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「校庭三周な」「すみません……」
日も当たらず、寒さがべったりまとわりついた二限目の体育館内。一人制服姿のままの麗華は、体育教師の宮本先生に腕組みされ怒られていた。
宮本先生は厳しい先生で、ジャージを忘れたら体育はさせてもらせず、雨さえ降っていなかったら校庭を走ると決まっている。
こんな風さえも凍りつきそうな、極寒の日でも。
だからみんな忘れないように気を張ったり、他クラスの友達同士で貸し借りするのに、麗華にはそんな相手もいなかった。
でも、しっかり者の麗華が忘れ物をするなんて。
二人一組になり真希と柔軟体操をしながら、ふっと思った。
麗華はとにかく几帳面な性格で、予定や持ち物はどんなに小さなことでも必ずスマホに打ち込んで通知がくるように設定しているのを夏休み中に見ていた。
そうしないと落ち着かないって苦笑いを浮かべていて、しっかりしている人と自分との違いに驚いたからよく覚えている。
現に、学校始まってから麗華が忘れ物をしたと慌てている姿なんて一度も……。
私が前屈をして真希に背中を押してもらっていると、後ろから「ふふっ」と声が漏れていて、顔を上げると対面で前屈している紗枝とその背中を押している莉乃が目配せをしたかと思えばニヤニヤと笑い、なんか嫌な感じがした。
体育が終わり視聴覚室で更衣して教室に戻ると、唖然とした顔をしている麗華の姿があった。
えっ、何で?
私も思わず同じ顔をして立ち止まってしまい、慌てて自分の席に戻っていく。
あれ……? ジャージ忘れたんじゃないの?
心臓がドクドクと鳴り、ロッカーに片付けないといけないジャージが入ったショップ袋をクシャっと握りしめる。
麗華の席には黒のナイロン袋が置いてあり、それは確か麗華のジャージ入れだった。
「あの顔、最っ高!」
友達三人が集まっている教室後ろに行くと、手をパチッパチッと叩き、莉乃と紗枝は真希に「やるじゃん!」と小突いて笑っていた。
その嫌な空気感から、ようやく気付いた。
ああ、やってるな。嫌がらせを。
麗華はジャージを忘れたんじゃない、持ってきたのを隠されていたんだ。三人によって。
体育が終わった後に見せびらかすように返すだなんて、相手をどこまでも傷付けようとするやり口がえげつない。
みんなそれに気付いているのに、怒る人も、|嗜《たしな》める人もいなくて、私も同類。
そんな自分に吐き気がした。
それ以降、麗華はロッカーに入れて置くもの全てを大きなビニール袋に入れて持ち歩くようになった。
「何あれっ!」とクラスで笑われても何も言わず、ただ私物から目を離さないことを貫いていた。
そんな姿にクラスの子たちは面白く思わなかったのか、一番後ろの席である麗華にプリントを回さなかったり、麗華は図書委員で担当の日に貸出係をしないといけないのにウソの手紙で別日になったと知らせて仕事が出来ず周りにメイワクかけるように追い込んだり、クラスのグループメッセージを別に作って連絡をもらえなかった麗華を困らせたり。
極めつけには。
「痛ったぁ!」
「あ、ごめんなさい」
麗華が自席から立ち上がるタイミングにイスにぶつかっていき、わざとらしく転ける。
それにより、またクラスの子をケガさせたと騒ぎを起こし、笑っていた。
そう、いつの間にかクラス中でもいじめは伝染していき、麗華は何をしても良い対象へと変わっていった。
「あー、課題ダルっ!」
「ねえねえ、やらなくていい方法思いついたんだけどさぁ。これ西条のせいにしなぁーい?」
「えー、なになに」
昼休みの時間。たんまり出された宿題を四人で机を合わせてやっていると、莉乃がニヤニヤとしながら周りにクラスの子たちがいるのに気にすることなく話してきた。
麗華への嫌がらせを止める人なんて誰もいないし、名指しされている麗華自身は教室での居場所を無くし、休み時間は屋上に続く階段のところで過ごすようになったから。
暗くてジメジメとしているアイツにピッタリ。そんなこと言われているのを聞いたから知っていた。
それより、一体何を考えてるの?
「さて、このノートは誰が集めるんでしょうか?」
「えー、あ、そっか! 明日の当番!」
「それ、最高じゃん!」
キャハハハと甲高い声に、私の頭はクラクラしていく。
「ってわけだからさー、次は文の番だからねぇ!」
「……えっ?」
言っている意味が全く分かっていない私は、ワンテンポ遅く反応してしまう。
いつもそうだ。だから周りの会話についていけず返事が遅くてイライラされ、話に付いていこうと会話の聞き逃しをしないようにと常に頭をフル回転させていて、だからすごく疲れる。
だけど今だけは思考停止していた。
人を嵌める方法なんて、考えたくもなかったからだ。