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〜想い〜 third
仁人ver
あの電話以降、今日のPV撮影の仕事まで、待ち望んでしまっていた。そして、自身の期待に半ば呆れるしかなかった。俺は、勇人の何を求めているのか。仲間としての絆…?俺だけを見て欲しい特別な感情…?何度も押し込もうとしていた問い。勇斗は純粋で正面からぶつかってくる男だから、今回だって、忙しくなったことで崩れた俺たちのチームとしての関係を心配してるに決まっている。
ただ、勇斗があの電話を掛けて来た時、どこか同じ想いなのかもしれないと、錯覚させるほどの甘い時間だった…。だからなのか、昨晩は何処となく寝つきが悪くて、朝起きてから、鏡の前に立った自分を見て、情けなさが際立ってしまった。寝不足で目の下が褐色している。
「…マジか」
撮影に響きたくないから、朝から重い瞼を温かいタオルで包みながら、ソファーに座り込んだ。こんなにも、髪乱されている自分に腹も立ちながら、
勇斗の話…何だろ。何年も一緒にいたからこそ、性格や考え方は分かる仲だということは自負しているけれど。心配されてることは分かる。ただ、『離れていってる』の意味ってどういうこと…?
「あー、もう」
なんか、もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。こんな感情、今までならあり得ない。自分以外のものに、時間を割くなんてこと、これまで本当に無かったから。他人に興味が無いわけじゃない。でも、自分の感情を振り乱されるのは、性に合わないのだ。だからこそ、求めたくなかったのに。
とにかく、撮影現場に向かわなければ、と。座っていたソファーから立ち上がる。そうしてクローゼットから選んだシャツを鏡に合わせた自分を見て。また脳裏に浮かんだ勇斗の顔。
もう訳がわからなくなってきて消し去るように、支度を始めるしか無かった。
「お疲れ様でしたー」
今日の撮影が終わる。ほぼ、時間通りの進みだった。撮影中の勇人は、なんの変わりもない、いつもの勇斗で。他のメンバーもまた、いつも通りに撮影をしていった。意識しているのはきっと自分だけ…。
5人部屋の楽屋。
「どうする?飯でも行く?」
柔太郎の声に一瞬ドキっとする。
「あー、明日ちょっと遅出だから行くわ〜」
珍しく太智も応じている。
「何食べよか〜、勇ちゃん、仁ちゃんは?」
舜太も悪気なく言葉を紡いでいく。
珍しく5人で食事。これって勇斗も求めていたことじゃん。俺が、「行くよ…」と言い掛けたところで、勇斗が纏わりついた空気を押し出すように。
「あー、マジごめん。俺仁人と2人で飯行くって約束してて」
遮るような声。それを聞いて俺は思わず息を呑む。
「えっ…あーそうなの?」
一瞬時が止まった後、柔太郎の声に、また鼓動が早まった。
「めずらしー、勇ちゃん。でも仁ちゃんと先約あるならしゃーないよ!」
舜太が明るく返してくれる。
「じゃ、また行こーなー」
太智もさらっと返してくれて。
ほっとするような、緊張するような…
身支度をしながら、さっきから早まった鼓動はゆっくりになってくれない。
「おつかれー!」
と3人が先に楽屋を後にする。すると直ぐに
沈黙の時間…
「あー…勇斗…?」
その無言の時間が耐えられなかったのは俺の方で。思わず声をかけてしまった。
「店とってあるんだ」
行くよ、と差し出された手。え、手を繋ぐの…?一瞬戸惑った俺の表情を見て見ぬ振りなのか、強引に引っ張られた手首に触れられた温もりさえ熱すぎて、どうすればいいのか分からずに、勇斗についていくことしか出来なかった。
#さのじん
自分夢の中
7,106
「勇斗…!ちょっと待って」
そのまま止められてたタクシーに乗せられたら、やっと掴まれていた手首を離してくれた。
さっきの撮影の時と全く違う。何でも受け入れてくれるあの笑顔の勇斗は、今隣にいない。怒ってる…?俺が、勇斗と先約があるって言わなかったから…?
