テラーノベル
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五歳の時だった。
幼いレイブは、冬が終り遅い早春を迎えた極北近くのハタンガで、何のつもりか雪解けしたばかりの沢で水遊びに興じていた。
小さい頃からやけに冷たい水ばかりを浴びたがったり、燃え盛る焚き火の炎を火傷を負いながらもなるべく近くで見たがったり、馬鹿みたいに高い場所から飛び降りてみたり、常に生きるか死ぬかの限界まで、その命のギリギリを試してばかりいる狂った子供、そう言う性質だったからだろう、数時間の間、冷たい水に浸り切った結果、ヨロヨロとした覚束ない足取りで中洲に帰り着いた時には、全身から湯気が立ち昇る程に高熱を発してしまっていたのであった。
驚いて出迎えた三人に返す言葉も無く、そのまま前後不覚に陥ってしまったのである。
つまり、死に掛けてしまったのだ。
幸いにも一命を取り留めたレイブが目覚めたのは三日後の事であった。
意識が混濁している中、今もレイブの記憶に残っている風景は揃って喜びの涙を流しながら抱きついてきた三人の兄妹のそれまで見た事も無いようなぐしゃぐしゃに泣き濡らし焦燥し切った表情である。
次の日から床(とこ)を上げる数日後まで、イシビベノブは毎日数回の小言を言い続け、シパイは毎食の乳粥の味を工夫しつつ様々な薬草の配合を入れ替えつつ、効果や効能の検証を繰り返しては頭を捻り続け、ガトは周囲から摘んで来た花を寝床の脇に飾ってみたり、どこで覚えてきたのか不思議な踊りをしたり聞いた事も無い歌を歌って見せたりしながら過ごし、ほんの一時もレイブを只一人にする事は無かったのである。
『治って本当に良かったなレイブ! これからは遊びでも実験でも何をするにしても必ず俺に言ってからにするんだぞ? 勝手な行いは絶対駄目だ! 判るよなレイブ?』
『今回位の症状なら何とか治せる様になったと思う…… でも、今は体力を奪われているからな…… 暫(しばら)くは自重しなければ次こそ死ぬぞ? いいの? レイブお前死ぬよ、まじで』
『レイブ兄ちゃんが元気になって良かったぁ! ガト恐かったよ…… もう無茶ばっかりしてたら嫌いになっちゃうよ~、プンプン! なんて、えへへ、嘘! お兄ちゃん達は三人とも大好きだよ♪』
口々に言うと又々揃ってレイブに抱きついて数十分もの間離してはくれなかったのである。
病み上がりのレイブにとっては結構辛かった時間であるが、反面酷く暖かく嬉しい思いをした記憶がハッキリと残っていたのである。
レイブは思う。
――――シパイが自分の弟子を捨てる? うーん…… それにもう魔術師じゃなくなってしまったからって自分のスリーマンセルを放逐(ほうちく)、とか…… 俺に置き換えたらぁ、いやいやそんなの無理だな…… もしそんな事、ギレスラやペトラと別れるなんて出来ないだろう…… もしも事を決断するとしたら…… 考えられないな…… でも、でも、そうする時があるとしたら? そうした方が良い、いいやそうしなければギレスラもペトラも不幸になってしまう、自分が決めなければ、辛くても苦しくても、頑張って無理してでも別れを決断をしなければならない、そんな時位だろうか? ん? って事はシパイ兄ちゃんは…… ええっ! まさか、し、死ぬとか、そー言うぅ……
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