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金木犀の香りは嫌いだ。
僕は空を見上げた。
「もう秋だね。日が落ちるのが早くなった。」
横にいる彼女は真夏の夕方のように明るい笑顔を僕に向けた。
「ぼーっとしてるね。どうしたの?」
彼女は聞いてきた。
「なんでもないよ。ちょっと眠くて。」
僕は苦笑しながらそう言った。
「そっか。隠し事は無しだからね。」
彼女は少し拗ねているように頬をぷくっと膨らませて言った。
ごめん。と心の中で僕は謝った。
一生彼女だけには隠したい事が僕にはある。
言う勇気が出ない。言ったら彼女は傷ついてしまうだろう。
彼女はまだ知らない。知ってほしくない。
僕の余命はあと1年だと言う事を。
初夏が訪れた頃だった。
僕はバイト中に急に胸がギュウっと握りしめられている感覚に陥った。
店長やアルバイトの女の子が慌てながら口を動かしていた。
でもその時の僕にはもう意識が無くなりかけていて2人が何を言っていたかは分からない。
そして目を開くとそこは病室だった。
僕のベッドの横では母が涙していた。
「よかった。よかった。」と母はひたすら泣いて言った。
僕は「心配かけちゃってごめん。大丈夫だよ。」と言い母を慰めた。
目を覚ましたあと病室に男の医者の方が来てくれた。
診察すると僕は何やら珍しい病気らしい。
その僕の病気を治す治療法は詳しくは分かっていないらしく治せない可能性が高いと言われた。
母はまた涙していた。
僕は母みたいに泣かないと思っていたのに僕の頬を涙が伝っていた。
そして3週間後に僕は退院した。
学校に行くと友達からとても心配された。
僕は「大丈夫だよ。」とだけ言って落ち着かせた。
僕の大親友の彼からは何も言われなかった。
彼なりの気遣いだと思う。だから僕は気にしなかった。
そして普通に学校に行ってバイトに行って寝て起きてを繰り返す7日間が続き、
月曜の放課後に病院へ行って再び診察してもらった。
その日だ。僕が余命残り1年だと知ったのは。
医者から「残念ながら君はあと余命1年だ。できるだけ最善を尽くすつもりでいる。」
とその日言われてしまった。
母にはすぐに帰宅してそのことを伝えた。
そしたら母はまた泣いた。
でも僕も自分の子供が残り余命1年だなんて悲しく、辛くなるだろう。
母は1日中泣いていた。
次の日僕はSNSを見ていた。すると1つの動画が目に留まった。
皆さんはもうすぐ自分が死ぬと言う事が分かったら何をしますか。と黒い文字で白いページに書かれていた。
僕はコメントを見てみた。
「親孝行をする。」
「好きな先輩に告白する。」
「彼女を作る。」
「1秒でも長生きできるように健康に生きる。」
「今まで通り普通に過ごす。」
「不登校になる。」
などの色々な意見が書かれていた。
僕が気になったのは「親孝行をする。」だ。
僕は今まで女手一つで育ててくれた母に孝行しただろうか?
親を喜ばせただろうか?
僕は逆に泣かせてしまった。悲しい思いを母にさせてしまった。
「親孝行。してみようかな。」
と僕は小さく呟いた。
するとそれを聞いていた隣の女の子が話しかけてきた。
「親孝行するの?でも親孝行って何をすればいいか分かんなくない?」
と困り眉で笑いながら言った。
確かに何をすれば良いのか分からない。何が嬉しいのかなんて。
「でもさ。1番の親孝行は子供が楽しく生きていることなんじゃないかなって思うんだ。」
女の子は言った。
その瞬間女の子の目には涙が浮かんでいた。
「ごめん。泣いてるところなんか見せちゃって。私帰るね。また明日。」
と言って彼女は去っていった。
僕は女の子が言っていた親孝行ができているのだろうか。
とりあえず今日はここまでにしようと僕は机の横にかけてあったカバンを背負い帰路についた。
続くー
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