第二話 一血のゆりかご、炎の試練一
5年前の”忘却の夜”以降、佳代は「何かを忘れている」という違和感を胸に生きてきた。
12歳になった今、その理由もわからぬまま、彼女は戦う道を選んだ。
対悪魔特務機関 <セラフィム>。
人知れず人間を襲う悪魔を殲滅するために作られた、政府非公開の戦闘組織。
佳代が拾われたのはこの機関の関係者だったそうだ。
佳代はその入隊試験に志願し、驚異的な才能を見せて合格した。
だが、それだけではなかった。
「…..彼女は、第一部隊に配属する。監視対象としてもな」そう告げたのは、最高責任者の藤原修人。
そして、佳代を迎えた第一部隊の隊長一一村山光希、15歳。
この組織最高峰の隊長をたったの14歳で引き受けられるほどの才能があった。
彼は年齢こそ若いが、数々の任務で仲間を守り抜き、部隊を率いてきた天才だった。
銀色の髪と、冷たい目一ーだけど、誰よりも部下に本気で向き合う少年だった。
訓練は熾烈を極めた。
佳代の能力は「影を操る力」。
視界にある影に干渉し、刃のように動かすことができる異能だった。
ただしーー
「感情が暴走すると、制御できない……」
光希はすぐにそれを見抜いた。
そしてある日の訓練中。
仲間との模擬戦の中で、佳代の感情が爆発する。
「やめてっ…..近づかないで!!」
影が暴れ出す。誰もが一歩引いた。地面に影の触手がうねり、壁を突き破った。
佳代の瞳が紅に染まりかけた瞬間ーー
「……おい、やめる、佳代!」光希が真正面から飛び込み、彼女を組み伏せた。
次の瞬間一一彼は彼女の細い首に手をかけた。
「…..落ち着け、バカッ!」
その手にはためらいがなかった。
怒りでも、嫌悪でもない。本気の「命令」。
苦しそうに目を見開く佳代。けれどその瞳に、ほんの一瞬だけ一一正気が戻った。
「…..ごほっ、ごほっ……!」影が一気に霧散する。訓練場は沈黙に包まれた。
「自分を制御できない奴が、誰を守れる?自分すら殺す気か⁉︎」
光希の声は低く、感情を抑えきれないように震えていた。
佳代は、その場に崩れ落ちる。頭の奥が割れるように痛む。
「っ….頭が…..痛い……つ」
光希は、しばらく黙って見下ろしていた。
そして小さく呟いた。
「…..誰にも言うな。俺が女の子の首を絞めたなんて」
佳代は少しだけ笑って、そしてそのまま意識を失った。
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