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「では、シンさん。
それに本部長―――
お世話になりました」
ウィンベル王国・王都フォルロワ。
その冒険者ギルド本部の応接室で、
『女商人』であるティエラさんが一礼し、
「面白い『商売』の話が聞けました」
「必ず『本国』にもこの話を伝えますよ」
彼女の『従者』である、カーバンさん、
セオレムさんも片手を振る。
「あの、荷物……大丈夫ですか?」
身体強化があるのはわかっているけど、
山ほどの荷物はさすがに心配になる。
「我の『乗客箱』で、海岸まで送ってやっても
良いのだが……」
アルテリーゼの提案に、彼女はパープルの長髪を
左右に揺らして、
「そもそも『仕事』で来ておりますので。
それを『送り出す』のも―――
変な話でしょう」
そう……
彼女たちはランドルフ帝国から偵察任務で
来ていたのだ。
潜入しに来たのに大々的に送り返すのも、
確かに妙な話だろう。
「でも本国って、船で行くんでしょ?
どうやって?」
メルの質問にティエラ様は小さな胸を張って、
「わたくしの風魔法の威力―――
公都でご覧になったのでは?」
「あー、なるほど」
アジアンチックな顔立ちの妻は、細い目を
見開いて納得する。
竜巻を起こせるほどの風魔法の使い手……
帆船なら、苦も無く沖まで出られるだろう。
恐らくそこで大型の船舶と合流―――
という手筈だろうな。
「しかしまあ、荷物のほとんどが甘味とは。
女子じゃのう」
「ピュイ」
ラッチをその大きな胸に抱きながら、
アルテリーゼが彼らが選んだ品物の中身を
指摘する。
一番多いのはメープルシロップ。
次いで干し柿。
魔族の存在を説明するためであろう、
魚醤や味噌や醤油、日本酒なども含まれていた。
ちなみにカバーンさんやセオレムさんは、
麺類を希望。
それとめんつゆをセットで購入した。
「納豆……」
「だからそれは他の発酵食品に菌が移ると、
シン殿が何度も説明したであろう」
オルディラさんが諦めきれないように声を
振り絞り、それをマギア様がなだめ、
「と、とにかく魔族が公聖女様の件について、
快く思っていない事は理解して頂きたい」
「ワイバーンについてもです。
本国でその情報は共有して欲しい」
イスティールさんとノワキさんが、フォローする
ように話を本題へと戻す。
そこでブラウンの白髪交じりの頭をした本部長が、
パンパン、手を叩き、
「まあそのへんで。
非公式の使者なんだし、それでも
好戦的な連中ばっかりじゃなかったと
判明しただけでも御の字だぜ。
次は正式な使者として訪れてくれる事を
望むよ。
そン時ゃちゃんと王城で歓待するから」
くだけた感じで対応するライさんに、
ティエラ様は微笑んで返し、
「ええ―――
是非とも期待しておりますわ。
『新作料理』を」
その言葉にみんなそれぞれ笑顔になったり
苦笑になったりして―――
同時にアラフィフの赤髪の男と、アラフォーの
ブラウンのボサボサ髪の男性……
二人の従者が荷物を担いだ。
「ふぅん、あの姉ちゃんがランドルフ帝国の―――
俺の『真偽判断』にもガンガン引っ掛かって
いたから、おかしいとは思っていたんだが」
翌日……
王都で新たにまた肉などの食料を買い込み、
公都『ヤマト』に戻った私たちは―――
冒険者ギルド支部の支部長室で、ジャンさんに
報告を行っていた。
「はい。
それで魔王・マギア様は一応フィリシュタさんと
情報を共有するために魔界へ……
ノワキさんは女王・ヒミコ様へ報告するために、
ワイバーンの巣へ向かいました」
「メルさんとアルテリーゼさんは?
