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この一郎じいさまは自分が好きで選んだ庭師の仕事に誇りを持っている人で、
選定の仕方や草花の育て方なども伍樹は夏休みなどを利用して教わったものだ。
伍樹は三番目の御曹司として生まれてきた。
伍樹13才頃のこと……
はて、どんなお役目を持って生まれてきたのかのう、とよく継祖父は呟いた。
外では祖父もしくはおじいさまと言っていた伍樹だが家の中では
じいちゃんと呼んでいて……
祖父のつぶやきを受けてすかさず伍樹は継祖父に聞いた。
「じいちゃんは、どんなお役目を持ってきてたの?」と。
おばあさまの前なのにじいちゃんは堂々と言った。
「町子さんと結婚してずっと仲良く暮らしていくことだよ」
祖母は横でにこにこして聞いている。
「伍樹、私は子供たちの父親を亡くした時、ものすごく落ち込んでねぇ。
ずっとこの先も、ずっとずっと一緒にって……頼りにしていた人が亡くなって
心細くてこの先どうやって二人の子供を育てていけばいいのかって悩み、
泣き暮らしてたのよ。
そんな時に一郎さんがとってもやさしくしてくれて、心の支えに
なってくれたのよぉ~。
私の家も一応それなりの家柄だったものだから、私たちの結婚がそう簡単に
許されるとは思ってなくて……。
だから――――
籍は入れられないかもしれないけど、夫婦になろうってそんな約束
してましたね、あなた」
「そうだね」
「だけど、父から『もっとよく考えてから決めるように……』と言われただけで、私の
落ち込みようがそれはそれは酷かったのと、すでに跡取りを産んでいたこともあって、
父も強く反対しなかったし、母や兄、そして周囲の親族からも反対はされなかったの。
私と一郎さんは本当に幸運だったの。
こんな可愛くて利発な伍樹っていう孫もいて、ほんと私は幸せ者だわ」
惚気をたんまり聞かされた伍樹は、逆に継祖父に尋ねた。
「僕はどんなお役目を持って生まれてきたの?」
「そうだなぁ、伍樹は普通の人々よりもいろんな面で恵まれている
ことを……そしてまず己を知ることだな。
恵まれている者は困っている人たちを……そうだなぁ、経済面も
そうだけど泣いてる人がいたらやさしくしてあげようという気持ちを
育てることが大切だな。
そして我良しの人間になってはいけないよ。
一杯勉強することだな」
継祖父は、そんな風に話してくれた。
子供の頃から俺は継祖父や祖母とはとても近しい関係で
心と心が通い合うような実のある会話をよくしていた記憶がある。
で、結局俺はとうとう祖父母の家から高校大学と通うことになった。
家には兄たちがふたりもいて、ひとりくらいジジババの側にいて
やりたいと思ったからだ。
両親の方針で俺も兄たちよろしく幼稚園、小学校、中学と私学に
行ったのだが、高校は公立の高校へ入学、大学も国立へ行った。
祖父の言うようにたくさん勉強するには、世の中を知ることが
大切だと思ったから。
一応親父の勧める道に……親の敷いた線路? っていう奴に今のところ
乗っかってるってわけだ。
鼻ホジホジしつつ、親の言う通りにしているが一応企業の中で揉まれて
一族の会社にも数年勤めて勉強をある程度し終えたら、その先は未定だが、
好きなことが見つかればそっちに進もうと密かにそう考えている。
そういう意味で兄たちの存在に感謝している。
俺がひとり息子だったなら、到底許されないことだからね。
“ Happy Future 幸福な未来 “
何にも知らずにいた仲村くんのことを教えて貰った。
財閥Boyの手元には一生使いきれないほどのお金があるっていうことも。
私もろとも、母も祖父母も養ってくれるらしい。
何て気前のいい人なんだろう。
私だってそこそこの富裕層で育ってきて、あまりお金のことで苦労
してきたことはないけれど……。
さりとて、私個人はというとしがない一介のOLで、
父親に捨てられ年金生活している祖父母の元で暮らしている母親がいて、
実家には継母と弟がいて、継母とも上手くいかず女にだらしない
信用のおけない父親がいる。
私はそんな足元のおぼつかない場所に立っていて、実の母親ひとり
引き取ることもできない不甲斐ない人間なのだ。
そして父親を困らせるという名目と父親のような人間を痛めつける
という名目の元、既婚者の中年男を手玉にとってきた汚い人間なのだ。
そんな私の目の前に、たくさんの幸運を伴なって仲村伍樹が特別な存在として
彗星のごとく現れた。
ほんとに夢でも見ているようだ。
仲村伍樹の提案は、持っている広い敷地に私たちの暮らす家、
母と祖父母が暮らす家をほどよい距離感で建てて、暮らそうと
いうものだった。
腹違いの弟のことは、嫌いじゃない。
今の私には弟の行く末を心配するくらいには気持ちがある。
弟もまた父親から何の関心も持たれないまま育ってきた。
あんな父親と人のものに手を出すような女を母親に持って生まれてきたが
性格のいい子だ。
父はもとより……父親が女にだらしないばかりに、再婚して間もなく
また他所の女に手を出し始めた父親のことでヒステリー気味になって
しまった母親からも、弟は十分に愛情を受け取れずにきた。
そんなこともあってか、弟は私を慕ってくれていて
私たちは仲の良い姉弟だ。
私は父親のこれまでの所業も、そして弟に対する気持ちなども
正直に仲村くんに話した。
弟のことを耳にした彼は、まだ学生で就職は先の話になるだろうけど、
弟くんのことも俺に任せて、と言ってくれた。
真面目そうな男子だから、どこにも行き場所がなかったら
系列の会社を紹介できるから、と。
私に関わる者たちなら、それこそ丸ごと庇護してくれるつもりで
いるらしい。
何……なに、今まで同期の気安さで好きな時だけ誘って交流してきた
けれど、こんなにすごい人だったなんて。
バックグラウンドしかり、人柄しかり。
今頃になって、私……腰砕けって感じ!
彼の存在は、私の人生に初めて一筋の光明をもたらした。