テラーノベル
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放課後の雛姫高校、昇降口にて。
空はどんよりとしたグレーに染まり、雨粒が静かに校庭を濡らしている。
瑚音彩花は昇降口の柱にもたれ、ひとりポツンと立ち尽くしていた。
瑚音彩花は傘を忘れていたのだ。
どうやって帰ろうか考えあぐねていた。
その時__。
「……君、傘ないみたいだけど大丈夫?」
声がした。振り向けば1年生の人気者。
平岸燈弥がたっていた。噂には聞いていたが、クラスが違うので会うのは初めてだった。
彼は彩花に傘を差し出し、雨の中を走って帰ろうとした。
「、え?」
思わず声が出る彩花。
「え、あ、あの…」
「その傘、あげるよ」
静かだけど優しい言葉。
彩花は傘を受け取った。
雨の中を走る彼に
心だけが先に、触れてしまった気がした。
絵を描くのが好きだった。風景を描くのが好きだった。
だがその日彩花は、初めて人1人を描きたいと思った。
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