テラーノベル
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「はあ……
まさかこうまで強力な『抵抗魔法』の使い手が
いるとは」
冒険者ギルド支部の応接室で―――
私の前でソファに腰かけたティエラさんは、
両手を顔の前で組んで、ひじをテーブルへ
置いていた。
「いや、あれは我々も驚きました」
「一瞬にして消えましたからね」
彼女の両隣りに座る、アラフィフ・アラフォーの
従者も驚きを隠せないでいた。
「あの魔法はすごかったですよ。
確かにあれなら道中、盗賊や山賊に襲われた
ところで、どうとでもなるでしょう」
と、一応フォローを入れてみるが……
彼らの顔にはどんよりと雲がかかる。
「いやあでも、『神前戦闘』の前のちょうどいい
前座になったぜ。
おかげさんで盛り上がったよ」
それを見かねたのかジャンさんも、別方面に
話題を反らす。
あの『模擬戦』で―――
私が彼女の竜巻を無効化すると、それで勝ち目が
無いと悟ったのか、早々に敗北を認めた。
戦闘、と呼べるほどのものではないと思ったけど、
あれだけの風魔法を見た観客の評価は上々で、
さらにそれをあっさりと無効化した事についても、
そもそも『模擬戦』自体が突然の発表であり、
もちろん微妙な感触の人もいただろうが……
その後の『神前戦闘』を楽しみにしていた
観客に取っては―――
短期決着がついた事で、後の長期戦である
プロレスの面白さが引き立ち、
興行としては大成功を収めたのであった。
「まあパパッと終わった分、
すぐに『神前戦闘』に入れたから―――」
「あまり不満も無かったと思うぞ」
「ピュイッ」
メル、アルテリーゼ、ラッチと……
家族も擁護するように語ってくれ、
「ほどよく客席も温まったッスからね」
「見世物というわけではありませんけど―――
試合前や間に何か、毛色の違うものを行うと
いうのもアリかも知れません」
レイド君とミリアさんも、補足するように話す。
「そういやシン、前にそんな事言ってなかったか?
試合前や休憩中に、何かやれるならと」
ギルド長が白髪交じりの頭に手をやりながら、
質問を私へと向け、
「そうですね。
音楽とか踊りとか、子供たちの発表会でも
いいですし―――」
雑談に興じていると、対戦相手だった紫の長髪が
特徴的な女性が、おずおずと片手を挙げ、
「あのう、シンさんはシルバークラスとの
事でしたが……
つまり、ゴールドクラスはそれ以上、と?」
「あん?
ああ、コイツらは趣味で冒険者やっているような
モンだから、気にするな」
質問に対し、この施設のトップが私たち家族を
指差しながら答える。
「いや趣味って」
抗議のために反論しようとすると、
「年間金貨ウン千枚稼いでいるお前や、
ドラゴンがシルバークラスやっている
時点でなあ?」
「うぐ」
ド直球な正論に私は詰まる。
「ドラゴン……アルテリーゼさんはどうして
冒険者に?」
ティエラさんの従者、赤髪の初老の男が
彼女に疑問を投げると、
「それはまあ、シンが冒険者やっていた
からだのう」
「ピュイ」
西洋人ふうの顔立ちをした妻がまず理由を話し、
「あと、シンと一緒に行動するとなると、
冒険者やっていた方が便利だったし」
アジアンチックな方の妻も続く。
「身分証明と、私は商売上いろいろな土地へ行く
機会が多かったですので……
妻も冒険者になってもらったんですよ」
私の説明に、今度はブラウンの短髪の男性が、
「いやそれ以前―――
人外や亜人が人間のギルドに登録していると
いうのが……」
「別に、人間以外が冒険者になっては
いけないという規則は無かったからな」
セオレムさんはそれを聞いて頭を抱え、
「もしかして、ですけど―――
そこのラッチちゃんも?」
ティエラさんの次の質問に、ラッチはシッポを
ブン、と振って、
「ピュー!」
と、言葉がわかっているかのように返事をした。
「ええ、ラッチも冒険者ギルド所属です。
ランクはブロンズですけど」
と、私の言葉に褐色肌の青年が首を傾げ、
「あれ?
