【イギリス？】

苦しい……苦しい……何度もそう呼びかけているはずだ。なのにどうして無視をするのだ。どうして……

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【フィンランド】

イギリスが異形化した。いや、なりかけなのか、頭がだんだんと削れ、生えるはずのない場所から歯がむき出している。そして、シルクハットについた目がジロジロとこちらをみてくる。初めてみたその光景、今すぐにでも襲いかかりそうな目、俺はただ見てることしか出来なかった。他の人達も同じ様な反応だ。

助けを求めるかのように、ふとあの人を見る。いつもと変わらない。冷めた目。興味なんてまるで無い。こんな状況なのに。前のお前なら、少なくとも俺に声はかけてくれていた。いつから変わってしまったのだろう、どうしてなにもしなかったのだろう、こんな状況にでもならないと、俺はしっかりそう自覚できないのか、今更後悔しても遅い。それくらい分かっている。苦しそうなイギリス。俺は声すらかけられない。頭の整理が追いつかない。どうしていきなり？そもそもここはどこなんだ？だんだんとパニックになっていく。その時、

「今すぐ部屋から出てｯｯ！！鍵をしめろｯｯ！！」

大声でアメリカから指示が入る。みんな、言われるがままに部屋を出て、鍵を閉めた。中からイギリスに似た「なにか」の声。ドアの何度も叩いている。なにが起こっているんだ。いまだに整理できない。ほとんどの人がパニックに陥っている。パラオなんかはもう泣いてしまっている。そんな中インドネシアが震えた声で、

「ね、ねぇ……窓……外…がぁ…」

吸い寄せられるように窓の外を見る。その瞬間背筋が凍った。どうして、どうしてこんなに、

空が赤いんだ

ありえないほど真っ赤だった。雲なんてものはなく、夕焼けのようなグラデーションもない。バケツで塗りつぶしたかのようだった。困惑を隠せない。イギリスの状況も相まって、自覚できるほど落ち着きが無くなっている。こんな状況で頭の整理なんてできないはずだ。だったのだが、

「別の会議場所に移動しよう。゛本当゛の会議を始める」

またもやアメリカ指示を出した。どうして、俺はまだしも、イギリスはお前の親父だろ。どうしてそこまで冷静になれるのだ。イギリスの扉を叩く音が大きくなってきた。今にも壊れそうだった。それを見て、みんな逃げるようにその場を去った。

アメリカが指示した会議場所に急いで向かう。だが、なかなか不安がおさまらず、スウェーデンと一緒に行こうとしたのだが、

「俺帰る。まだやりたいことあるし」

「はぁ？お前今の状況わかってるのか？いいから行くぞ」

そう言って強引に手を引っ張ったが、思いっきり振り払われてしまった。

「やりたいことがあるっつってんだろうがよｯｯ！！気安く触んじゃねぇｯ！！」

あぁ、やっぱり変わってしまった。どうせゲームなのだろう。いつもなら、俺に怒鳴ってくることなんてほとんど無いのにな。とりあえず、今は追いかけても無意味だと判断し、指示された場所まで急ぐ。

皆、指示場所に集まった。一人を除いて。俺はスウェーデンの事を説明し、会議が終わり次第本人に伝えるように言われた。その時の会議内容は、あまり頭に入ってこなかった。覚えていることは、イギリスに会っても近づかない。見つけた場合はアメリカかカナダに報告、危険な状況に陥った場合のため、緊急用電話番号も作った。そして、状況把握をするためにアメリカが同行組を作った。ペアは、アメリカとカナダ、日本とパラオ、フランスとイタリア、ドイツとポーランド、韓国と北朝鮮、インドネシアとベトナム、中国とロシア、チリとブラジル、そして俺とスウェーデン。

この時までアメリカは冷静なのだと思っていた。だが、普段アメリカは仲が悪い国同士はあまり近づけないようにしている。なのに、韓国と北朝鮮の組を作っていたところ、アメリカも多少パニックにはなっているのだろう。それを感じさせないように振る舞う。上の立場にいる理由が少しわかった気がする。

解散し、家に向かう。だが、なにかおかしい。違和感が消えない。その時、ちょうど会議中に作ったグループラインにメッセージが届いた。内容を見た瞬間。違和感の原因に気付いた。

『人がいない』

そう、最初の会議室に来た人達以外に、誰もいないのだ。そしてイギリス、異常すぎる空を見れば何となく分かる。人がいないんじゃない。俺達がいないんだ。おそらく、会議室に来た人達は、どこか別空間にでも移動されたのだろう。もちろん。イギリスも被害者だ。とりあえず、イギリスを治す方法を相談しながら、俺はスウェーデンにかける言葉を探し続けている。

【スウェーデン】

こんなの、俺の意思じゃないのに、どうしてだろうな、あの会議からなにかおかしい。もしかして、異形化する条件というのは……