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愛の充電器がほしい

16 - 第16話 有給休暇をとる

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2025年01月20日

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「部長、申し訳ありませんが、今日、お休みいただけませんか。母が倒れたということなので、帰らないといけなくなりました。有給残ってましたよね」


『上原? そうなのか。大丈夫か。1日だけで……。せっかくだから介護休暇申請にしておくから。そうだなぁ……1週間で大丈夫か? 何かあったら、オンライン会議は休みでも出席してくれよ』


「助かります。すいません、会議の際は、連絡ください。よろしくお願いします」


『おう、お大事にな』


五十嵐部長はそう言うと電話を切った。いざとなったら、頼りになる上司だ。休みも診断書が無くても取らせてくれるホワイト企業だ。残業時間は半端ないが好きでやってる仕事だから文句は言えない。


小さなソファにちょこんと座って、バックの中から取り出したオレンジジュースのペットボトルを飲む紬。

父の颯太に会えてホッとしていた。


「紬、これ読んだけど、本当なの?」


颯太は、実花が書いたであろう手紙とあまり直視したくない緑の用紙に実花の名前と住所が丁寧に記入されており、ハンコまで押されていた。

もう、決定打だった。


こちらがどうこう言わなくても前から考えていたのかもしれない。

離婚という2文字を。まさか、現実を突きつけられるとは思っても見なかった。


そして、実花の無駄に丁寧に書かれていた手紙には慰謝料はいらないことと、養育費ももちろんいらない。

穏便に済ませたいと一方的な希望ばかりで颯太の意見は何も言えない。

最後には、紬の親権は父の颯太でお願いしたいとのことだった。

理由は、祖母である豊美が倒れて、誰もお世話する人がいないことだった。


母親であるはずの実花自身の話は一切出てこない。

確かに長く一緒に過ごしてきた夫としては頭の中で想像できる。

家事育児は、ほぼ祖母である豊美がしていたということ。

夫婦として、子どもである紬に何ができていたかというとお金を稼ぐことしかしていない。

会話は少ししたが、単身赴任の颯太にとって会う回数こそ少ないが、電話で対応していた。

母である実花よりは会話は多い方。

それくらい実花には母という自覚がない。


パンに関しては小麦粉の原材料はから始まって話し出すと止まらないが、紬の好きなものはと聞かれたら、一言も答えられない。答えられるのは祖母の豊美の方だ。

マッチングアプリで知り合ったとされるパン職人は柏谷優斗≪かしわやゆうと≫という。

泊まり込み同然で上原パン屋に働きに来ている実花より3歳年下だった。


23歳で調理専門学校を卒業していた物作りに関しては本気があった。


同じパンに尽力を注ぐ面でお互いに惹かれあっている。

颯太と一緒にいる時よりかなりべったりと過ごしてるのを見て豊美と紬は、一緒にいるのも嫌になるくらいだった。


それを気にしないのは、紬の祖父の雄亮だった。

とにかく仕事が早く済むのならわり切って、見て見ぬふりをしていた。

母の豊美のアドバイスを間に受けて、実花がこんな状況になってしまい、颯太に対する申し訳ない気持ちが勝って、ストレスが半端なかった豊美は、仕事中に倒れた。

病院にしばらく入院することになった。


ずっと、紬のお世話をしてきた豊美がいない今、もうどうしようもないし、無理だと匙を投げるように離婚届と紬の転校届を早急に行う実花だった。


急に任せられた育児にできるだろうかと不安になったが、やるしかないと意思を強く持ち、区役所や自宅近辺の学校関係の書類に目を通した。いろんな手続きが待っている。

反論する余地もない。

今まで、単身赴任で任せっきりだったのがお釣り来たんだとミッションが増えたと思えば気が楽かと思いながら、颯太は紬の荷物をかたづけながら思った。


「パパ、私、もうあのパン屋に帰りたくない。絶対。あんな変な男の人来てからママがおかしくなった。当分、パンも食べたくないな」


「そ、そうなのか? 手紙で見る限り、パン屋は順調に儲かってるって書いてるぞ。おばあちゃんが倒れたことは心配だけど……。俺は何もしなくていいのか?」


「もう、いいよ。パパ、忘れな。ママはうちらのことなんか見てないから。新しくここで過ごすの。《《わたし》》、凄いでしょう!! ここまで1人で来たんだから」


ベランダに出て、外を眺める。車が行き交っては、ビルが立ち並ぶ。東京の景色は、自然は少ない。人がたくさん忙しなく、行き交っている。


「紬、わたしって言うようになったんだな」


「うん。クラスのだいちゃんにバカにされたから、もう、わたしって言うんだ。つむぎって自分のこと言うの

変だぞって!! でも、もういいの。だいちゃんとはお別れだもんね。転校になるわけだし」


リビングに散らかった書類の数々に頭が痛くなりそうだった。


「そっか……。というか、苗字変わるなぁ。紬も変更する? 裁判所にいかないといけないけど」


「え? そうなの? 上原 紬じゃなくて?」


「俺の旧姓に戻るのよ。婿養子だったから。難しい話だよな、紬には。だから、楠って名前になるよ。楠 颯太くすのきそうたで紬は、楠 紬くすのきつむぎになるのかな。親子で違う名前になるのは嫌だもんな」


「えー、そうなの。名前変わるってウキウキするね。ゲームの主人公みたいじゃん。楠かぁ。漢字ってどう書くの?」


「えっと、こう書くよ」


颯太は近くにあった紙の裏に書いて見せた。


「画数多いぃ。これって習ってないよぉ。いつ習うんだろう」


「今、スマホで調べてみたけど、小学生では習わないみたいだ。難しいんだね」


「そうなんだ。みんなより早く漢字覚えるってことだね。頑張るよ」


「おう。そうだな」


颯太は、紬の頭を撫でた。これから、本当に大丈夫か心配になってきた。紬と一緒に住むということに責任がどっと押し寄せてきた感覚が波のようだった。美羽には迷惑はかけられない。結婚していたことだって、教えていないし、すぐに離婚はするのだが、複雑な状況に付き合いきれないだろうとネガティブに考えていた。今日、夕飯を食べに行く約束をしていたが、急用が入ったと美羽に連絡して紬と一緒に近所のファミレスでご飯を食べることにした。


窓際のイルミネーションが綺麗に見える場所だった。

その様子を、会社の上司と居酒屋に行こうとしていた拓海に目撃されていた。

あれは、どこかで見たことがある男だった。

名前は知らない。

美羽がこの人と付き合うと叫んだあの男が小さな女の子と仲睦まじく食事を楽しんでいる。

親子で既婚者だったということを拓海がその時知った。


「おーい、佐々木。どうした? 行くぞ。今日は、ビールがぶ飲みだ」

「あ、すいません。部長、飲み過ぎ注意ですよ」

「はいはい、わかってますよーだ」


拓海は、横目でレストランの窓ぎわにいる颯太を眺めては、居酒屋の暖簾をよけた。

クリスマスも近いということもあって街は賑わいを見せていた。

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