確かラッチ、この前シルバークラスに
昇格したと思うッスけど」
「えーと……あ、そうですね。
時期的にはダンダーさんがシルバークラスに
なるのを了承した時と同じくらいです。
王都本部から、ラッチちゃんのシルバークラス
昇格の書類が届いています」
タヌキ顔の女性が丸眼鏡をクイ、と直しながら
書類に目を通す。
「はい?」
「何それ?」
「初耳なのじゃが」
家族が目を丸くして驚いていると、
「確か去年の秋ごろだったかな?
まあ多分、あの2人が絡んでいるんだろうが。
ちゃんと毎月金貨10枚が支給されているぞ?
……と言っても、お前らの収入じゃ微々たる
変化だったから―――
気付かなかったかもな」
ジャンさんが荒い鼻息をいったん吐き出すと、
ソファに座り直す。
「いや、いいんですかねソレ。
本部とはいえ支部の頭ごしに」
微妙な表情になる私に、
「お前さんと同じだよ。
昇格条件は、依頼達成回数や俺の推薦、
他にギルドへの貢献が上げられる。
本部でも大人気だが―――
ラッチ見たさに、ココでも職員を希望する女性が
大勢いたんだ」
それを聞いて私とメル、アルテリーゼは、
『あ~……』という顔になる。
イメージアップに貢献した、という理由なら
納得するしかない。
「精霊様や魔狼の子供目当てて、児童預かり所の
職員になる人もいるッス。
それと同じようなもんスよ」
「あと、基本的に公都の小さい子供たちは―――
児童預かり所に通うのが、当たり前のように
なってきていますから」
『ガッコウ』の前の幼稚園、保育園のような
状態か。
小さい頃から顔合わせや、縁作りとしても
ちょうどいいだろうし。
そこへコンコン、とノックの音がして、
「宿屋『クラン』からの出前が来ましたが、
こちらへお通ししても?」
これも恒例だが、試合の後―――
食事をギルド支部宛てに届けさせていた。
ただ今回は、あっさり終わってしまったので、
『神前戦闘』も一通り終了した後……
出場した獣人族たちへの差し入れも兼ねて、
時間をずらしていたのである。
「おう、入れてくれ。
そこの姉ちゃんたちも食うだろ?
そういや、魔族とも何か話したらしいが、
差し支えなければ、メシがてら教えてくれ」
こうして、私の家族といつものギルドメンバー、
そしてティエラさんたちは―――
食事会へと突入した。
「聖女様、海の向こうに行っちまっていたのか。
この大陸を見限ったのか、それとも絶望しての
事なのか―――」
「……それはわかりません。
ですが聖女様の教えは、その大陸に根付いたと
言っても過言ではないでしょう」
私たちは情報共有というほどの事ではないが、
ティエラさんから話を聞いていた。
さすがにあちこちを回った商人らしく、まさか
海の向こう、ランドルフ帝国の事まで聞けるとは
思わなかったが―――
「しかし、いきなり魔王様が泣き出した時は
びっくりしましたよ」
「三百年も前の話……
当事者に会うなんて夢にも思って
いなかったですし」
カーバンさんとセオレムさんが、その時の事を
思い出してか苦笑する。
「それで、あの……
魔族の方々から、お酒や醤油、各種調味料を
たくさん頂いたんですけど。
旅の途中だったので、どうしたものかと」
女主人の彼女が困り顔になるが、
「次の行き先はどこだ?
何なら、ワイバーン便も手配出来るが」
ギルド長はレイド君に視線を移すと、
彼もコクリとうなずく。
「いえ、我々は一度、ここの王都・フォルロワまで
戻ろうかと」
「もともとこの辺りでは、王都を拠点にして
いましたので」
商売を目的としているのなら、それが正しい
選択だろう。
「しかし、冒険者ギルドの本部長に勧められて
ここまで来ましたが……
まさか王都よりこちらの方が進んでいようとは」
呆れるようにティエラさんが語る。
最も人が多く集まっているところが、文化的にも
最先端を行っている……
まあ、今回ばかりはそれが当てはまらなかった
だけで。
「じゃあ、帰りも『乗客箱』でお送り
しましょうか?
