 モスキート
4位 コックローチ
という結果になった。
翌朝、目が覚めると…もう家にはさくらは居なくなっていた。ゴミ箱にあったデリヘル代83000円が入っていた茶封筒は無くなっていた。きっと、さくらが持っていったのだろう。
キッチンに行くと、
全員分の寿司桶、箸、醤油皿が綺麗になっていた。
モスキート、コックローチはまだ寝ている。
キッチンに紙があったので見てみると、そこには…
皆と一緒に将棋が出来て楽しかったよ。ありがとう。右腕はあなたの能力を無理やり行使させて治しました。
寿司桶、箸、醤油皿は洗っておきました。
僕は紙を置いて…一言呟いた。
「エッチしておけば良かったかな…」
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