どうしたッスか?」
私しか報告に上がらない事を疑問に思ったのか、
レイド君が質問してくる。
「妻たちなら、王都に行ったついでに購入してきた
お肉を、各所の氷室に運ぶのを手伝っています」
「いつもご苦労様です」
それを聞いてミリアさんがペコリと頭を下げ、
「あー、レイド、ミリア。
わかっているとは思うが、この事は他言無用だ」
ギルド長の言葉に、褐色肌の青年と丸眼鏡をかけた
女性は達観した表情で、
「わかっているッス」
「それにしても商人に化けて偵察・潜入ですかー。
この分ならいきなり攻めてくる事はなさそう
ですけど」
書類を棚にしまった後、隣り合ってレイド夫妻は
部屋の中央のソファに座る。
「あーそうだ、シン。
『ガッコウ』の事なんだが……
今年は『ソツギョウシキ』ってのをやるのか?」
「そうですね。
ある程度知識と技術を習得した子なら、
もうしてもいい頃かなあ、と。
さすがに学習施設として、成人過ぎまでは
想定していなかったので」
実際、もうこの国でいうところの成人―――
十五才以上になっている子もいるだろうけど、
作ったばかりで一・二年で学習を終わらせるのは
無理だろうと、ずるずると卒業させないでやって
きたという事情があった。
そこでレイド君とミリアさんが、
「でも、今じゃ料理を学ぶところとしては、
この国どころか連合国の最高峰ッスよ?」
「新生『アノーミア』連邦からも―――
暖かくなってきてから留学生たちが派遣されて
来ましたけど、評判は上々のようです。
料理だけではなく、漁や狩りのトラップ魔法、
それに魔法に頼らない体術は、護身として
使えるとの事で」
あー、新生『アノーミア』連邦から子供たちが
来ていたのか。
(■141話
はじめての せつめいかい(まるずこく)参照)
「彼らは―――
他の子供たちと仲良くやってますかね?」
「ラミア族や獣人、人化した魔狼、ワイバーンには
戸惑っていたみたいだが……
すぐ打ち解けたようだ」
そっちは人外の中でも古株といえる存在だし、
公都での生活は先輩だからな。
トラブルは起こさないだろう。
「後はまあ……
女性陣の横つながりが強いので、
大きな問題は起きていない感じッスかね」
「恋愛絡みから家庭の事情まで、
相談に乗ってくれる人がいるので―――
たいていの問題はそこで収束すると言いますか」
ふむふむ、と私は話を聞きながらうなずく。
「そんな人がいるんですか。
リベラ所長とか?」
すると若い男女は微妙な表情となり、
「あ~……
その、言いにくいッスけど」
「メルさんとアルテリーゼさんです……
あの2人が、公都の女性陣の事実上の
中心人物です」
何しているんだあの二人、本当に。
「ま、まあ……
人間代表とドラゴン代表がいるんだ。
そりゃたいていの事は大丈夫だろうよ。
いざとなりゃ夫として、シンに責任取らせりゃ
いいんだし」
「勝手にいろいろ背負わされている!?」
苦悩する私にギルドメンバーは苦笑し―――
その後も、雑談という名の情報交換は続いた。
「姫様、お疲れ様です」
「風魔法はもう結構ですので、後は船室に戻って
お休みになられたら……」
一際大きな帆船の上で―――
ティエラは、船の帆に強風を吹かせ、
かなりの船速を出していた。
あの後彼女は―――
海岸沿いに隠してあったヨットのような小さな
帆船で沖に出て、
沖合に停泊させていた、ランドルフ帝国の
巨大な軍船に乗り込んでいたのである。
「……わかったわ。
あとはお願いします」
船上の兵士たちの申し出を聞いて、彼女は
魔法を使うのを止めて交代し、船室へと
戻って行った。
「おお、ティエラ様」
「お疲れ様でした。
どうぞこちらへ……」
船室へと降りると、彼女の部下であり護衛である
カバーンとセオレムが出迎える。
「……ありがとうございます」
ティエラは一息ついて、飲み物に手を伸ばす。
「この分なら、あと1週間ほどで港に
つきましょう」
「お土産も氷魔法で保管させておりますゆえ、
腐る事はありませんし―――
姫様も一仕事終えたのですから、それまで
ゆっくりとお休みください。
たまには息抜きも必要ですぞ?」
二人の従者を前に、ティエラは口を開き、
「あのライオネル様と、シンさんの戦い……
どう思いました?」
独り言のようなトーンで質問してくる主人に、
「どう、と言われましても……」
「『全属性』の魔法弾もさることながら、
それを『抵抗魔法』で消し去ったシン殿も
さすがとしか。
姫様―――
『暴風姫』と互角以上に渡り合っただけの事は
あるかと」
自分より一回りも二回りも年上の二人に、
彼女は声の抑揚と姿勢を変えず、
