両手首と両足首にガムテープを巻かれ、両肘と両膝をビニールロープで拘束された私は助手席のシートベルトに押し込まれた。
「ーーーそ、そう」
「なんですか」
「痛い、痛いよ」
「もう暫くしたら痛く無くなりますよ」
嗚咽し助けを乞う私とは対照的に、気怠げな薄笑いでサイドウインドに肘を突いてハンドルを握る惣一郎は機嫌が良かった。
「何処が良いですかね」
七瀬の目が大きく見開いた。
「ど、どこ、何処ってなに」
「ドライブの行き先ですよ」
七瀬は大きく首を横に振った。
「惣一郎、誰にも、誰にも言わないから!」
「なんの事でしょうか」
「アトリエの、胡桃の胡桃の 碧 」
「あぁ、やはり掘り返したのは七瀬だったんですね」
「惣一郎!」
「狐かなにかが掘り返したのかと思いましたよ」
惣一郎は困り顔で恐怖に怯える七瀬を見下ろした。
「誰にも言わないから」
「そうですねぇ」
「碧 さんがあそこに居るって誰にも言わないから!」
「碧、 碧 ですか」
「言わないから!」
「 碧 は何処かで生きているかもしれませんよ」
「でも!あそこに!」
その気怠い笑顔が好きだった。
「失踪中ですからね」
惣一郎は、胡桃の樹の下に埋め既に白骨化した 碧 さんを「失踪中」だと言い切った。いずれ私もそうなるのだろう、恐怖でしかなかった。
「惣一郎、私は恋人だよね!」
「それがどうしましたか」
「恋人だよね!」
すると惣一郎はフロントガラスを見つめながら首を傾げた。
「不倫ですね」
「ーーーーえ」
「 お話ししましたが私には細君が居ます、だからこれは不倫ですね」
不倫。
「惣一郎!不倫でも恋人だよね!」
「不倫とは儚いものです」
「惣一郎!」
「ありがとうございました。楽しい夏休みでした」
気怠い笑顔、物憂げな仕草が好きだった。
「誰にも言わないから、助けて」
「前の人も同じ事を言いました。女の人は口が軽いから信用できません」
絶望しか無かった。警察官が話していた「もう一人の女性」も失踪人としてあの雑木林の何処かに埋まって居るのだ。
「山で見つかってしまったのなら海にしましょう」
「ーーーー嫌!海は嫌!」
「あぁ、七瀬は千里浜海岸で溺れたんですよね」
「海は嫌い!助けて!」
「好き嫌いは駄目ですよ」
惣一郎はアクセルペダルを強く踏み込み、エンジン全開で海岸沿いの道を走った。
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