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「僕達、聖女さまの護衛騎士気に入っちゃったの。だから、聖女さまとまわりたいわけじゃなくて、聖女さまの護衛騎士とまわりたいなって思って。聖女さまはついでなの」
「僕も、僕も。聖女さまは、おまけで、僕達グランツとまわりたいの」
二人は、私の意見など聞かずにグランツの腕を掴んで歩き出そうとしている。
何がしたいのか全く分からない。いや、分からないのはルクスの方だった。明らかに、グランツと私に対して敵意を示しているのに、どうしてグランツとまわりたいというのだろうか。グランツとまわれば、ルフレの興味は彼に行くというのに。
そう、私は睨まれ動けなくなっていると「ダメです」と双子に腕を積まれていたグランツがぴしゃりと言った。
「俺は、エトワール様の護衛なので。彼女の元から離れることは出来ません。それに、俺の主をおまけだと馬鹿にした人と一緒にまわりたくはありません」
「グランツ……」
「ええ、護衛のくせに生意気じゃん」
ルクスは、私をちらっと見て鼻で笑ったが、それでも引く気はないらしい。明らかな敵意が見えて、私の背筋につめたいものが走る。
グランツは、何か言いたげに口を開いたがそれを遮るようにルクスは続けた。
「聞けば、平民上がりって聞くじゃん。僕達より、位が低くて平民のくせに僕達に物言うなんて、身の程わきまえた方が良いんじゃない?」
ルクスがそういうと、グランツは開いていた口を閉じて俯いてしまった。幾ら、平民と馬鹿にされてきたグランツが同じ騎士達に発言できるほど強くなったとは言え、伯爵家の息子達に何かを言えるような立場でないことは明白だった。それは、グランツが一番良く理解していることだろう。
だから、言い返したくても言い返せないんだ。
あまりにもルクスの言い方に棘と氷のように冷たく痛いものを感じ、私は一歩後ろに足を引いた。
確かに、彼らは毒説で腹黒サイコパスドSショタだけど、ゲームで見るよりもルクスは遥かに冷たい印象を受ける。
冷たいというか、どす黒い独占欲的な。
「お坊ちゃま、そ、そそ、それ以上はダメです!」
そう、叫んだのは双子のメイドだった。
ルクスは聞えないぐらい小さい声で舌打ちし、メイドを睨み付ける。メイドは全身震えていて、それでもなけなしの勇気を振り絞って声を発したことが見て分かり私は胸が苦しくなった。
怖いのに、声を上げる事ってとても勇気あることだと思うから。それも、階級社会のこの世界で、メイドが主人に声を上げるのってそれはもう……
「せ、聖女様に、そ、それ以上の無礼は……」
「メイドの分際で、僕に指図するなよ」
ルクスがメイドの言葉を遮ると、彼女は顔を真っ青にして固まってしまう。それを見たルクスは、苛立ったように眉間にシワを寄せた。
ルクスは、そのままの表情でこちらに視線を向けると、まるで虫を見るかのような目で私を見下した。
その目に、思わず肩を震わせると、ルクスは私を蔑むような目をして言った。ピロロンと音を立てて下がる好感度も今の私にとってしてみればどうでも良いことだった。
「ね、聖女さま。良いでしょ、僕達と一緒にまわろうよ」
「…………」
笑顔の圧。ここでノーと答えればどんな仕打ちが待っているのか想像するのは容易かった。
私は、少しの間を開けてコクリと頷いてやれば、ルクスはにんまり笑って、決定だね。とグランツの腕を引っ張った。
「リュシオルは、いい……?」
「うん? 私? 私はいいわよ」
と、リュシオルはケロッとした顔でいっていた。彼女は察しが良いから、今私の置かれている状況を理解してくれているはずなのに、それでも何も知らないフリというかフリではないかも知れないけど、そう答えるところを見て、そこまで何も思っていないようだった。
怯えているのは私だけか。
私はため息をついて、グランツと目配せする。グランツは別れを惜しむ子犬のような顔をしており非常に申し訳なく思ったが、このままではルクスに殺されかねないと思ったので、私はごめんの意思を伝えるため頭を下げる。すると、全てを察してくれたグランツは「わかりました」とただ一言だけ云うと、ルクスとルフレを交互に見て目を伏せた。
「あ、そうだ。私は、そっちのメイドと一緒にまわろうかしら」
「え、リュ、リュシオル!?」
あまりにも、リュシオルが唐突にそんなことを言うので、私の視線はあのそばかすのメイドに集中する。
そばかすのメイドも「わ、私ですか」とおどおどした様子だったけど、リュシオルが有無を言わせないといった雰囲気で見つめると、諦めたように項垂れて、小さくはい。と返事をした。
彼女が取んな意図でそんなことを言ったのか分からなかったが、この状況で私にあの二人プラス、グランツを任せるなんて、どうにかしてると、涙目でリュシオルに訴えるが、彼女は決めたら絶対に曲げない女だったことを思い出し、私は肩を落とす。まあ、メイドの付き合い的な何かだろう。
「エトワール様、少し席を外すわね」
「あ、うん、いってらっしゃい」
完全に棒読みだったが、それぐらいに私の心は駄々下がりだったわけで、頭を下げて去って行く二人を見て攻略キャラ三人に囲まれているという地獄絵図に私は泣きそうになった。いや、泣いていたかも知れない。
ああ、もう知らない、知らない!