あれなら、多少荷物が多くても載せられる
でしょうし。
いいかな、メル、アルテリーゼ」
私が家族の方に振り向くと、
「りょー」
「我は夫に従うまでじゃ」
「ピュウ」
と合意が得られ、
「それじゃ、いつぐらいになるかわかったら、
ギルド支部かシンに直接言ってくれ。
こっちに来た方が連絡は確実だがな」
「わかりました。
予定が決まり次第、ギルド支部の方へ……」
こうして食事会も終わり、私たちは解散する
運びになった。
「おや、マギア様」
「おお、シン殿か」
翌日、私と妻二人はラッチを迎えに、
児童預かり所を訪れていたのだが―――
そこで、樽のような物を運び込む魔族たちと
バッタリ出会った。
「え、何この荷物?」
メルが不思議そうに問うと、ベージュの
巻き毛をした少年は頭をかいて、
「いや何。
先日、ここでちょっと取り乱して
しまったのでな。
そのお詫びというか、迷惑料として
持ってきたのだ」
そういえばここで、あの商人たちから……
過去に関わった聖女様についての話を聞いたと。
こちらも彼女たちからその話を聞いていたが、
当事者ならば感極まってもおかしくないだろう。
「真相がわかったところで―――
人間どもが三百年に裏切った事実は
変わりませんが……
あの女の本意では無かった事は、
認めなければならないでしょう」
キャリアウーマンのような雰囲気を持つ
イスティールさんが、その場に荷物を置いて
話に加わり、
「そんな事より聞いてください!
あの商人たち、わたくしの納豆は遠慮したん
ですよ!
まだ旅の途中とかで保存だってある程度効くって
説明したのにですね―――」
その横で、ダークエルフのような風貌の
オルディラさんが、納得いかないのを隠そうとも
せずにふくれていた。
「あれは人を選ぶからのう……
それに、ひきわり汁すら依頼人あっての
仕事の前は、ギルドで禁じておるし」
発酵食品は匂いも強烈なものが多いからなあ。
今のギルドは、身だしなみにも神経を使って
いるから……
「しかし、いったい何を持って来たんですか?」
多分、子供たちもいる事を考えれば、お酒の類では
無いと思うけど。
そこでオルディラさんは満面の笑みで、その樽から
一杯取り出して差し出してきた。
「えっ!?
これお酒……じゃない?」
「よく似た匂いではあるが」
私もその匂いをかぐと、確かにアルコールっぽい
香りがする。
まさかこれは―――
「甘酒?
成功したんですか?」
私の質問に、褐色肌に銀髪の彼女はガッツポーズの
ように構える。
「え?
シン、また何か教えていたの?」
「確かに教えはしたけど、詳しくはわからなくて」
甘酒は米から作られているのは知っているけど、
米麹を使う事、そして低温で作るという事
くらいしか知識はなく……
それを元に思考錯誤で作り上げたのだろう。
その執念というか根性に脱帽する。
「まだまだ肌寒い日もありますからね。
ちょうどいいと思いまして」
「余も試飲したが、子供同然のこの体でも
問題は無かった。
ゆえに、ここの子供たちが飲んでも
大丈夫であろう」
今のマギア様って五、六才くらいの姿だしなあ。
その彼が身を以て保障するというのであれば、
他の子供たちも平気だろう。
その後、私たちは魔族の方々と一緒に中へと
お邪魔し……
甘酒をメインとしたちょっとしたパーティーに
なった。
「では、今後の方針を確認します」
その夜―――
公都『ヤマト』の宿屋の一室で、ティエラは
外灯の明かりが入る窓を前につぶやくように語る。
「ランドルフ帝国における、この大陸侵攻は
何としてでも止めなければなりません。
これだけの飛行戦力を有する勢力との戦いは、
彼我に深刻な損害を出します
公聖女教の信者としては元より……
王族としても、容認出来る事ではありません」
