テラーノベル
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乾いた風が、保安官事務所のドアを押し開けた。
外では馬のいななきと、遠くの鉄砲音。けれど、この町では、誰も驚かない。「今日も平和」という名の退屈だ。
🟦「おっそいなぁ…グレイ保安官。」
カウンターの上でロイが足をぶらぶらと揺らしながら言った。
日焼けした頬に、いたずらっ子のような笑み。その目付きは、まるで「怒らせてなんぼ」と言わんばかりだ。
🔫「………ロイ、また勝手に入ったな。」
グレイは、低く唸りながら事務所に入ってきた。
髭と皺と疲労でできたような男。けれど、町の誰もが頼りにしていた。
🟦「ドアの鍵が開いてたからさぁ…開いてるもんは入っていいって、聖書にも書いてあっただろ?」
🔫「どこの聖書だ。」
🟦「俺の」
🔫「はぁ………」
グレイが呆れたように手をコーヒーポットに伸ばした。それの中身を見て、ロイは眉をひそめた。
🟦「……まだ飲んでんの、それ?昨日の残りじゃね?」
🔫「もったいないからな。」
🟦「もったいないって言うよりも、もう毒じゃん。」
そういいながらロイはコーヒーポットをグレイから取り上げた。
文句を言うかと思ったが、グレイはただ帽子を目深に被り直すだけ。ロイのペースに、もはや慣れてしまっている。
🟦「ねぇ、保安官」
🔫「なんだ」
🟦「俺を助手にしない?」
🔫「却下だ」
🟦「早いな!理由くらい言えよ!」
🔫「うるさい」
🟦「えぇー…俺の才能を町の平和に活かせるのに。」
🔫「その『才能』で昨日も喧嘩を売っていただろうが。」
🟦「売ったんじゃなくて、試したの。アイツら、反応が薄いからさ」
グレイは深いため息をついた。
🔫「お前、本当に飽きないな。」
🟦「飽きるほど何か面白いこと、起きてないんだもん。」
🔫「お前にとって、面白いことを起こそうとするな」
🟦「つれねぇなぁ…じゃあ、俺が保安官を笑わせてやるよ。保安官が笑ったら、俺に昼飯奢ってね。」
🔫「………勝手に勝負を決めるな。」
ロイはニヤリと笑い、グレイの前に立つ。その目は悪く輝いていた。
🟦「なぁ、保安官。俺と一緒に行こうよ?」
🔫「は?」
🟦「別にいいじゃん?保安官だし。射的しゃてき得意だろ?」
🔫「………撃つのは的じゃなくて、お前だからな。」
🔫🟦「………」
一瞬の静寂が起きる。
そして、ロイが堪えきれず吹き出した。
🟦「ぶははっ!やっと冗談言ったじゃん!」
グレイは帽子を目深に押し下げたまま、何も言わない。だが、口元の隅がほんの少しだけ動いたのを、ロイは見逃さなかった。
🟦「………笑ったな?」
🔫「笑っていない。」
🟦「いや、笑っただろ!」
🔫「………出てけ。」
🟦「やだね。ここ涼しいし。」
ロイはニコニコと笑いながら、またカウンターに腰を下ろす。その横顔を見て、グレイはもう一度ため息をついた。
🔫(どうして俺は、コイツを追い出せないのだろうか…)
その理由に気づくには、まだ少し時間がかかるようだ。
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