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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第139話:世界を震撼させるモフモフ浴衣。圧倒的尊さにサーバーが融解する夜
十勝の地平線に沈みゆく夕陽が、限界集落の広場を燃えるような茜色に染め上げていた。
復活を遂げた巨大なやぐらの周囲には、ドバイの石油王とスイスの銀行家が陣取る超高級屋台から、暴力的なまでに美味そうな和牛ケバブの匂いが漂っている。
いよいよ今夜、十年ぶりに幕を開ける『オペレーション・フェスティバル(夏祭り復活作戦)』の本番。
広場に村人たちが少しずつ集まり始め、お祭りムードが最高潮に達しようとしていたその時、古民家の居間から「お兄さん! ついに、ついに完成しましたよー!」という小春ちゃんの弾んだ声が響いた。
「どうした小春ちゃん。通信回線の帯域確保に問題でも発生したか?」
俺がジンバル付きのiPhone miniを片手に振り返ると、そこには、両手を腰に当てて鼻を高く膨らませた、誇らしげな小春ちゃんの姿があった。
「違いますよ! 数日前から私が夜なべしてミシンを叩いていた、極秘任務の成果物です! さあ、お披露目ですよ!」
小春ちゃんが居間の襖を劇的に左右に引き開けた、次の瞬間。
俺の需品科としての冷徹な索敵センサーが、かつてないほどの『視覚的衝撃(クリティカルヒット)』を検知した。
「……ッ!?」
襖の向こうからトコトコと現れたのは、小春ちゃん特製の『ミニチュア浴衣』を身にまとったモフモフ軍団だった。
まず先頭を歩くのは、純白の神獣シロ様。
彼女が着ているのは、十勝の深い夜空を思わせる藍色の生地に、プラチナ色の糸で星屑のような繊細な刺繍が施された特製浴衣だ。
背中には、まるで大きな羽のように結ばれたペールピンクのちいさな帯。
神秘的な『オッドアイ』の瞳――左目のサファイアブルーと右目の琥珀色――が、純白の神毛と藍色の浴衣のコントラストの中で一層際立ち、言葉を失うほどに神聖で、そして凶悪なまでに可愛らしかった。
『ミャウ(ふん、どうかしら? 似合っているでしょ)』
シロ様は優雅に尻尾を揺らし、キャットウォークさながらの足取りで縁側へと進み出る。
さらに、その背後から小走りで飛び出してきたのは、キタキツネのコン吉とコン次郎だ。
彼らはお揃いの、鮮やかな緑と白の市松模様のちいさな浴衣を着せられていた。
背中には特注の超ミニマムな団扇(うちわ)がちょこんと差さっており、動くたびにふかふかの尻尾が浴衣の裾から左右に激しく揺れている。
「キュインッ!」「コンッ!(お祭りだー! カッコいいだろー!)」
この、地球上のあらゆる語彙を「尊い」の二文字で圧殺するような破壊的映像が、最強のYAMAHAルーターを通じて全世界へと生配信された。
その瞬間、ジンバル越しの世界が、物理的に反転した。
ピキィィィン……。
さっきまで秒間数万件の速度で爆速スクロールしていたMeTubeのコメント欄が、突如としてピタリと停止した。
画面上部に表示されている同時接続者数は、一千万人を超えた瞬間にエラー表示を吐き出し、画面全体がぐるぐると円を描くローディング状態に突入したのだ。
「……ん? スマホのバグか?」
俺が端末を確認しようとした時、庭の高級屋台から「オーマイゴッド!!」という石油王の絶叫が聞こえてきた。
「どうしたバンカー! 私のスマホが動かん! シロ様の神々しいお姿に感動して投げ銭をしようとした瞬間、画面が爆発したぞ!」
「落ち着けオイルキング! 私の端末もだ! スイスの本部から緊急連絡が入った! 現在、世界中の主要な配信サーバーと、大手SNSのバックボーン回線が同時にシステムダウンを引き起こしているらしい!」
大富豪の二人が、お祭りオヤジの法被を振り回しながらSPたちを怒鳴り散らしている。
どうやら、浴衣を着たシロ様とキツネ兄弟の『圧倒的尊さ』の直撃を受けた世界中の一千万人のリスナーが一斉にスクリーンショットを連打し、同時に悲鳴のようなコメントを書き込んだ結果、世界規模の通信トラフィックが限界に達し、地球上の大容量サーバーが一時的に一斉融解(ダウン)してしまったらしい。
ハリウッド女優のシャーロットに至っては、プライベートジェットの機内から衛星通信で「全人類のネットワークが落ちても、私は有線で愛を叫ぶわ!」と、何故か我が家の固定電話に直接ワン切りのような国際電話をかけてくる始末だった。
「世界規模のサイバーテロかと思えば、ただのモフモフの被服変更による通信過負荷か。人騒がせな生物どもめ」
俺は深くため息を吐くと、サーバーが勝手に復旧するのを待つことにして、いつもの折りたたみチェアに腰を下ろした。
そして、保冷バッグから自分のタッパーを取り出す。