彼女の背後に控える従者の二人は、それに
賛同しつつも、
「問題は―――
数で押せる、と軍部の連中が判断した
場合ですな」
「支配下に置いた、十数ヶ国の周辺国……
陸上であれば、優に数千を超える遠距離魔法を
中心とした戦力を、捻出出来るでしょう」
カバーンとセオレムの意見にティエラは
振り返り、
「あのアストルという男が、新型の対空兵器を
準備しているとも聞きますし―――
ウィンベル王国のワイバーン騎士隊は、およそ
20騎ほどと聞いております。
帝国が強引に推し進めているワイバーン騎兵化、
それがもし百単位で用意出来たとしたら……
間違いなく侵攻の意思を固めるでしょう。
だからその前に、何としてでも侵攻の意思を
捨ててもらわなければなりません」
この時、三人は矛盾した苦悩に囚われていた。
彼らは心情的にはすでに、この大陸寄りになっては
いたが―――
だからと言って祖国を裏切るような人間でもない。
まだランドルフ帝国よりもアドバンテージがある
今のうちに、戦力差を見せつける……
それがもっとも被害が少ない方法。
だがそのためには、ランドルフ帝国に領土的野心が
あり―――
侵攻するかも知れないという事を、少なくとも
ウィンベル王国に、情報を共有させる必要が
あった。
それでこちら側の大陸の各国が開戦を決意したら、
それこそ本末転倒である。
「……幸い、あのライオネル様は好戦的な
お方ではないと思います。
一度王都・フォルロワへ戻り―――
相談する事にしましょう」
「御意に」
「お心のままに」
ティエラの言葉に、二人は頭を下げる。
「ですが、例の話もしなければならない
でしょう。
最悪、魔族とワイバーンに関しては協力を得る
どころか、完全に敵に回す可能性もあるわけ
ですが―――」
大きなため息と共に、彼女は言葉を吐き出す。
「……そうですな。
公聖女様の教えを歪め、広めている者が
いる事―――
魔王・マギア様がそれを知ればどうなるか」
「ワイバーンに対しては、この国のように
同意を得ての協力などしてはいないでしょうし。
隷属か洗脳か、はたまたヒナや卵を人質に
取っての……
どちらにしろ、ろくな手段ではない事に
違いありません」
カバーンもセオレムも、祖国がしているであろう
行為に、頭を痛める。
「事実なれば、先に伝えておいた方が
傷は浅い。
辛い役目は百も承知。
何とか、話をまとめましょう」
そしてティエラは再び窓の外―――
夜空へ向けて視線を上げた。
「それではお世話になりました」
「おう、気を付けてな。
空の上じゃ気を付けるも何も無いだろうが」
数日後、私たちはティエラさん一行を『乗客箱』に
乗せて―――
王都へ行く準備をしていた。
だが、乗客は他にもいて、
「マギア様……
それに、『ハヤテ』さんに『ノワキ』さんも。
どうして王都へ?」
「冒険者ギルド本部長からの呼び出しでな。
余と話がしたいらしい」
幼い姿の魔王は事も無げに答え―――
そして当然のように、イスティールさんと
オルディラさんも控えている。
「俺たちもそんなモンです」
「何でも、ワイバーンに聞きたい事があるとかで」
いかつい顔の男性と、ほっそりとした顔つきの
青年がこちらに顔を向けて、
「お2人とも王都へ?」
するとハヤテさんとノワキさんは顔を見合わせ、
「いや、公都にいるワイバーンを取り敢えず
1人という事でしたので」
「レイドさんを乗せるため、ハヤテは
公都に残ります」
すると隣りにいたメルが首を傾げ、
「ン?
じゃあ何で2人ともここへ?」
するとノワキさんは大きく息を吐いて、
「ギリギリまでコイツが王都へ行きたがって
いたからです。
王都にいる仲間への家族の伝言もあるし、
難しい話になっても大丈夫か?
