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ああ、めっちゃわかるわ……咲さんの「やっと目覚めてくれた!」での狂喜と、峰朝日さんのメイキャッパーメス堕とし様への熱量、どちらもキャラがぶれてなくて笑った。でもそれ以上に、千歳からのバレンタインチョコが「去年と同じで悪いけど」ってサラッと出てきたところでじーんときた。日常の中で積み重なってる関係性がにじみ出てる感じ、好きだなあ。
宇迦之御魂神様は[では、がんばれ]と帰っていき、俺は九さんと千歳に「ずいぶんよい変装」とは何か問い詰められた。困ったな。
「えっとあのその……有識者にメイクしてもらって女装したことがありまして、それがだいぶいい仕上がりだったので」
「そんな有識者がおるのか!?」
『あっ、咲さんか』
千歳はわかったようだ。
「とりあえず、咲さんにメイク教えてもらう。あと、裏……峰朝日さんにも協力を仰ごうと思う」
『えっあいつ? 大丈夫か?』
「女装して外に出て動く、ってことについては朝日さんのほうが詳しいと思うから。宇迦之御魂神様の言うことって言ったら聞いてくれる家の人だろうし」
九さんが首を傾げた。
「峰家の跡取り?なんでそいつが女装に詳しいんじゃ?」
あっやべ、峰朝日=裏垢メス男子なのは秘密にしとくってことになってたんだった。
「ちょ……ちょっとその、演じるっていうことに一日の長がある人でして! 衣装にも詳しいみたいだし!」
あわてて誤魔化すと、九さんは「演劇でもやっとるのか」と納得してくれた。よかった。
そういう訳で、俺は仕事しつつも合間に咲さんと峰朝日さんと連絡を取り、なんとか約束を取り付けたのだが、疲れ果てた。
台所から戻ってきた千歳に「疲れたよおー……」と座卓に突っ伏してうめいたら『協力してもらえなかったのか?』と心配された。
「いや協力自体は快諾してもらえたんだけど、両方とも押しが強くて……」
咲さんには「千歳ともどもストーカーに狙われていて、よそんちに匿ってもらっているけど外で行動する必要が出てしまって、ついては変装のために女装メイクを教えて欲しい」と伝えたのだが、「やっと目覚めてくれたんですね!!」と狂喜されてしまった。
「いや目覚めたとかじゃなくて必要に迫られて」
「必要なメイク用品全部送ります!使い方も指南しますよ!」
「外出られないのでオンラインで教えてほしいです、メイク用品の費用出しますしお礼も何かします」
「服も送るので、それでバッチリ女装した写真を撮りまくって送ってください、それが私の報酬です」
それが報酬になるんかい。
「わかりました、ありがとうございます」
峰朝日さんの連絡先は水香さんに教えてもらい、こちらには宇迦之御魂神様に言われたことと、それゆえ女装における立ち居振る舞いを知りたいと伝えたのだが、こっちも食いつきがすごかった。
「和泉様はメイキャッパーメス堕とし様の動画に出てましたよね! どうやって知り合ったんですか!?」
見てたんかい! いや、この人の趣味からして熱烈なファンでもおかしくないけど!
「狭山さんにしたようなことをしそうだから言えません」
「しません! しませんよ! 一度メイキャッパーメス堕とし様にメイクしてほしいだけです!」
「変なことしたら狭山さんが黙ってませんよ」
「え、狭山先生とも知り合いなんです!?」
あっやべ、狭山さんの名前出したら繋がりなんてすぐわかっちゃうな……。
「メイキャッパーメス堕としさんにはムキムキマッチョな彼氏がいますし、何かしたら狭山さんが黙ってませんよ」
「あれ、狭山先生って妹さんいましたよね」
バレた。
朝日さんは興奮しだした。
「えっメイキャッパーメス堕とし様って狭山先生の妹さんなんです!? なんで!? 兄妹揃って僕の性癖を壊しに来てるんです!?」
「あなたが勝手に壊れてるだけです。それで、外で女性として振る舞うやり方を教えてほしいんですが」
「それは、座るときに足を開かなければ大丈夫です。後は堂々としてること。でも声でバレるので、高い声出す練習してください、やり方の解説サイトと動画送ります」
#幽霊
凛道桜嵐 新
193
#日常
がくじゅつてき・あかげ
22,155
わーい
41
485
その後も朝日さんは永遠に延々と咲さんに女装メイクして欲しがってたので、俺は必死にガードして断り続け、疲れた。
そう言うことを千歳に話すと『お疲れ様だな……』と心の底から同情してくれた。
『疲れた時には甘いもんだ、去年と同じで悪いけど』
顔を上げると、千歳が小皿を差し出してくれて、小皿には生チョコがいくつか乗っていた。
「えっありがとう……えっ、去年?」
去年何かあったっけ……あっ! 千歳がバレンタインチョコくれた! ちょうどこんな生チョコ!
「あっそうか、今日バレンタインか!」
『そうだよ、だからさ、星野さんと緑さんにチョコ送ってさ、世話になってるから子狐たちと九さんにチョコあげてさ、お前用にも作ったわけ』
「うわー! ありがとう! 嬉しい!」
素直に喜んだら、千歳に強めに肩を叩かれた。
『来年こそ、好きな人にもらえるようになれよ』
今もらってるんだよなあ。
「俺は……この幸せだけで生きていけるから……」
『もっと上を目指せバカ!』
「食べていい?」
『いくらでも食べろ』
「ありがとう、食べてがんばる」
今日から、仕事と女装習熟と、それから外に出て活動するのをしなくちゃならない。なかなかハードだけど……俺は、やる。