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そのすぐ後、時人と入れ替わるように、幸人の下へやって来たのは――
「幸人さん……」
亜美だった。傍らには一人の少年が。彼女の息子、雪季を連れて。
――当然、亜美も招待を受け、此処へ駆け付けたという訳だ。
「亜美……」
幸人は彼女との邂逅に、複雑な想いで呟きかける。
かつて愛した人が、この席に居るだけではなく。何より、彼女の傍らに居る少年だ。
まるでエンペラーの――いや、自分の生き写しそのもの。ならばこの少年は。
「お久し振り。きっと帰って来ると思ってました。お帰りなさい、そして――おめでとう」
複雑な幸人とは対称的に、亜美は幸人の帰還と無事と、そして素直な祝福を述べた。
「す、済まない……」
幸人には返す言葉も思い浮かばなかった。その懺悔は何に対してだろうか。
「ふふ、幸人さんは昔と全然変わってないのね。姿だけじゃなく……。私、老けたでしょう?」
だが亜美は、以前と変わらず接していく。
「いや、そんな事は無い。ますます魅力的な女性になっているよ」
それは本心だった。確かに肉体上では、自分より遥かに年上となってしまった亜美だが、それでも眩しい位、美しく見えた。
「ありがとう……嬉しい」
かつて愛した者同士。二人の間に、何とも言えない雰囲気が浸透していく。
「……その子は?」
流れを変える為か、ふと幸人は逸らした。そう、気付いてはいたが、亜美の傍らにいる少年の事を。
「あっ、紹介がまだだったわね。この子は雪季――私の息子です」
紹介された雪季という少年を前に、幸人は一瞬で理解した。
「雪季……。それではその子は、あの人との?」
かつてエンペラーの本当の名。その名を持つ少年の生き写し振りに。
「ええ」
亜美も否定はしなかった。
「そうか……」
幸人もそう。系列的におかしい所は無いが、エンペラーの生態的には疑問は残る。
――が、元より両者は同一人物。どちらのというよりは、どちらともの――とも取れる。
事実がどうであれ、この席で追求すべきではないし、亜美も全てを分かって受け入れた。
「ほら、雪季? 挨拶しなさい」
そう亜美は、息子へと促す。ある意味、父親ともいうべき人へ。
「どうも、初めまして……と言いたい所だけど、ちょっと残念だなぁ。悠莉お姉ちゃんは、俺のお嫁さんにする予定だったのに……。だから、アナタには祝福の言葉は述べない」
雪季は挨拶もそこそこに、いきなり毒づいていた。
「ちょ、ちょっと雪季!? ごめんなさい幸人さん、この子、最近口が悪くて……」
亜美は雪季の態度を、慌てて諌める。
「だって母さん! 納得出来ないんだよ、こんな得体の知れないのに……」
「ちょっ――」
この人は貴方のお父さんよ――と言おうとしたが、寸での所で止めた。
確信は無いというより、混乱するだけだ。
「ふふ……」
そんな彼等に、幸人は微笑を漏らしていた。
「ごめんなさい幸人さん。せっかくのおめでたい日に」
「いや、気にしてないよ。良い息子さんじゃないか」
「……嫌味かよ?」
雪季はそう受け取ったが、幸人のそれは本心だった。
まるで――昔の自分、そのものじゃないかと。
自分とエンペラー。同じ魂を持つ、お互いもう一人の自分。そして此処にもう一人。
そして十数年もの間、悠莉は彼の良いお姉ちゃんであったんだなと思うと、感慨も大きくなってくる。
「なあ雪季?」
「もう呼び捨て?」
「雪季ったら、もう……」
ふと幸人は、もう一人の自分に等しい彼へ尋ねていた。
「悠莉お姉ちゃんの事は、好きか?」
過ごした時間は彼の方が長いだろう、悠莉の事を。
「勿論。少なくともアンタよりはね」
雪季の返答は、嫌味も含んで即決。
それもある意味当然。母親は別として、物心つく前より雪季は悠莉に面倒見て貰っていたのだ。