テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
深夜2時。
家全体が静まり返る中、キッチンの小さな明かりだけがぼんやりと点いていた。
廊下からひょっこりと顔を出したのは、最年少のりうらだった。
発達障害による感覚過敏があり、昼間は外の工事の音や強い光に耐えられず、ずっとノイズキャンセリングヘッドホンをつけて部屋の隅に丸くなっていた彼だが、夜の静けさの中なら少しだけ動けたらしい。
「……誰も、いない?」
誰もいないリビングで小さく呟いたその時、キッチンの薄暗い間接照明の下に、背の高い人影が現れた。
いふだった。
「お、りうら。眠れんの?」
いふは低い、落ち着いたトーンで声をかけた。
幻聴が落ち着かない夜は、いふ自身もこうして夜中に起き出して、お湯を沸かすことが多いのだ。
「うん……頭の中が、ずっとピカピカしてるの。」
りうらが首に掛けたヘッドホンをぎゅっと握りしめる。
いふはそれ以上深く聞かず、ただ頷いた。
「せやな~。じゃあ、あったかいミルクでも飲む?付き合うよ」
いふは手慣れた手つきで小鍋に牛乳を注ぎ、弱火にかける。
そこに、パタパタと足音がして、ないこが起きてきた。
「……なんか、いい匂いする。」
「あ、ないこも起きたん? ちょうど今、ホットミルク作ってるとこやで」
ないこは少し気まずそうに目を逸らしたが、いふがりうらの隣の席を引いてくれたので、そっと腰を下ろした。
小さな鍋から、ふわりと湯気が立ち上る。
「熱いから、気をつけてな」
いふがマグカップを二人に手渡す。
りうらが両手でカップ包み込み、一口含むと、小さく「美味しい……」と呟いた。
「明日も、きっと色々あるよね」
ないこがミルクの白を見つめながらぽつりと言った。
「まあ、なんとかなるやろ。どうせまた、誰かが動けなくなったら誰かが動くし」
いふは自分のマグカップを傾けながら、どこか遠くを見るような、優しい目で笑った。
社会の基準から見れば、不器用で、傷だらけで、なにも使えない社会不適合者の集まりだなんて思われるかもしれない。
それでも、この深夜のキッチンだけは、彼らにとっても、俺にとっても世界で一番安全な場所だったことは、間違いない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
115
みぃ⌒🍣
13