「……『全属性』は未だに研究対象で、
その全容はわかっていません。
情報が少な過ぎるのです。
ただ、『全属性』とは―――
『全ての属性であり、また異なる』という
説も唱えられています」
カバーンとセオレムは、主人の言葉の意図が
わからず沈黙する。
「それに、あのライオネル様の魔力量は、
わたくしを遥かに凌駕するものでした。
そして『抵抗魔法』で相手の魔法を
打ち破るのは、相手より魔力が上回って
いる事が前提です」
「……!」
「つ、つまりそれは―――」
ここでやっと従者たちは意味を理解する。
「未だ分類不能の『全属性』……
それを『抵抗魔法』で打ち消す。
我が帝国のどの本や記録をあさっても、
そんな事例は出てこないでしょう。
考えられる条件は3つ。
1つは、どんな属性であれ問答無用で
打ち消せるほど……
シンさんの魔力は膨大である。
もう1つは―――
シンさんもまた『全属性』の使い手である」
それを聞いたカバーンとセオレムは、今度は
別の、正反対の意味で沈黙し、
「さ、最後の1つ」
「もう1つの条件とは?」
やっと振り絞って出てきた従者の声に、
ティエラはようやく振り向き、
「先ほど話した2つの条件。
前代未聞の魔力の持ち主か、
『全属性』の使い手であるか―――
この2つを満たしている場合。
つまり、前代未聞の魔力の持ち主『で』、
『全属性』の使い手『でも』ある。
……考えたくもないですけど」
しばらくの沈黙の後、カバーンから口を開き、
「不幸中の幸いだったのは、シン殿が温和な
人格者だった事ですな」
「しかし、自分はあの公都の『ガッコウ』という
ところで、ちょっと学んで来たんですけど。
そこでふと耳にしたところによりますと、
あの人―――
自分で料理を作ったり考えたりしているとの事。
何なんでしょうね、いったい?」
魔力・魔法の強弱が前提であり全て―――
その価値観はランドルフ帝国でもたいして
変わりはなく。
いわば『最強』ともいうべき実力者の振る舞いに、
彼らは困惑の表情を浮かべる。
「あまり、戦いや強さに価値観を置いて
いないのかも知れませんね。
それでも正直、祖国があの大陸を侵略する
可能性、即ち彼が敵になる事を想定しますと、
頭が痛いですが。
まずは絶対に勝てると思っている愚か者どもを、
話し合いの場に引きずり出しましょう。
どんな手を使ってでも……!」
彼女の決意にコクコクとうなずく従者二名。
そこへノックの音が響き、
「ひ、姫様。
お食事の用意が整いましたが―――」
「??
どうかしたのですか?
とにかくお入りなさい」
すると、料理長らしき男が料理を載せた
ワゴンごと入って来て、
「さっそくお土産の調味料を使わせて
頂きましたが―――
あれはいったい何なのですか!?
味も、あれを使った味付けも……
今までに無い未知の世界です!
次にもしあの大陸に上陸する機会が
ありましたら、是非とも私めを!!」
突然、絶賛を始める彼に三人は苦笑し、
「そういう事ならセオレムにお聞きなさい。
あちらで少しばかり学んできたようですから」
「え? いやその?」
ティエラの提案に彼は戸惑うも、
「是非ともよろしくお願いします!!
お時間のある時でいつでもいいですから!!」
「えぇ……
航行中の船内で時間のある時って、
ほとんど……」
ブンブンとセオレムの両手をつかんで
上下に振る料理人を前に―――
ティエラとカバーンは笑顔になった。
「あ、アルラウネさん。
それに土精霊様も―――」
「%△#%◎&@□▲」
「ええと、『こんにちは』と言っています」
公都に戻って来てから一週間も経った頃、
私は西側新規開拓地区の北、果樹や各種野菜を
栽培するエリアへ来ていた。
茶色のロングカールをした、半人半植物の彼女の
言葉は相変わらずわからないが、
エメラルドグリーンの瞳と短髪を持つ少年、
土精霊様の通訳があれば意思疎通は出来た。
「何かご用でしょうか?」
「いえ、用というほどの事は無いんですけど、
最近ハニー・ホーネットがよく公都の外まで
飛んで行くという話を聞きまして。
まあ魔物ですから、行動にとやかく言う
つもりはありませんが、何か事情が
あるのかと」
公都の人―――
正確には子供たちから相談されたのだけど。
ここの子供たちの間ではすっかり、
ハニー・ホーネットに運んでもらって飛ぶ、
というより浮かぶ程度だが、そういう遊びが
流行っており、
それが最近、そうやって遊んでくれる蜂たちの
数が減ったという事で、
私に白羽の矢が立ち―――
それとなく聞いてみる事にしたのである。
「▲※○○%×$☆?
