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管野アリオ
875
#オリジナル
重田💋(omoda)
886
男は笑顔を浮かべながらひらひらと手を振っている。
黒髪短髪で笑顔を浮かべるその男は一見すれば人畜無害な優男といった印象だが、よく見れば首元から刺青が覗き耳はもちろん鼻や唇にまでピアスが付けられている。
そんな男の姿を目にした至は窓を開けるなり悪態をついた。
「呑気に手なんか振ってんじゃねぇよ、阿呆が」
「相変わらず酷い言われようだなぁ、可哀想な俺」
男はまるで堪えた様子もなくケラケラと笑っていて、その態度にますます苛立ちを募らせた至は男の隣へと視線を向けた。
そこには運転席に座るもう一人の姿があり、黒髪男と顔つきが似ている赤髪短髪の青年が顔を覗かせた。
「おい、幸! コイツをきちんと管理しろっつっただろーが!」
突然怒りの矛先を向けられた幸と呼ばれた男は困ったように眉を下げた。
「んなこと言ったって、壱が勝手に動くから手に負えねぇんだよ……」
「まぁまぁ至くん。そんなに怒らない怒らない。ほら、彼女が怯えてるよ?」
壱と呼ばれた男は宥めるような口調で言いながら、ちらりと優來へ視線を向ける。
「誰のせいだよ!」
至は即座に言い返して壱を睨みつけた。
「つーかコイツのことはいいから話を聞けって。さっきの続きだが相手に情けをかけんじゃねぇよ。私情や余計な感情は捨てろ。さっさと情報収集して来い!」
「えぇ~? あんまり気乗りしないんだよなぁ。だって、可哀想じゃない? 彼女、あんなに信じてくれてるのに」
壱は困ったように肩を竦める。
口調こそ軽いもののその言葉にはどこか本気で相手を気の毒に思っているような響きがあった。
「アイツはそういう演技が出来る女なんだよ。いちいち騙されるな。お前が上手く手懐けりゃ必ず落ちる。これはお前が一番適任なんだから、しっかりやれよ」
「はいはい、仕方ないなぁ。それで、例のモノは?」
そう問い掛けながら壱が手を差し出すと至はポケットから何かを取り出してその手に渡した。
「ほら」
「サンキュー、至くん」
受け取った壱は手元の物を確かめるように一瞥してから再び至へと視線を向けた。
「至くんも任務の途中かな? 邪魔しちゃ悪いから俺たちはもう行くよ。バイバイ、可愛子ちゃん」
「いいから、さっさと行け」
これ以上付き合っていられるかとばかりに至は強引に会話を打ち切ると窓を閉め、その直後に深々と溜め息を吐いた。
「な? 分かったろ? ここに来たのはアイツらと会うためで、別に部屋に入ろうとか思ってねぇよ……まぁ、優來がいいって言うなら中に入りてぇけど……」
言い訳するように説明していた至が最後にぼそりと本音を漏らすと、
「…………」
優來は何も答えず横目でじっと至を見つめた。
その視線を受けた至は、しまったと言わんばかりの表情を浮かべ、
「――っ! 今のなし! 口が滑った! よし、さっさと出よう! な!」
慌てて言い直すと至は逃げるように車を発進させた。
ホテルの敷地を抜けたところで優來がぽつりと口を開く。
「……どうして、あそこであの人たちと会ったんですか? 別にどこか他の駐車場でも……」
「あそこは俺らの組の管理下にあるホテルなんだよ」
至は前方に視線を向けたまま特に隠す様子もなく答えた。
「まぁ、俺らのやることって法に触れるギリギリのことも多いからさぁ、周りには気ぃ遣うんだよ。敵もいるし、バレちゃいけねぇこともある。そういう事情も踏まえて話をするなら、ああいう場所が一番なんだよ」
「……そう、ですか……」
自分から尋ねたことではあったが、正直なところ優來には至の説明を十分に理解することが出来なかった。
そもそも至の身を置く世界そのものが自分の知る日常とはかけ離れているのだから。
それ以上何を聞けばいいのかも分からない優來が口を閉ざしたことで車内に再び沈黙が落ちると、その気まずい空気に耐えかねたのか至が遠慮がちに声を掛けた。
「なぁ優來、飯でも食いに行かね? 飯くらいならいいだろ?」
「いえ、結構です」
間髪入れずに断られた至はめげずに食い下がる。
「なぁ、そう言わずにさぁ――」
そこまで言いかけたとき、ふとバックミラーに視線を向けた至の目つきが一瞬にして鋭く変わり、先程までの気の抜けた様子は消え失せて表情には明らかな警戒の色が浮かんでいた。
コメント
1件
うわ、今回も重かった……。至くんの「口が滑った!」って慌てるところ、ちょっと可愛くて笑っちゃったけど、全体的にはピリピリした空気がすごく伝わってきたよ。あの壱って男、人のこと「可哀想」って言いながら全然本気で同情してなさそうで、逆に怖いな…。優來ちゃんの「結構です」即答、めっちゃ分かる。ついこの間まで信じてた人なのに、もう冷めてる感じが切なかった。