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午後、夕食作りをする前川さんをサポートしようと、いつも通りキッチンへ行くと


「桑名さんはここの手伝いじゃなくていいわ」

「私がやるから」


前川さんと北田さんに言われて、どうしてか分からなかったのは…一瞬だった。


「公私混同で篤久様の食事の用意なんて思っているのは問題があるから」

「私の午後の予定は、全てのトイレ掃除担当だったの。桑名さんはそっちをして」


二人の口調は明らかにこれまでと違う、私への嫌悪感を滲ませたもので、逆に私が嫌悪感を持ってしまいそうだ。

人の気持ちって、聞いたことだけでこんなにも変わるのか……と見せつけられたな。


「誰かお一人のお食事準備だとは思ったこともありません。それに北田さんでなく、私か広瀬さんがサポートするのが引き継ぎの面で効率がいいと思いますけれど、そう言われるなら清掃に回ります。明日、田中さんに報告はしますね」


住み込みの私と広瀬さんが夕食の配膳などをするのだから、最後の仕上げや、温めるもの、冷蔵庫に待機させたものなどをきちんと把握するために、どちらかが調理時にいるのが効率はいいのだ。


だけど、遥香の言った“真奈美がお兄様にちょっかいを出している”を真に受けた二人は、私と目を合わせなくなったな、と思った直後にこれだ。


まあ、明日で私はここを立ち去ることになるけれど、明日は田中さんが来るので上司への報告はきちんとするわ。


「わざわざ報告するようなこと?」

「大まかに決まっている担当を会社は把握していますから、現場で変更があれば報告ですね。最初の研修で聞きませんでしたか?」

「じゃ…じゃあ、私たちも、桑名さんの公私混同を報告しなきゃ」

「そう、そうね⁉」

「どうぞ。田中さんは、遥香様の私への暴力行為とそのあとの篤久様のご対応を見ておられたので、公私混同なんて即座に否定されると思いますけど。お二人とも調理を開始されているみたいですけれど、調理中のマスクをお忘れなくお願いします」


慌てる二人をキッチンへ置いて、私は二階のトイレから清掃を開始しようと上へ行く。

二人に恨みも何もないけれど……遥香にそそのかされたようにして、二人揃って嫌がらせを開始というのは気分が良くないわ。


二階の清掃を終えて下に戻ると、ちょうど帰って来た篤久様と玄関ホールで会った。


「おかえりなさいませ…?」


早い時間なので、この挨拶でいいのかと少し迷った私に、ふと笑顔を浮かべた篤久様は


「必要になったものを取りに来ただけで、すぐに出ます。夕食は父も俺も会食が入ったのでいらない」


そう言ってから


「面倒は明日で終わり」


と小さく言った。


「……ぇ……」


明日……?

明日はお見合いがあって、奴隷家政婦の集大成の日で……篤久様は何のことを言っているのだろう?

混乱しつつもボーっとした私の手に、何かを握らせて篤久様は螺旋階段を急いで駆け上がった。


私の手には


「きれい……」


以前もらったのと同じサイズのキャンディー缶。

だけど、柄違いのようだ。


「篤久様……ありがとう…ごめんなさい」


こんな気遣いの出来る人を好きにならないわけがない。

でも……遥香に言われなくたって不釣り合いなことは分かっているし、何よりも私が今からやることは、篤久様にもご主人様にも迷惑のかかること。


私は明日、ここを出なくちゃいけない。

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