しあわせなゆめをみた。どうしようもなくやさしくて、どこかなつかしくて。
それはそれは、しあわせな ゆめ。
お世辞にも綺麗とはいえない、ボロボロのワーゲンバス。
型も古いしスピードも出せはしないけれど、一定の速度で、なんとか前へは進んでいる。
運転席にはサングラスを掛けた佐野。
助手席では吉田が、難解なマップを見ながら ああでもないこうでもないとぶつくさ呟いている。
自由気ままな運転席と、ぶつぶつうるさい助手席。
その間から突如として身を乗り出し、曽野は機嫌よく大声で歌を歌い出した。
「〜♪」
「びっっっくしたぁ!」
「おっまえ…!声量ボリュームイカれてんのか!勇斗が事故ったらどうすんだよ!」
そんな小競り合いを笑いながら、曽野の両隣に座った塩﨑と山中は曽野へ加勢する。
「まぁまぁええやんええや〜ん!なんかめっちゃテンション上がるし!みんなでうたおや!」
「俺さぁ、ネタみたいになってるかも知れんけどまっじで好きなんよなこの歌」
さらに追加されたふたり分の歌声に、佐野も吉田も顔を見合わせて苦笑いすると、結局は一緒に歌い出した。
山をのぼり谷をくだり、川をわたり丘をこえ。
歌声に乗って、そのワーゲンバスはただひたすらに、どこまでもどこまでも進んでいく。
「なぁ」
「はい?」
「今さらだけどさ、これ、俺らってどこ向かってんの」
佐野からの問いかけに、吉田は顔をしかめ、苦い表情で首を振った。
「いや、俺に聞かんでくれます?」
「なんでだよ!マップ持ってんのお前だろ?!お前以外の誰に聞くんだよ!」
「…だってコレ、わかんないんだもん」
「分かんないんだもん、じゃねぇだろ!さっきからひとりでごちゃごちゃ言ってた癖にさぁ、一体なにを見とったん!」
「ほんま、お前しっかりせぇよぉ〜!」
「おめぇがお前って言うんじゃねぇよガキが!」
「ちょ、酷ない!?う、うぇ〜ん!だいちゃんじんちゃんがぁ〜!」
「こんな時だけ末っ子ムーブかますな!」
「まぁまぁまぁ吉田さ〜ん、そんなかりかりしやんと。ね?吉田さんってしっかりしてんでしょ?だからナビ任せてんじゃない」
「あ?」
「そうだよ。よしおさんさぁ、俺らみんなよしおさん信じてナビ任せてんだから、ちゃんとやんなきゃ」
「せやで?ちゃんとやろナビ田さん」
「おいガキ。」
「ほんまほんま!ちゃんとやろなナビ人?」
「そうだよ?ナビ田ナビ人さんは何のために生まれてきたの?ナビするために生まれてきたんでしょ?」
「勇斗まで乗っかんじゃねぇよ。誰がナビ田ナビ人だ心の底から違うわ」
たわいも無いことを喋って。
笑って、黙って、時には歌って、そしてまた喋る。
果てしない時間を旅したような。
でも、あっという間の出来事だったような。
「あ。これさぁ、あともうちょい行ったら道分かれるっぽいんだけど、みぎひだりどっち?」
「勇斗の好きな方でいいんじゃない?」
「はぁ!?そんなん困んだろ!」
「なんでぇ?いつもみたいにバシィって決めたらいいじゃん!」
「いうてこういう時意外と優柔不断やからな、はやちゃんて」
「なぁ?佐野さんて、決めたら筋通すんやけど決めるまでがねぇ」
「おいこらしおたろう、お願いだから今内面の分析やめて。てゆうか、ほんと、これどっちが正解なん?!」
「まぁ、正解不正解はないんちゃう?道は必ずどっかに繋がってるって言うしさ」
「仁ちゃんが急に深いこと言うたwww」
「…深いかそれ?」
「ナビ田さぁん、地図持ってるくせに何言うてんスかぁ」
「は?だって見たって分かんねぇんだもんしゃーないやろ。あとナビ田って言うのやめろ」
「仁ちゃんのそういうとこホンマ好きやわぁ〜」
「……てゆうかさぁ、よっしーその地図逆じゃない?」
「あぇ?」
「「「「…うわぁ〜〜…」」」」
「だからさぁ、急な天然やめろっていっつも言ってんだろ。柔太朗ガチで引いてるから…っていや、そんなんどうでもいいからとりあえずどっちどっち!?どっちにすんの?!」
「どっちって言われましても…」
「え〜、どっちー?」
「どっちがええんやろねぇ」
「一旦どっちでもいいわ俺」
「あのさぁ…!どっちでもいいが一番困るっていってんだろ!」
「だからいいよってさっきから言ってんじゃん」
「はっ?」
「勇斗の進みたい方に進めばいいよ。」
笑いながらそう言った吉田の言葉にきょとんと目を丸くした後、佐野はちらりと後部座席に視線を投げる。
そこでは、塩﨑曽野山中が同じように笑って佐野を見つめていた。
「…じゃあ……右だぁ!」
「おっしゃ、了解」
「オッケー!行ったれぇ〜!」
「いけいけ〜!」
「Right Now〜!」
果てしない時間を共にした。
あっという間の、出来事だった。
山を上り谷を下り川を渉り丘を超えて。
様々な景色を見て、色々な気持ちを味わった。
何処かで、
何かのきっかけで過去を振り返る時が来たとして、きっとそれぞれがまず最初に思い出すのは、笑顔で笑いあった時間だ。
いつか
いつかまたどこかで会えたなら
その時は、きっと
See you again.
コメント
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ツアー完走お疲れ様でしたね! 次のツアーも決まってこれからも走り続ける5人を応援していきたいです🥺❤ そんなことを考えながら読ませていただきました!