久しぶりに家から出よう。そう考えた私は、上着を羽織り、二千円を懐に入れ、家から出た。目的地は無い。初冬なのにも関わらず、外は雪が降っていた。白い息を吐きながら、一人黙々と歩き始める。革のブーツが雪を踏み潰す感触が全身に伝わる。しばらく歩いていると、一軒のカフェを見つけた。どうやら営業中だったようだ。カフェの中に入ると、客は居なく、新聞を読んでる白髪の店主だけが居た。私は「珈琲」とだけ言って、席に座った。店主は顔色ひとつ変えずに、珈琲豆を挽いた。店内の雰囲気は薄暗く、然し、言葉で表現しにくい暖かさがあった。こんな雰囲気に包まれるのは久しぶりだった。しばらくして、店主が出来上がった珈琲を持ってきた。湯気を立てながら黒く渦巻く珈琲を見つめた。そんな私を横目に、店主は再び新聞を読み始めた。湯気が無くなったのを確認して、珈琲に口に入れた。砂糖が入っていないだけあって苦かった。歳をとると飲めるようになると思ったが、やはり珈琲は苦手だった。出るとしようか。財布から百円玉を二枚取り出し、会計に向かった。店を去る際、ご馳走様とだけ言っておいた。店主は何も言わなかった。店から出ると、雪は止んでいて、太陽の光が眩しく輝いていた。たまにはこう言う日も悪くない。男は軽い足取りで、家路へ向かった。
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