テラーノベル
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空は少しずつ夕暮れ色に染まり、風が温かく肌を撫でる。
みことはすちの隣に座ったまま、小さな声で呟いた。
「……いるまくんに、会いたい……」
その声はかすかで、でもすちの心にしっかりと届く。
すちはみことの肩に軽く手を置き、柔らかく微笑む。
「……分かった。らんらんとひまちゃんが迎えに行ってくれるからね」
みことは一瞬戸惑ったが、すぐに小さくうなずいた。
やがて屋上の扉が開き、ひまなつとらんは軽やかな足取りで向かっていった。
屋上に再び二人きりになった瞬間、みことはそっとすちの裾を引っ張った。
すちは驚きつつも顔を向けると、虚ろな目のまま、みことが小さな声で言った。
「……すち兄ちゃん、助けてくれて、ありがとう」
すちはその瞬間、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
初めて自分の名前を呼んでくれたその言葉に、自然と笑みがこぼれる。
「……みこちゃん。 もう大丈夫だよ」
その笑顔は穏やかで優しく、でも胸の奥に強い守る意志を宿していた。
みことは安心したように、再び肩をすちに預けた。 言葉は少なくとも、伝わる気持ちが確かにあり、互いの温もりが屋上を満たしていた。
ひまなつは、こさめといるまがまだ校内にいることを確認し、軽やかな足取りで二人のもとへ向かった。
「こさめ、いるま、屋上に行くぞー!」
こさめは少し驚きながらも、笑顔で手を振る。
「わーい、待ってた!」
いるまは不機嫌そうに眉をひそめつつも、ひまなつに従って歩き出す。
一方、らんは足早にみことのクラスへ向かう。
教室の扉を開けると、まだ机の周りに残っている数名のクラスメイトがちらほらいた。
らんは鋭い目を光らせ、みことの荷物を素早く整理して手に取る。
「みことの荷物、持ってくね」
クラスメイトたちは息を呑み、視線を逸らす。
らんはさらにクラスの中心に立ち、低く冷ややかな声で告げた。
「すちに呼ばれた奴、18時までに屋上ね」
その声は笑みを帯びていたが、奥底には決して冗談ではない威圧感があった。
教室の空気は一瞬にして凍りつき、誰も言葉を発せられなかった。
らんは荷物を抱え、無言で教室を後にした。
柔らかな風が吹く屋上で、みことはすちにもたれかかり、まどろむように目を細めていた。
突然、階段を駆け上る足音が聞こえた。
みことはびくりと肩を震わせ、ぱっと目を開く。
「……!」
何かを察したように、みことはすちの手をそっと離すと、屋上の入口へ駆け出した。
すちは慌てて追いかける。
「みこちゃん!?」
扉が勢いよく開き、いるまの姿が見える。
「みこと……うおっ!?」
みことはためらうことなく、その体を全力でいるまに投げつけた。
不意をつかれ、いるまは後ろに倒れそうになる。
「いるま!」
その瞬間、すかさずひまなつが近づき、いるまの背中を抱きとめた。
みことはいるまにしがみつき、安心したように顔を埋める。
いるまは戸惑いながらも、体勢を立て直し、みことを抱き締めた。
いるまはみことを抱えたまま、屋上をゆっくり歩き出す。
「みこと……歩きにくいんだけど」
少し困った声を出すが、みことはまったく反応せず、肩に顔をうずめたまま体を離そうとしない。
いるまは眉をひそめ、何か異変を感じつつも、みことの体重を支えながら慎重に歩く。
「……おい、どうしたんだ?」
しかしみことは答えず、ただ小さく肩を震わせる。
その時、屋上の入口から元気な声が響く。
「みこちゃん!いるまくん!」
こさめとらんが現れ、状況を一目で理解する。
こさめは目を輝かせながら、にっこり笑って言った。
「みこちゃんずるい!俺もー!」
こさめはいるまの後ろから回り込み、勢いよく抱きついた。
いるまはびくっとしつつも、体を支えるのに必死で、少し後ろに傾く。
らんは微笑みながらも、冷静に二人の様子を見守った。
みことはまだいるまにしがみつき、こさめも後ろから抱きつく。
いるまは少し戸惑いながらも、二人を支えながら微笑む。
屋上には柔らかい風が吹き、夕暮れの光が三人の影を長く伸ばしていた。
すちは少し離れた場所からその様子を見つめ、優しく微笑む。
「……みんな、少しずつ近づいてきたかな」
心の奥で、みことの安心した姿に安堵しながら、静かな時間を楽しんでいた。
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