テラーノベル
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蒼梧が扉をゆっくりと押す。 部屋の中には、塗りつぶしたような真っ暗な闇が広がっていた。
目を凝らしても、何も見えない。
おそるおそる、内側へと足を踏み入れる。
全員が室内へと足を踏み入れたその瞬間——背後の扉が、勢いよく閉まった。
「なっ——」
僕は慌てて扉を開けようとしたが——そこにはもう、扉らしきものはなかった。
扉だけでなく、壁もない。
伸ばした手はどこにも触れることなく、虚しく宙をさまよった。
と——今度は僕の足元が、唐突に消失した。
「うわああああああっ!?」
「修!?」
「修さんっ!?」
僕を呼ぶ蒼梧とオーマの声を遠くに聴きながら、僕は地面に生じた穴の中へと落ちていった。
「修!?」
「修さんっ!?」
蒼梧とオーマが叫んだ次の瞬間——周囲がパッと明るくなった。
蒼梧は、素早く周囲を確認した。
すぐ後ろにあったはずの扉も、修が落ちたはずの穴も存在しない。
それどころか——そこは広々とした、異様な部屋の中央に位置していた。
まるで内視鏡で体内を覗いた時に映し出されるような、ぬめぬめと光る粘液塗れの肉壁。
それらが、天井と四方とを覆っている。
天井には幾つもの細長い蛍光灯が、バラバラな向きで肉の中に埋め込まれていた。
そして壁にはところどころ、ホースのように太い血管が走り、ドクン、ドクンと脈打っている。
床は白い大理石のような素材だったが、そこにもあちこちに血管が侵食していた。
「こ、ここは一体——ひっ!?」
オーマが短い悲鳴をあげる。
見れば壁のあちこちに、スーッと横一文字の赤い線が生じていた。
線からは一斉に、だらだらと赤い血が流れ始める。
傷口だ。
やがて、それらはゆっくりと開いていき——
とある傷口の中には眼球が。
そして別の傷口の中には、上下にびっしり並んだ歯と、舌があるのが見て取れた。
蒼梧は、自分とオーマが、沢山の巨大な目と口に取り囲まれているのを理解した。
目と口の割合は、ちょうど半々と言ったところか。
目はいやらしく細められ、口は楽しげに口角をあげている。
「かかった……」「罠にかかったぞ……」「可哀そうに……」「生きては出られまい……」
げらげらげらげら——!
部屋全体が、文字通り、口々に蒼梧達を嘲笑った。
蒼梧は必死に思考を巡らせた。
(ナギの奴はどこだ?近くにいるのか?それとも、修と一緒にどっかに連れ去られたか?)
ナギがまだこの部屋の中にいるとして、果たしてその存在が魔女の側にバレているのかどうか、蒼梧には判断がつかなかった。
もしバレていなかった場合、蒼梧が呼びかけてしまえば、こちら側のアドバンテージを失うことになる。
そこまで考えた時——笑い声がピタリと止んだ。
全ての口が、示し合せたかのように大きく開かれる。
口の大きさは、ちょうど大人一人が潜れるくらいだ。
そこから、異形の化物達が、ぞろぞろと姿を現した。
壁の上部に位置する口から出てくるもの達は、後ろから押されるようにして床へと飛び降りている。
見事に着地するものもいれば、失敗して転んだり、他の化物の上へと落ちてしまうものなんかもいた。
蒼梧は、化物達の姿に見覚えがあった。
廃ビルで襲い掛かってきた、人間の肌をした、一つ目玉の蜥蜴人間だ。
廃ビルの二匹は似たような姿をしていたが、今回の群れはかなりの多様性に富んでいた。
見上げるほどに大きかったり、手に乗りそうなほど小さかったり。
まるまると太っていたり、ガリガリに痩せていたり。
肌の色も、薄橙の他に、黒や褐色、青白かったりと多彩な種類が揃っていた。
多様なのは、身長や体型、肌の色だけではない。
廃ビルの二匹と同じく、二本足に二本の手、目玉が一つのものが多数ではあったが、その他に——
体中に眼球がついているものや、腕が何本も生えているもの。
首の異様に長いものや、蛇のように手足がないもの。
年老いた女性の乳房がついているものや、頭部が幼い人間の男児のそれであるもの。
——とにかく、様々な造形のものがいた。
(数十匹はいやがるか)
その数は、こうしている間にもどんどん増えている。
(面倒臭え……あれこれ考えるのはやめだ)
舌打ちし、蒼梧は金棒を構えた。
「オーマ、背中でも肩でもいいから、俺にしがみつけ!」
「え!?」
「早くしろ!蔓を俺の体に巻いて、振り落とされないようにするんだ!」
「は、はいっ!」
オーマは慌てて蒼梧の背に飛びつくと、自分を巻き込むようにして、たすき掛けのように蔓を巻いた。
「エエエエッ!」
一匹がえずくような声を発したのを合図に、蜥蜴人間達が一斉に蒼梧へと殺到した。
(考えるのは、修の役割)
「オラアアアッ!」
叫びながら、蒼梧は金棒をブウンと振り回した。
「——ギエエエエッ!?」
武器に宿る妖力と、蒼梧自身の膂力。
二つが合わさり、金棒に触れた化物達が、爆散しながら四方へ吹き飛んだ。
血しぶきや内臓、脳漿などが派手に飛び散る。
(俺の役割は——これだ!)
コメント
1件
第60話、一気に読んだわ…! 修が落下してパーティ分断、しかも蒼梧とオーマは肉壁に目と口がびっしりの部屋に閉じ込められて、蜥蜴人間の大群と対峙って、もう緊張感やばかった。「考えるのは修の役割、俺の役割はこれだ」って蒼梧が割り切って金棒ブン回すシーン、めっちゃ熱かった! バトル描写の勢いと生々しさが刺さるわ。続きが気になりすぎる🔥
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