どうにでもなれば良い!
「それじゃあ、聖女さまはぐれないようについてきてねー」
「ついてきてねー」
と、グランツの腕を引っ張って双子は歩き出した。こんな人混みの中、子供のくせに妙に足は速くてどんどん前に行ってしまう二人を追いかけるのは大変だった。
幸いにも、グランツが少しゆっくり歩いてくれたことによって(まあ、そのおかげで彼は引きずられていたのだが)何とかはぐれずについていくことは出来たが、それでも人混みをかき分けて歩くのは大変で、かなり精神的に来た。
それから、双子に引っ張られるグランツを何とか追いながら屋台を転々と周り、昨日訪れた所とは違う射的屋にたどり着く。
昨日と違ったのは、景品が「浮いている」と言うことだろうか。どうやら、魔法で浮かせているらしく、静止物より弾を当てるのが難しいのは一目瞭然だった。
「聖女さま、何欲しい?」
「えっと、じゃあ……」
と、ルクスが私に問いかけてきた。
先ほどまで機嫌が悪かった彼は、何故だかスッキリ機嫌を直しているようでニコニコと私に聞いてきた。それも演技なのかと思ったけれど、これは単純に射的の腕前を見せたい、目立ちたがりの子供の考えだろうと思い、私はふわふわと浮いているシロクマのぬいぐるみを指さした。
「でも、あんなの取れる? 不規則にふわふわ浮いているし、私じゃ取れない」
「聖女さまは取れないと思う」
「そう思う」
と、双子の意見が一致した瞬間、私はムッとした表情になる。
この二人は、私が何も出来ないと思っているのかもしれないが、いや実際その通りなのだが、この言葉は双子に向けた言葉であって自分を卑下する言葉ではなかった。
なのに、勝手に良いように解釈をして……
そう、私が拳を握っているとそれまで黙っていたグランツがスッと私の前に出た。
「俺もやります」
「ぐ、グランツ?」
「へぇ、剣の腕だけじゃなくて射的も得意なんだ」
そう、小馬鹿にするように笑うルクスを無視してグランツはお金を払い何も言わずにコルクを銃に詰め始めた。その姿は手慣れていて、様になっていた。
それを見て危機感を覚えたのか、ルクスは荒々しく台にお金を叩き付けて同じようにコルクを銃に詰める。でも、こう言うのってルクスじゃなくてルフレの方が上手いんじゃとルフレを見れば、彼は鼻歌交じりにコルクを詰めていた。
三つどもえの戦いとはこういうことなのかとぼけーっと思っていると、ふいにグランツがこちらを振向き口を開く。
「今日……エトワール様に見せたいものがあるんです」
なので――――と、グランツは引き金を引き、一直線に飛んでいったコルクは見事シロクマのぬいぐるみにぽすんと命中した。
おぉ、と感動していると店員からシロクマのぬいぐるみを受け取ったグランツはこちらに歩いてきて私の手に優しくシロクマのぬいぐるみを献上し、私の片手を包むように両手でそっと握ると、熱っぽい翡翠の瞳を潤ませて私を見つめて再度口を開く。
「早く、貴方と二人きりになりたい」
そういったグランツの好感度は70%になっていた。