テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ハル__。
390
49
82
(タクヤside)
闇の中で、激しく心臓が跳ねた。
追いかけられる夢だったのか、それとも何か大切なものを失う夢だったのか。内容は霧のように消えていくのに、嫌な汗と動悸だけが肌に張り付いている。
「……はぁ、……っ、リョウガ……」
救いを求めるように隣に手を伸ばしたが、シーツは冷たく、平らだった。
いつもならゲーミングチェアに座って画面と格闘しているはずの彼だが、その特等席にも主はいない。
胸のざわつきを抑えるために、水を飲もうとリビングへ向かった。
すると、ドアの隙間から眩い光が漏れている。
(……何してんだ、あいつ)
そっと中を覗き込むと、煌々と光る電気の下で、リョウガが背中を丸めて何かの準備をしていた。
「……リョウガ?」
目を擦りながら声をかけると、リョウガは肩をびくつかせて振り返った。
「うおっ!? タ、タクヤ……!」
慌てて机の上の何かを隠すような仕草。挙動不審すぎて、逆に怪しい。
「この時間に起きてくるなんて珍しいじゃん! ど、どうした?」
「……悪夢に魘されて。……リョウガこそ、こんな時間に何してんの?」
俺がそう言うと、リョウガは一瞬だけ表情を曇らせた。
「それは……災難だったな。……ごめん、傍にいれば良かったわ」
ボソッと、悔しそうに呟く。その横顔があまりに真剣で、さっきまでの恐怖がどこかへ吹き飛んでしまうくらいにドキッとしてしまった。
「で、隠してるのは何?」
詰め寄ると、リョウガは「あー、もう……」と頭を掻き、渋々といった様子で机の上を開放した。そこには、カラフルな装飾と『44.4』という数字の形をしたアルミバルーン。
「……これ、」
「タクヤ、インスタのフォロワーが44.4万人突破したろ? ストーリーに上げてたの見てさ。お前にとって『4』がどれだけ特別な数字か分かってるから、絶対今日のうちにお祝いしたくて。明日の朝一番に驚かせてやろうと思ってたんだけど……想定外だわ」
照れくさそうに笑う彼を見て、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「お祝いって……そんな大袈裟な。区切りのいい数字でもないのに」
「大袈裟なもんかよ。4号車のタクヤにとっての『4』が3つも並んだんだぞ? どんな些細な……いや、お前にとって大切な記念日は、二人で全力でお祝いするって決めてたじゃねーか」
そうだ。数え切れないほどの記念日を、俺たちはそうやって大切に積み重ねてきたんだ。
「……そうだったな。ありがとう、リョウガ。……そのお祝い、今からやろ」
「え、朝から仕事じゃないのか?」
「んーん、午後から。リョウガは?」
「……俺も、午後から」
「そ。じゃあ決まり。俺の44.4万人突破、今からお祝いするぞ!」
(リョウガside)
サプライズ失敗のショックは、タクヤの満面の笑みで一瞬にして消し飛んだ。
「盛大にやるぞ!」と意気込むタクヤだが、時間は深夜二時半。近所迷惑にならないよう、俺たちは「盛大かつ静かに」パーティーを開始した。
「せーのっ、おめでとう!」
「ありがと」
小さな声で拍手を送り、半分こにした小さなケーキを突っつく。
バルーンはまだ膨らませている途中だったが、タクヤは「これが一番嬉しい」と言って、しぼんだ『4』の風船をひとつ、愛おしそうに胸に抱きしめている。
「リョウガのおかげで、悪夢の続き見なくて済んだわ」
「……それは光栄ですな」
深夜の静寂の中、二人だけの特別なお祝い。
44.4万人という、ファンと歩んできた大切な数字ももちろん愛おしいけれど、俺にとっては、目の前でフォークを咥えて嬉しそうに笑っている、この一人の笑顔が何よりも価値がある。
「タクヤ、次は50万人、そして100万人だな。その時は、家じゅう『4』の風船で埋めてやるから覚悟しろよ」
「絶対やだ。歩く場所なくなるじゃん」
文句を言いながらも、タクヤは俺の肩に頭をすっと預けてきた。
お互いの体温が伝わる距離で、ゆっくりと流れる時間。
最高のオフの前夜祭は、朝日が昇り始めるまで、静かに、けれどどこまでも熱く続いていった。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
1件
うわあああ第19話めっちゃ良かったよ……!!😭💕 サプライズ失敗したのに、そのあとの「盛大かつ静かに」な深夜パーティーがもう尊すぎて倒れるかと思った〜!! とくにリョウガが「4号車のタクヤにとっての『4』が3つも並んだ」って理由でお祝いしようとしてるところ、相手のことめっちゃ分かってる感じがして心臓ギュンってなった🫀💥 バルーンしぼんでるのに「これが一番嬉しい」って大事そうに抱きしめるタクヤも可愛すぎるし、肩に頭預けるラストの空気感、最高すぎる…。 素敵なお話ありがとうございます、また次話読みますね!!🌸