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夢の終わりはいつも突然だ 。
『…んー……?』
何の突拍子もなく、いきなり意識が浮上してくる。眠気の残った自分の声で今まで寝ていたのだと理解する。
まだ横になったまま腕を上へあげ、うーんと短く唸りながら体を伸ばす。寝起きの心地よさが体全体を駆け巡ると同時に、とあることに気づく。
『…イザナさん出掛けてるんだっけ。』
思い出すように口に出した途端、凍てついた様に静かな室内がなんだか居心地悪くなってくる。
このままジッとりしているのはなんだかむず痒く、何となく起き上がりベッドの上で周りを見わたす。
すると部屋の中央当たりに置いてある目が痛いほど真っ白で綺麗なテーブルの上に、昨晩までは無かったはずの1枚の紙切れがポツンと置かれていることに気づいた。
その紙きれに興味を引かれた私は、寝起きでぼんやりとする足を無理やりあげ、ベッドから起き上がりテーブルへと近付く。柔らかいカーペットの毛糸が冷たくなった足の裏を優しく包み込む感触が少しくすぐったい。
『…手紙?』
なんだろうと思い、紙の端を指でつまみ上げ自身の目の前に持ってくる。大きくもなく小さくもない、特にこれといって癖のない綺麗な字で何かが書かれているのが見えた。
【 おはよ
出掛けるけどすぐ帰るから待ってて。
腹減ったら冷蔵庫の中にゼリーあるから食っといて。
だーい好き】
最後の一文は置いといて、意外と綺麗な字だな、なんて思いながらぼんやりとイザナさんの字を指の腹で軽くなぞる。
その瞬間、お腹が微かにぐぅーっという空腹を知らせる音が耳に入り、手紙から視線を切る。
『…ゼリー食べようかな』
チラッと時計を見ると針は7を指しているのが見える。朝食にはちょうど良い時間だ。
『つめた』
部屋の角には置かれている金庫のように小さい冷蔵庫から取り出した赤いいちご味のゼリーを口に入れる。
銀色のスプーンに乗せるゼリーは意外と絵になるな、としみじみ思う 。
舌に薄いいちごの甘味とゼリーの柔らかい感触が広がった。
自身の咀嚼音しか聞こえない静かな空間。ホテルの防音機能ってすごいなぁ、なんてカーテンから覗く明るくなった空と微かに見える建物の影を見上げながら、そう呑気なことを考える。
「…ずっと一人で寂しくねェの?」
その途端、いきなりあの夢の中に居た少年の言葉を思い出す。
『……どうだろう。』
昔と何1つ変わらない回答。
自虐的な笑みを静かに零し、私はもう最後の1口のゼリーと共に言葉を飲みこむ。
小さい頃からずっと1人だったから、今更“寂しい”なんて思わない。
………いや違う、誰かが一緒に居てくれた気がする。
『……だれだっけ』
既視感がフッと現れては消え、記憶の欠片が繋がりそうで崩れていった。
ずっと、わからないまま。
続きます→♡350