タクシーのウインカーの音が妙に脳裏に響く。無言のまま、この闇に吸い込まれそうなくらいの漆黒。すると、聞き慣れたメロディが、ラジオから流れてきた。
「…この前も」
「え…?」
「流れてたんだ」
この曲は…、M!LKの最新曲。
「ほんと、俺たち…頑張ってきたよな」
ふっと、勇斗の纏わりついていた重たくて怖い空気が、軽くなった。ああ、やっぱり勇斗だ。M!LKのことが大好きで、大切で。一生懸命引っ張ってくれた勇斗だから、俺はここまで一緒に走ってこれたのだと。
「ここまで来れたのは、お前のおかげ…」
そう言いかけたところで、勇斗にまた握られた手。今度はあんな強引ではない。優しくて、少し焦ったいような握り方。親指が絡み合ったあとに、人差し指、中指とゆっくり繋がれていく。
そのまま、次の言葉は発せられる間もないまま。勇斗が、「ここで、」というまで、繋がれた指は離せなかった。
「ここって」
「そう、懐かしいだろ」
昔よく来た、和食の個室店。俺の好物もあったりして、割と好きで、そういえば、勇斗にはこの店のご飯が好きって話してたっけ。ほんと、こういうとこ。さり気なく相手を喜ばせることができるのって、持ってる才能だよなぁなんて思う。
互いに向かい合わせで座る。でも注文…なんてさせてくれない勇斗の視線が痛い。
「あのさ…」
「待って仁人」
「な…に?」
「俺から言う」
絡んだ視線は離せない。そうして重ねられた言葉で、見つめられる瞬間で、また胸が苦しくなる。
「仁人のこと、大事だ、」
「…知ってる…」
ずっと考えていた。歯止めをかけて押し込んでいた自分の思いは、やっぱり勇斗と同じなら、こんなに幸せなことはないのだと。
「もっと仁人の…傍がいい」
「っ…」
「ほんとうはふたりでいっしょにいたい」
「ま、待って…」
「…待てない。俺は仁人がいいの」
俺だって思ってた…勇斗が大事で、勇斗の傍にいたくて。
「俺だって、ほんとうはふたりでいっしょにいたい…って思ってた」
最後の言葉を伝えた途端、勇斗は凄い驚いた表情をした。でも、そのあと、すごく優しい顔をして笑ったんだ。
「ほんとに…?俺、きっと、もっと仁人が良いって言うよ。もう手放せないよ」
「…知ってる。ずっと一緒にいるんだから、お前のことは分かってる」
「俺だって、仁人のこと分かってるよ。今、きっと凄いドキドキしてるでしょ?今日の撮影だって、必死に誤魔化してた。この前の電話越しだって、声かすかに震えてた。でも、それが分かってて、今日誘ったんだよ。お前、断らなかったから」
「…分かってるよ」
次に勇斗が何を言おうとしてるのかも。この言葉を発したら、きっとグループの仲間だけでは無くなる。それが怖くて、確認するのが怖かったけれど。それでも、俺たちは互いのことが分かるから。
「そうだよな。俺もお前が何を考えてるか分かるよ。だから、言ってもいい?」
こいつはどこまでも佐野勇斗だ。真っ直ぐで、人のこと一番に考えて、優しくて、あったかくて。
「好きだよ、仁人」
胸が痛い。苦しい。見開いた俺の目を勇斗は、逃さず見つめていた。
「俺の気持ち、ちゃんと、伝えたかった」
「勇…斗」
熱くなった目頭。本当に…どこまで自分を捕らえて離さないのだろう。
「俺は…」
「知ってるって言ってるだろ。この関係が崩れないかとか。グループのことが心配だとか。そういうことばっかり考えてるの分かってる。でも…それでもいいよ。それが吉田仁人なんだから」
無理すんな、そう言葉の後に。自分の感情も全て、コイツに託してもいいのかな…って。この気持ちを伝えたからって変わるものは何もない。不安を恐れるのではなく、次の新たなスタートを、勇斗と一緒に走れればいいのだと。
「好き…」
「仁人…?」
「俺も勇斗が好きだよ」
「流されてない…?」
「はぁ…っ!?」
ここにきて、コイツは何を言っているのだ。こっちが、こんなに悩んで吐き出した科白を。
「冗談だよ。マジか!嬉しいし。なぁ、もう一回言って、仁ちゃん」
「っ…!もう言うもんか!」
張り詰めていたものが一気に解けて。もうこれは、いつもの俺と勇斗だ。これからだってこの関係が崩れることはない。だって、この絆が、勇斗と繋がってるこの瞬間が、唯一無二の支えとなるのだから。
「俺は、ここのチキン南蛮が好きなんだよ。さ、注文するからな」
「仁ちゃんが好きなものなんて知ってるよ。俺だって好きなもん食べてやる」
「どーぞどーぞ、」
「誰が予約したと思ってるんだ」
ありがと、勇斗。きっと勇斗が歩み寄ってくれなければ、俺はこの気持ちに一生蓋をして過ごしていたから。これからは、ずっと傍にいるよ。
コメント
1件
きゃー!ほっこり☺️