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赤い点が止まったまま動かない。表示された建物の名前を見て、足が震えた。
頭では「違う、違う」と繰り返すのに、心臓は正しい答えを知っている。
――ラブホテル。
呼吸が浅くなる。
わたしは無意識に走り出していた。
厚底の重さからなのかそれとも焦りからなのか足音は夜の街に重く響いている。
数分後。
地図が示した場所にたどり着くと、ピンク色のネオンが夜を染めていた。
ホテルの入り口で、二つの影が寄り添っている。
……彼と、あの女。
女の笑い声が耳に刺さる。
彼はその声に微笑んで、何もかも受け入れるように彼女の腰に手を回した。
わたしの知っている彼の手。
いつもわたしを抱き寄せてくれた手。
でも今は、他の女に絡んでいる。
「……やだ……やだ……」
足がすくんで前に進めない。
叫び出したいのに声が出ない。
ただ、涙と嗚咽だけが喉を震わせる。
ポケットの中のスマホが震えた。
震える手で取り出す。
――「ほら、見たでしょ。これが彼の本当の姿。」
――「でも安心して。わたしは君の味方だから。」
指が止まる。
味方……?
じゃあ、どうしてそんなことを知ってるの……?
どうして、わたしの一番見たくない瞬間を知っているの……?
震える声で呟いた。
「……あなたは、誰……?」
すぐに返事が届いた。
――「彼に一番近い存在だよ。君よりも、ずっとね。」
その一文が、胸の奥に鋭く突き刺さった。
親友……? それとも――あの女……?
彼らの背中がホテルの扉に吸い込まれていくのを見て、わたしの中で何かが崩れ落ちた。
涙に濡れた視界の中、ぬいぐるみの赤い染みが脳裏に浮かぶ。
あの夜の光景が、今もわたしを縛りつけていた。