テラーノベル
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休日の街は、人が多かった。
「この店、前から気になってたんだよね」
ないこがそう言って立ち止まると、
まろは「あとで寄ろか」と短く返す。
「次、どこ行こっか」
「ん〜、そうやな…」
そのときだった。
「ねぇ、君さ…」
横から声をかけられて、驚いて振り向く。
「一人? よかったらさ」
「あ、えっと……」
どう断ろうか迷っていると、
まろが一歩前に出る……ことはなかった。
表情はいつも通り。
声も、何もない。
「……すみません、」
ないこは曖昧に笑って、距離を取る。
「彼氏、いるので」
「えー、そうなの? 残念」
相手はすぐに引き下がった。
そのやり取りの間、
まろは何も言わず、ただ横に立っていた。
(…何も、言わないんだ)
歩き出してからも、
ないこは胸の奥がざわついていた。
「……さっきの人さ」
「ん?」
「ナンパ、だったね」
「せやな」
それだけ。
(…気にしてない、のかな)
手を繋いでいるのに、
心の距離だけが、少し遠く感じる。
(俺が誰に声かけられても… まろは、平気なんだ)
そう思った瞬間、
胸がちくっと痛んだ。
帰り道も、会話は少なめだった。
家に着いて、
ドアを閉めた、その瞬間。
「……ないこ」
低い声。
振り向くより先に、
腕を掴まれる。
「……っ」
驚く間もなく、
まろは一気に距離を詰めてきた。
「……?」
やめてと言う間もなく
唇が重なる。
深くない
でも、迷いがない。
「……ん…っ」
離れたとき、
まろの目は、はっきりと怒っていた。
―いや、
嫉妬していた。
「…まろ?」
「……気づいてへんかったやろ」
「俺、めちゃくちゃ腹立ってた」
「……え?」
「知らん男に声かけられて、 ないこが困っとるのに」
「顔に出したら、
余計不安にさせると思って……」
「でも、でも間違えやったみたいやな」
「…俺、まろが気にしてないんだって……」
「そんなわけあるか」
「誰にも、取られたくない」
「ないこが思っとるより、
独占欲、強いで」
胸が、どくんと鳴る。
「…さっきのキスも?」
「嫉妬や」
少し照れたように、
でも真剣に。
「俺のやって、
ちゃんと分からせたかった」
ないこは、少し間を置いてから、
小さく笑った。
「……悪かった」
「ううん」
首を振って、
今度は、ないこから一歩近づく。
「気にしてくれてるなら、嬉しい」
まろの目が、少し和らぐ。
「…もう一回、ええ?」
「うん」
今度のキスは、さっきよりも深くて優しいキスだった。
でも、
確かに“独占欲”がこもっていた。
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