という事で私が行く事になったんですが……
未練がましい」
それを聞いて彼はガックリと肩を落とす。
確かにまあ、ハヤテさんは外見からしても、
言っちゃ悪いけど冷静に話し合えるタイプでは
なさそう。
「しかしワイバーンであれば……
王都にもワイバーン騎士隊がいるのに、
どうしてわざわざ公都から呼ぶんでしょうか。
ちょっと引っ掛かるんですよねえ」
ノワキさんは両腕を組んで考え込む。
「まあワイバーン騎士隊は今のところ、
ウィンベル王国の最高戦力でもあるし―――
本部長といえど簡単には会えないのでしょう。
今さら敵対もしないでしょうし、とにかく
行ってみましょう」
「シン殿がそう言ってくださると安心します。
では行きましょうか。
ハヤテ、レイド殿は任せたぞ」
「お、おう」
こうして私たちは、王都へと飛び立った。
「おう、よく来た。
まあ座ってくれ」
数時間後―――
私と家族、ティエラさんの従者二人、そして
魔族の三名、ワイバーンのノワキさんは、
冒険者ギルド本部のギルド本部長室にいた。
「いつもの応接室じゃないんだねー」
「そんなに重要な話かの?」
「ピュイ?」
そこで部屋の主はソファに腰かけながら口を開き、
「そうだな。
ここで話す事は他言無用だ。
ノワキには後でヒミコ女王に伝える事があるが、
それを頼まれてくれ」
彼は思わず身を硬直させ、鮮やかな黄色の
長髪を揺らす。
「では、まずラッチちゃんをこちらへ」
ライさんの後ろに立っていた、サシャさん、
ジェレミエルさんにドラゴンの子供を預ける。
「よほど重要な話のようだな?」
マギア様が問うと、本部長はグレーの白髪交じりの
頭をひとかきして、
「まあ、そんなところだ。
それで王都と公都で手紙をやり取りして、
こちらに来てもらったわけだが」
「え?
やり取りって……誰と?」
すると、ライさんの後ろに立っていた―――
童顔でブロンドの長髪の女性と、ミドルショートの
黒髪の女性が眼鏡を直し、その視線が一つの場所へ
向かう。
「そこにいるティエラさん……
正確には、ランドルフ帝国王族、
ティエラ・ランドルフ様とだ」
彼の発言に、室内の空気が一気に緊張した
雰囲気となった。
「なるほど……
それはミレーレ様の教えを曲解している、
などというものではないな。
完全に真逆ではないか」
「ワイバーンの件についても―――
この国のように協力体制を築いているとは
考えにくい。
あなた方の言われる通りなのだろう」
マギア様とノワキさんは、両目を閉じて
不快感を示す。
ティエラ様は一通り、自分たちが戦争回避のために
動いていた事などを話し―――
その後真っ先に、魔族とワイバーンについて
触れたのだが、
「あの、ええと……
意外と言っては何ですが。
もっと激高するものかと」
冷静に受け止められた事が予想外だったのか、
異国の姫は素直に感想を述べる。
「まあ確かに、いい気分はしませんが」
「こちらの国々にも創世神正教というものがあり、
その中の一派には、亜人や人外は全て人間に
従属すべし、という者たちもおります」
イスティールさんとオルディラさんが、
マギア様を代弁するように語る。
創世神正教・リープラス派には―――
こっちも散々迷惑をかけられたからなあ。
宗教問題というのはどこも厄介だ。
「ワイバーンとしても思うところが無いわけでは
ありませんが……
意思疎通が出来て、人の姿となり―――
人間と共存出来ている事自体、信じられない
事でしょう」
ノワキさんも冷静に分析しながら語る。
ひとまず、最悪の事態は回避出来たと思い、
ティエラ様他二人はホッと胸をなでおろすが、
「だが―――
このウィンベル王国および、連合国に
敵対するというのであれば話は別だ。
それが侵略であれば、なおさら……」
「こちらとしても、大人しくやられて差し上げる
義理はありませんからね。
それにこっちはお互いに納得して騎士隊と
なっていますが―――
無理やり従わされたそっち側は、どのくらい
役に立つか」
釘を刺して置くように、二人は考えを補足し……
それを聞いたランドルフ帝国の三人は再び身を
固くする。
「まあ待ってくれ。
公聖女様の教えとか、ワイバーンの扱いとか
それに対する改善を直接帝国に言ったら、
内政干渉になっちまう。
こうして調査として人を送り込んでくる
くらいだし―――
ティエラ様のような方もいるんだ。
話が全く通じないというわけじゃない。
とにかく今回は情報を持ち帰ってもらおう」
ライさんはそう言うと、王族の姫様に向き直り、
「それはそうとお姫様。
公都から帰って来た時に、一番知りたい情報を
教えると言ったが……
どんな事を知りたいかね?」
そこで彼女は少し考え込むも、
「いえ、公都に行っただけでも驚きの連続
でしたので―――
これ以上の情報があるのかどうか」
それを聞いた私は頭を下げ、
「その節についてはすいませんでした。
まさか、他国のお姫様だとは知らず」
「い、いえ?