◎&@□!%△#%」
「なるほど……
結構暖かくなってきたので、行動範囲を
広げたとの事です。
彼女の蜜だけでなく、いろいろな花の蜜と
混ぜる事で、味わいが複雑になるんだとか」
そういえば、アルラウネの彼女から蜜を直接
もらっていたんだっけ。
以前蜂蜜酒を作った事があるが、
厳密には彼女からもらった花の蜜だけを
使ったもので―――
蜂たちからはまだ蜂蜜をもらっていなかったのだ。
それが本格的に春となって、彼らの活動も
活発になってきたのだろう。
「そういう事情でしたか。
ええと、たまには児童預かり所に顔を
見せるようにと、蜂たちにお伝えください。
子供たちも寂しがってますから」
そう私が話すと、二人はプッと吹き出し、
「○%×$☆!%△#%」
「そっちが目当てでしょう、と言ってます」
図星を突かれ、思わず頭をかく。
とにかくこれで話は終わった、と思っていると、
「……?」
ふと、例のハニー・ホーネットのものだろうか。
ブンブンとうるさい羽音が聞こえてきて―――
見ると、農業地区の一角に小高い土の山のような
ものが出来ていて、音はそこからしているようだ。
「あれは、ハニー・ホーネットたちの巣?」
「行ってみましょう」
私たち三人は、その巣まで早足で近付いた。
「▲※%△#%!?」
「外に出掛けたハチたちが襲われたそうです!
恐らく相手はタイガー・ワスプと……!」
他の蜂よりも一回りほど大きな、一メートルほどの
女王蜂がアルラウネ→土精霊様を経由して、状況を
伝えてきた。
「場所はわかりますか!?」
唯一、人間の言葉がわかる土精霊様を通じて
質問し、
「×$☆!%○%、▲◎◎……」
「ここより南方、空を飛んで3時間ほどの
場所だと……!
1匹だけ逃げて来たのですが、まだ30匹ほど
残っているとの事です!」
また団体さんで残っているなあ。
そういえば、公都に来たのって百匹ほど
だったっけ。
「とにかく至急、アルテリーゼにその場所まで
飛んでもらいます!
逃げてきた蜂に道案内してもらいますので、
そいつも一緒に!」
「&@□▲!!」
「はいっ!!」
こうして私と二人と一匹は公都の中央地区まで
戻ると―――
『乗客箱』を用意してもらい、上空へと
飛び立った。
『場所はこっちでいいかの?』
「ああ、頼む」
『乗客箱』の中から伝声管を通じ、一匹の
ハニー・ホーネットが指し示す方向へと
猛スピードで飛び続ける。
「でも何で『乗客箱』なの?
土精霊様は飛べるんだし、私とシンと
その子だけだったら―――
すぐにアルちゃんだけで飛んだ方が
早かったんじゃ」
メルが緊急なのに『乗客箱』を使った理由が
わからないようで、質問してくる。
まあ確かに助け出すだけなら、土精霊様に
ハニー・ホーネットを持たせて、その誘導で
私とメルとアルラウネを乗せたアルテリーゼが
飛べばいいだけだ。しかし……
「30匹ほど残っているという話なんだ。
その子たちもケガとかしていたら、至急
公都まで運ばなければならない」
今回は相手を倒すのと救出がワンセットだ。
一気に運ぶのであれば、『乗客箱』が必要となる。
「あ~……そっかあ。
もしかしたら飛べないコもいるかも
知れないし。
タイガー・ワスプだもんね。
アレ狂暴って話だから……」
「この『乗客箱』なら、1回で全員
運べると思います。
パックさんにも待機してもらってますし、
アルラウネさんにも来てもらっていますから、
たいていの事は大丈夫かと」
「$☆%△#%」
土精霊様の話では、あの蜂たちに取って一番の
ごちそうは、やはりアルラウネの出す蜜だそうで、
彼女を連れて行けば、応急の薬兼体力回復に
なるとの事で、同乗してもらったのである。
「ん……?
