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目覚めたシャーリィはレイミに膝枕をされており、心配そうに皆が覗き込んでいた。

「おいシャーリィ、大丈夫か?」

「最高の気分です。今なら笑える気がしますよ」

ルイスが声をかけると、シャーリィは満面の笑みを浮かべたまま答えた。

「それなら良いんだけどな……いきなり光ったと思ったらお前が倒れたから、生きた心地がしなかったぜ」

尚、倒れかけたシャーリィを慌てて支えたのはルイスである。

「済まねぇ、嬢ちゃん。まさかこんなことになるとは思わなかった」

ドルマンが申し訳なさそうに謝る。彼は重大な場面で発生したアクシデントに責任を感じていた。

しかし、それに対してシャーリィは笑みを崩さぬまま答える。

「今の現象を予想できた人はおそらくこの世界に居ないと思います。私としても不思議な体験をしましたから」

「何があったのですか?お姉さま」

レイミの質問に直ぐには答えず、シャーリィはベルモンドに視線を向ける。

「ベル、時間は?」

「安心しな、お嬢が眠ってたのは五分だけだ。まだ休んでて良いぞ」

ベルモンドの言葉を聞いて、シャーリィは自分に起きた現象について簡単に説明した。誰もが真剣に耳を傾けて話を聞いた。

「では、お姉さまは勇者様とお会いしたのですか?」

「あれが夢でなければ、ですが、ただ確証はあります。先ほどから剣が手に良く馴染むような気がしますから」

ずっと握っている勇者の剣を見ながら、シャーリィは確信していた。自分の思いは少なからず勇者の胸に届いたのだと言うことを。

「嬢ちゃんの力は勇者の力だ。想いを、力を受け継いだとしても不思議じゃねぇな」

ドルマンも腕を組みながら答える。

「なんだか分からねぇけど、シャーリィが無事ならそれで良いさ。それに、強くなったんだろ?」

「これから試しますよ、ルイ」

ルイスの言葉に答えながらシャーリィは立ち上がり土を叩いて落とし、いつも身に付けているルミのケープマントを外す。そして傍で控えていたセレスティンに手渡す。

「セレスティン、お願いします。汚したくはありませんから」

「お預かり致します、お嬢様。御武運を」

「はい。さて、行きましょうか」

ちょっとしたアクシデントはあったものの、シャーリィ一行はもっと慌ただしい『黄昏』南側の陣地へと移動した。

この南部陣地は一週間ばかりで徹底的に強化されており、塹壕が幾重にも張り巡らされ鉄条網も施設され、更に現在『暁』が装備しているQF4.5インチ野戦砲も、保有する六門全てが砲兵陣地に配置されていた。

前線では改良された三式機関銃が四挺用意されているが、『エルダス・ファミリー』との戦いの戦訓を取り入れて不測の事態が起きた場合は、速やかに機関銃兵は歩兵に転換できるように訓練されていた。

極めつけは虎の子であり三者連合との戦いではほとんど出番の無かったマークIV戦車四両を、防衛戦力として配置しているものである。その装甲が魔物に対して何処まで通用するか分からなかったため、暁で少しばかりの改良を施していた。

「お嬢様、やはり陣頭指揮を執られるのですか?」

シャーリィ達を迎えたマクベスは、天幕を張っただけの野戦司令部でテーブルに広げた地図を囲みながらシャーリィに問いかける。周囲は司令部要員達が慌ただしく行き交っていた。

「そのつもりです。とは言え、基本的にはマクベスさんにお願いするつもりです」

「指揮官先頭ですな?皆の士気も上がりましょう」

「だと良いのですが。状況は?」

「あれからも調査隊から随時報告が上がっております。魔物はアーマーリザード、アーマードボアを主体として数は四百以上。『ロウェルの森』から真っ直ぐに北上しております。このまま行けば、我が黄昏の町へ二時間以内に到達するものと思われます」

「思ったよりも時間に余裕があるな」

「ああ、リナ姐さんの提案を採用して良かったな、シャーリィ」

余裕があることを聞き、ベルモンドとルイスが感心する。

『ロウェルの森』が発生源である突き止めたリナは、猟兵を複数の班に分けて監視を継続。予め用意した信号弾を装備し、それを各班で中継することで早期警戒網を構築。迅速な情報伝達を可能にした。

またシャーリィはリナの提案を採用して更に自動車三台の使用を許可。より迅速な活動を可能とした。

その結果群が『ロウェルの森』を出た瞬間に探知することが出来、充分な余裕を持つことが出来たのである。

「……とは言え、完璧な備えとは言えません」

シスターカテリナが天幕を潜って入ってきた。肩には愛用のアサルトライフルを担いでいる。

「シスター」

「……倒れたと聞いていましたが、大丈夫ですか?シャーリィ」

「大丈夫です。ご心配をお掛けしました」

「完璧とは言えないとは?」

レイミが質問する。それにマクベスが答えた。

「本来ならば陣地の前面にトラップを仕掛けるはずでしたが、陣地構築を優先してそちらは全く用意できていないのです」

スタンピードが予測より早く発生したため陣地構築は進展したものの、更に効果的に発揮するはずのトラップ類を用意できなかったのである。

「……あと一週間あれば充分な備えが出来ましたが」

「この際贅沢は言えません。砲兵隊、戦車隊の本格的な実戦は初めてとなります。問題は?」

「訓練は充分に行えております。また、陣地構築の際レイミお嬢様より頂いた助言を最大限盛り込んでおります」

レイミは前世の体験を最大限活かして陣地構築を提案していた。

「レイミは物知りですね」

「ありがとうございます、お姉さま。ただ、纏まった砲兵隊が居るので、出来れば地雷の敷設も行いたかったのですが」

もちろん現代のような最新の地雷は存在しない。そこでレイミはシャーリィに許可を貰ってドルマン達ドワーフチームと試行錯誤を開始。火薬を充填した樽に火打ち石を仕込む簡単な地雷を製作。重量が掛かると蓋に仕込まれた火打ち石が起動。点火して爆発を起こすと言うものであった。

また着火率を高めるために、豊富な石油を染み込ませた布も一緒に仕込んである。

「そこまで手が回らなかったか?」

「仕方ありません。正面から堂々と迎え撃ちます。弾薬は豊富にあるので、使い切るつもりで撃ってください」

「承知しております。ただ、アーマーリザードやアーマードボアに銃弾が通じるかどうか」

「鱗で実験したのでしょう?」

シャーリィが問うと、ドルマンが顔をしかめる。

「貫通することは出来るが、距離があると厳しい。そうだな、百メートル以内だ」

「近いな」

距離を聞き、ベルモンドが呟く。

「白兵戦を覚悟する他ありません」

話をしていると、彼方から地鳴りが聞こえ始めた。

「お話はここまでにしましょう。各員の奮励努力を期待します」

生き残りをかけた戦いは、今まさに始まろうとしていた。

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