身分を隠していたのはこちらですし、
対戦も希望したのはわたくしですので?」
戸惑うティエラ様の言葉の後、本部長はアゴに
手を当てると、私の方へと振り向き、
「ほんじゃシン。
ちょっと俺と手合わせしてもらおうか」
「へ?」
私が間の抜けた声を出すと妻たちが、
「いやーシンなら、もう公都でティエラ様と
戦っているけど?」
「模擬戦で、だがな。
実力はすでに知っているはずだと思うが」
続けてカバーンさん、セオレムさんも、
「そうですな。
あの強力な『抵抗魔法』は我々も
見ました」
「なので今さら、それを知っても意味は無いかと」
二人の言葉を聞き終わると同時に、ライさんは
席から立ちあがり、
「まあ、そうだな。
取り敢えず見てくれ。
後はお前さんたちが判断すればいい」
そうしてそのまま扉の方へ向かうと、私も慌てて
立ち上がり―――
次いで妻たち、そして魔族の方々、ワイバーンの
ノワキさんも腰を上げて、
ティエラ様たちも、困惑しながらついていく
事になった。
「おーし、やりますかね。
シン、全力でいくからな」
久しぶりの、恐らく本部長専用の訓練場……
そこでライさんは素手のまま、片腕をぐるぐると
回す。
「し、しかし―――
ライオネル様、シンさんの『抵抗魔法』の威力は
もう知っています。
火・水・風・土・氷―――
多分、その全てに対抗可能なはず。
しつこいようですが無意味では……」
異国の王族の女性は、困惑しつつも反論するが、
それの答えだというように彼は構え、そして
全身が光り輝き始める。
「……!!
ま、まさかこれは!?」
「全属性の魔法!?
百年に1人か2人くらいしか現れないという、
あの……!」
カバーンさんとセオレムさんは驚きの声を上げる。
「おおう、これが本部長の二つ名の―――
『全攻撃特化』のライオット……!」
「ほう、全属性か。
我は初めて見るな」
メルとアルテリーゼも、目を丸くさせる。
「ふむ、興味深い」
「全属性を使える者ですか」
「魔族にも探せばいるかも知れませんが、
これは……」
魔族の面々も、言葉は大人しめだが目の前の
光景に見入り―――
「人間にもここまでの実力者がいるとは。
いやはや……」
ワイバーンであるノワキさんも、呆れるような
声で、ライさんの『力』を認める。
「じゃあいくぜ、シン」
「いつでも」
私の答えと同時に、本部長の前で光球が
形成され始める。
同時に、部屋自体が小刻みに揺れ始めた。
実際、ライさんとの対戦は二度目なので、
全属性の魔法弾は知っている。
(■28話 はじめての おうと参照)
つまり彼は、『この事』を情報として
提供するため―――
ティエラ様たちに見せる事にしたのだろう。
「(全属性の使い手がいる、というだけでも……
確かにランドルフ帝国に取っては、対応を
考えなくてはならない事態になる。
無効化出来る私がいれば、実際に魔法を放つ
事も出来るし―――
そのために私を呼んだのか)」
合点がいった私は改めて構え直し、
直径を拡大させつつある光る球体を前に、
「魔法、魔力など―――
・・・・・
あり得ない」
そう私が小声でつぶやくと同時に……
「……な……」
ティエラ様が絶句し、従者の二人もポカンと
口を開けた。
彼の前で直径一メートル近くに達した
魔法弾は―――
音も無く消滅。
部屋の振動も収まり……
「ふうっ。
あー疲れた。
ティエラ様。
後はあなたが見た事を、祖国に伝えてくれ。
自分の言葉でな」
ライオネル様が彼女に話を振ると、
「わ、わかりました。
必ずやこの事実をランドルフ帝国へ
伝えましょう」
ティエラ様は深々と頭を下げ―――
従者の二人もそれに従った。
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