中に入っているのは、完璧な温度管理をされた『冷やし玄米』と、自家製の『大豆ミートの焼き鳥風つくね串』だ。
ジュウ、と炭火の残熱で香ばしく炙られた特製つくね串を玄米の上にワンバウンドさせ、俺は一切の表情を崩すことなく、ストイックに咀嚼を開始した。
「お、お兄さん……!! 浴衣着たシロちゃんたちが可愛すぎて世界のインターネットが半分崩壊しかけてるのに、なんで一ミリも表情を変えずに大豆のつくね串を噛み締められるんですか!?」
小春ちゃんが、シロ様を抱きしめて頬擦りしながらジト目でツッコミを入れてくる。
俺は熱いほうじ茶で喉を潤し、涼しい顔で答えた。
「当然だ。いかなる通信障害(ブラックアウト)が発生しようとも、指揮官の栄養補給計画に遅延は許されない。それに、大豆由来の代替肉は、シロ様がどれほど世界を滅ぼすレベルの美しさを放とうとも、そのアミノ酸スコアに影響を受けることはないからな」
俺はカメラ(現在はサーバーダウンで配信停止中だが、録画は継続している)の前に向き直り、キリッとした真顔でいつもの『限界言い訳タイム』を発動した。
「世界中の皆さま。シロやキツネたちが可愛い浴衣を着てお披露目され、その尊さで世界のサーバーがダウンしたと思われているかもしれませんが、冷静になってください」
『(※録画データに刻まれるはずの、未来のリスナーたちの幻聴)』
『出たァァァァァ!!!』
『配信が落ちてても絶対に言い訳を欠かさない男!!!』
『主の限界言い訳タイム・サーバー融解編ww』
俺は淀みない口調で、極めてフラットに言い放った。
「あれは、お祭りのための可愛い浴衣などではありません。これより始まる夜間任務において、動物たちの熱源を完全に遮断し、夜間暗視装置(ナイトビジョン)からの探知を防ぐための『熱赤外線遮断型ステルスジャケット』の試験着用です。デザインが和柄なのは、日本の伝統的な幾何学模様が、敵の視覚センサーを攪乱するデジタルカモフラージュとして最適だからです。サーバーが落ちたのも尊さのせいではなく、十勝地方の上空を通過した微弱な太陽フレアによる、電離層の突発的な乱れ(デリンジャー現象)に過ぎません。ええ、ただの『軍事用防寒具のテスト』と『宇宙規模の気象の悪戯』が重なっただけですね」
「んなわけあるかあああ!!!」
小春ちゃんが、お祭りの出店用に用意していた『文字通り顔のサイズほどもある巨大な赤色のプラスチック製お面(ひょっとこ)』で、俺の背中に完璧なフラット・スマッシュを見舞った。
「ステルスジャケットがなんで藍染めの星屑柄なんですか!! デジタルカモフラージュじゃなくて小春の手作りお祭り衣装ですよ!! サーバーが落ちたのは、世界中のファンが同時に『尊死(とうとし)』したからだって、銀行家さんの部下がデータで証明してます!! 素直に『うちの子たちの浴衣姿は世界一可愛い』って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのひょっとこお面スマッシュ炸裂ww』
『ステルスジャケット(ただの超可愛い手作り浴衣)』
『デリンジャー現象(全世界のリスナーの尊死の悲鳴)』
『適応力バグおじさん、ついにモフモフの浴衣姿を軍事技術と宇宙気象のせいにするww』
俺の理不尽極まりない熱力学的な限界言い訳と、小春ちゃんのキレキレのお面ツッコミの録画映像は、サーバー復旧直後に全世界へと一斉に拡散され、再びMeTubeのタイムラインを爆笑の渦へと叩き落とすことになる。
『ミャウ(ほんと、素直に褒められない不器用な下僕ね)』
シロ様が浴衣の袖を揺らしながら、俺の膝の上にポスリと飛び乗ってきた。
コン吉とコン次郎も、お揃いの浴衣姿で俺の足元に丸まり、嬉しそうに喉を鳴らしている。
「……まぁ、理由はどうあれ。よく似合っている。作戦被服としては、満点だ」
俺は苦笑いしながら、シロ様の藍色の浴衣をそっと撫で、十勝の夜空にぽつぽつと灯り始めたお祭りの提灯を見つめた。
世界中を震撼させる圧倒的な癒やしと、大富豪たちの狂騒。
そして、どんな奇跡の可愛さを前にしても、決してブレない元・需品科の『ストイックな大豆ミート』。
消滅した限界集落の夏祭りは、世界一尊いモフモフたちの笑顔と、世界一賑やかな大爆笑に包まれながら、いよいよ伝説の本番の夜を迎えるのだった。
コメント
1件
え〜、めっちゃ可愛いかった🥺💕 シロ様の藍色の星屑柄浴衣とか、キツネ兄弟の市松模様とか、浴衣姿のディテールが細かくて尊すぎて泣くかと思った……! しかも「尊さでサーバーダウン」って発想、まじで天才だと思う。 “ステルスジャケット”って言い張る適応力バグおじさんと、ひょっとこお面スマッシュかます小春ちゃんのコンビも最高で、爆笑しながら読んだよ📱💥 ゆうきさん、今日もめちゃくちゃ尊い世界をありがとうございます🌙💕