シンさん、そろそろみたいです!」
土精霊様が抱いているハニー・ホーネットが
ジタバタと動き、現場が近い事を知らせる。
「アルテリーゼ、何か見えるか?」
『下が森になっていてよくわからぬが、
多くの魔力が集中している場所がある。
おそらくはそこであろう。
下降するぞ!』
そしてアルテリーゼと共に、『乗客箱』は
高度を下げ始めた。
「%×$☆#▲※○ー!!」
「みなさん、無事ですか!?」
着陸してすぐに『乗客箱』から、アルラウネと
土精霊様が降り、現場へと向かう。
私とメル、そしてアルテリーゼもドラゴンの姿から
人間へと変化し、彼らの後を追うと、
「シン、あれ!」
「敵は……2匹?
いや3匹か!」
その場所へ到着すると、ハニー・ホーネットたちが
何かと戦っていた。
突然現れた『援軍』に―――
彼らはその首を向けてくるが、
「うわ、これが『タイガー・ワスプ』か?」
狂暴なハチという事前情報から、おそらくは
地球でいうところのスズメバチ……
もしくはアシナガバチあたりと見当を付けて
いたが、
今、目の前にいるのは全体の造形こそ
近いが―――
全長は二メートルほどもあり、さらにその前足は
カマキリのように巨大な鎌の形をしていた。
それが地上に降り立ち動き回っている様子は、
虫が苦手な人なら卒倒するくらいの迫力で、
「どうする、シン?
アルちゃんの炎で燃やす……のは無しだよね?」
「ドラゴンが殺気を放つのはどうじゃ?」
妻たちは対処方法を聞いてくるが、
「それもなあ。
今弱っている方が耐えられないかも」
状況を見ると、すでにハニー・ホーネットの数匹が
地面に倒れており、
その周辺を仲間が何匹か飛んでいて―――
多分、敵の攻撃を防いだり反らしたりしていたの
だろう。
それに、相手はドラゴンのアルテリーゼが
来ているのに、お構いなしのようにその場から
立ち去らない。
極度の興奮状態なのか、それとも気配が
わからないほど、自分を見失っているのか。
「……よし、私がやる。
メルとアルテリーゼは、土精霊様とアルラウネを
守っていて」
「りょー」
「任せたぞ」
一人、前に歩み出るとそれに反応したのか、
タイガー・ワスプ三匹が鎌で出迎えるように
前足を振ってきた。
その巨体をものともせず、細い四肢で軽快に
体を上下させ、フットワークを見せる。
だが、その造形もさることながら―――
今の巨体を支えるには、あまりにも脆過ぎる。
いくら基本構造が外骨格で中身が軽いとはいえ、
そのサイズ比では……
「その大きさで、その足で―――
2メートルある巨体を支える事や、ましてや
動き回る事など……
・・・・・
あり得ない」
私がそうつぶやくと、
「ギイィイッ!?」
「ギィーーーッ!?」
もともと地に着けていた足は、そのまま
折りたたまれるように折れ、
その巨大なアゴはカチカチと鳴らす事すらなく、
力無く横たわった。
「メル、アルテリーゼ。
とどめをお願い。
鎌に気を付けてくれ。
土精霊様とアルラウネは―――
ハニー・ホーネットたちの手当を」
そして私の指示のもと、みんなは動き始めた。
「ひとまず、全員の生存確認は出来ましたね」
あの後、アルラウネが傷の深い順に自分の蜜を
飲ませて回り……
緊急的な措置を済ませた後、『乗客箱』へと
彼らを回収した。
またタイガー・ワスプの死骸は上にロープで
括り付け、
公都へ向けて帰還する運びとなったのである。
「#▲※○%×$☆……」
「重傷なコもおりますが、治療を受ければ
大丈夫かと」
土精霊様とアルラウネが、それぞれ重い怪我を
負っている蜂を抱きしめる。
また軽傷の蜂は、仲間を気遣うように側に
寄り添っていた。
『シン、そろそろ公都だが……
西地区、パック夫妻の屋敷に着陸で良いな?』
「ああ、パックさんには話を通してある。
頼んだよ、アルテリーゼ」
パック夫妻は『乗客箱』ならぬ『病院箱』を
持っているので―――
その離着陸用のスペースがあり、
そこへ向けて、降下を開始した。