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それでは
どうぞっ。
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🩷「綺羅先輩おはようございます。」
💛「おはよう、菱田さん。今日からは先輩じゃなくて山口課長ね。」
🩷「ああ、そうでした。すみません山口課長。」
入社したての頃、教育係としてお世話になったのがこの山口綺羅先輩。上司だった先輩はこの春、昇進が決まり新たに課長職に就いた。
年齢の割に異例の出世スピードで昇進していく先輩が誇らしかったし、いつか彼女のようになりたいと思っていた。
その日のお昼を少し過ぎた頃。
昼休憩後も後輩と少し談笑しながら仕事を進めていた。
『そういえば今回の取引先から香水のサンプルが届いてるんです。良かったら菱田先輩試してめませんか?』
『第二事務室に届いてあるらしいので行きましょう。』
『ああ、これです。』
後輩が差し出した香水は柔らかいムスクの香りがするもので、私好みの香りだった。
試しにつけてみるとふんわりと心地の良い香りが広がる。
香水の香りを後輩が聞いてきたから、髪の毛をずらして首元を差し出せばなぜか顔を赤くしながら香りをかいでいた。
『…先輩って髪が長いから普段分からないけど首筋綺麗ですよね。」
🩷「…ちょっ、」
思わず後輩の手を掴み制止しようとすると、
💛「菱田さん何やってるんですか?仕事に戻ってください。」
🩷「…山口課長。すみません。」
『いやっ、私が…』
何かを話そうとした後輩を片手で制し山口課長に頭を下げる。
頭上からため息が聞こえる。
💛「もういいです。早く2人とも持ち場に戻ってください。」
滅多に声を荒げたりしない彼女を怒らせてしまった。
『本当にすみません。私のせいで、』
🩷「大丈夫だよ。ほら仕事戻ろう?」
山口課長の叱責がこたえてないと言ったら嘘になるけど、流石に後輩の前で落ち込むことはできない。
強引に切り替えて残りの業務に取り掛かった。
🩷「お疲れ様でした。」
定時を30分過ぎたあたりで今日予定していた仕事を全て終えた私は、周りの社員に挨拶をしながらオフィスを出た。
どうやら定時で退社してしまったのか、山口課長は既にデスクには居なかった。
明日の朝一にでも謝ろうと心に決め帰宅し、家のドアを開ける。
🩷「ただいま。」
私のただいまは昨日と変わらず独りよがりのものだったのに、今日はいつもとは違った。
「お帰りなさい。」
廊下からパタパタと足音が聞こえてきたかと思えば、彼女の華奢な腕が回ってきてふんわりと抱きしめられる。
オフィスで見た時とは違ってラフな格好をした彼女に、恋人である特権を感じる。
🩷「、今日は来ないと思ってました。」
彼女は少しだけ眉毛を下げて、まるで怒られた子犬のように無言のまま目線を合わせてくれない。
🩷「山口課長?」
💛「、怒ってる?」
おずおずと視線を上げた彼女は今にも泣きそうな目で、私を見つめていた。
🩷「どうしてですか?」
💛「…、だっていつものように呼んでくれないから、、」
🩷「あ、仕事の気分が抜けきっていなくて。ごめんなさい綺羅ちゃん。」
💛「…うん。」
返事をしてからもずっと私を抱きしめたまま何も言ってくれない綺羅ちゃん。
きっと急かしても何もいいことはないと思って、そのまま綺羅ちゃんを抱き上げリビングへと連れていく。
ソファに座った後も私の膝の上で俯きながら、首筋に顔を埋めている。
ゆっくりと時間が過ぎていく中で綺羅ちゃんが小さく呟いた。
💛「…あんな簡単に他の女子に触らせないで。」
🩷「え?」
💛「あの子が未渚美の首筋に触れるのを見た時に自分でも理解できないくらい胸が痛くて辛かった、」
🩷「…綺羅ちゃんそれって、」
💛「我儘かもしれないけれど、未渚美は私のなのにって…」
ぽろぽろと泣き出してしまった綺羅ちゃんをぎゅっと抱きしめる力を強くして、背中を撫でる。
普段感情をあまり出さない綺羅ちゃんは恋愛に関してもそうで、愛情表現をするのはいつも私だった。
そんな彼女がこんなにも感情を露わにして私を求めてくれている事実に驚きが隠せなかった。
🩷「ごめんなさい、綺羅ちゃんのことそんなに悲しませていたなんて。」
💛「違うの、ただの嫉妬だから未渚美は悪くない。公私混同はしないでって付き合った時に言ったのは私なのにね、、上司のくせにカッコ悪いな私…、」
泣きながら自分を責める綺羅ちゃん。
私は綺羅ちゃんが上司だからかっこいいから好きになったんじゃない。
綺羅ちゃんの全部がどうしようもないくらい愛おしくなったからそばにいるのに。
🩷「綺羅ちゃんを悲しませることなんかさせたくない。」
🩷「それに、嫉妬してくれたの正直嬉しかったです。私ばっか好きなのかと思ってましたから。」
💛「そんなことない!」
大声で叫んだ綺羅ちゃんは恥ずかしくなったのか、『あの、その…』なんて慌てながら顔を赤らめている。
🩷「はは、笑。嬉しいです。綺羅ちゃんが私のことこんなに想ってくれていて。」
💛「…好きだよ未渚美。大好き。いつも言えなくてごめんね。」
後半にかけてだんだんと声が小さくなっていたけれど、きちんと綺羅ちゃんの愛は私の胸に届いた。
会社でみんなの憧れとしてかっこよく働く山口課長も好きだけど、
こんなにも可愛い綺羅ちゃんは会社の人にも他の誰にも見せたくない。
私だけの綺羅ちゃん、私だけの恋人なのだから。
end…