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診察室の外では、不穏な噂や冷ややかな視線が渦巻いている。
けれど、重いドア一枚を隔てたこの空間では、冬馬先生の熱い吐息だけが世界を支配していた。
「……先生、本当にいいんですか。あんなことを言ったら、もう後戻りできないです」
診察台の上で乱れた服を整えながら、私は震える声で尋ねた。
冬馬先生は、折れた万年筆をゴミ箱に捨てると
眼鏡を拭き直し、いつもの「氷の外科医」の表情で私を見下ろした。
「後戻り? そんな無駄な計算は最初からしていない。俺が必要なのは、周囲の賞賛でも地位でもない」
「俺の指先が命を救うため、その精神を繋ぎ止めるためのお前という楔だ」
先生は私の腰を引き寄せ、自身の胸に深く顔を埋めさせた。
規則正しく、けれど力強く打つ心音。
それが、何よりも雄弁に彼の覚悟を物語っている。
「医局長や理事会が何を言おうと関係ない。お前を事務員としてではなく、俺の戸籍の隣に置くだけの話だ」
「……っ、へ!?」
驚いて顔を上げると、先生は私の唇を親指でなぞり、意地悪く口角を上げた。
「嫌か? ドSで傲慢な男の傍で、一生飼い殺されるのは」
「……嫌だって言っても、離してくれないんでしょう?」
「当然だ。お前に拒否権など最初から与えていない」
そう言って、彼は私の指先に、冷たく光る指輪を嵌めた。
それは装飾のない、けれど重厚なプラチナの輪。
職場でつけることは許されないけれど、スカーフの下の刻印と同じ、私を縛り付ける目に見えない鎖。
「海老名。……いや、結芽。俺がお前を選んだんじゃない。お前が俺を、捕まえたんだ」
窓の外、嵐が去った後の夜空には、冷たく冴え渡る月が昇っていた。
私たちは、病院という白い檻の中で、誰にも理解されない「愛」という名の共犯関係を深めていく。
「さあ、仕事に戻るぞ。明日のオペの資料、完璧に仕上げておけ」
いつもの冷徹な命令。
けれど、その奥に潜む底なしの情熱を、今の私は知っている。
私は彼の手を強く握り返し、誇らしく、そして甘い屈服の笑みを浮かべた。
「はい、冬馬先生。……どこまでも、お供します!」