PIECE COLLECTOR
【二話】
「君は…怖くないの…?」
彼女の体をベッドへ拘束して、最後に口にガムテープを貼ろうとした時、ふと思わずそう問いかけた。
「どうせ殺されちゃうんでしょ?」と冷めた反応の彼女
覚悟が出来てりゃこっちとしては苦労が無い訳だが俺はいつの間にか理屈で量れない彼女の思惑に興味を持ってしまっていた。
「私の顔はそんなに珍しいですか?」と少女は不愉快そうな顔をした。「いや、顔はそんなに…むしろ言動が珍獣…」と洩らすと「どうせ私の顔は平々凡々ですよ!」と怒った。
この状況でそんな所に突っかかれる神経も分からないのだがもっと分からないのはこんな面倒そうな子を
さっさと処分してしまう気になれない自分の神経も分からなかった。
後々きっと面倒な事になる。
俺の直感が明らかな危険を予測している。
だけど、どうしてもそんな気にならない。
さて…どうしたものだろうか…
そんな事を凝視したまま考え込んでいると
沈黙に耐えかねたのか、彼女は俺におずおずと質問をし始めた。
「出来れば…その…殺される前に…教えて頂きたいんですが…何故…彼女を殺して…その…頭を持って帰って来たのですか?」
思いもしない質問だった。
てっきり我が身を守る為に駆け引きでも仕掛けてくるのかと思った。
しかし困った質問だな…そんな事を問われても…俺は只…
「頭を持ち帰ったのは研究の為、殺したのは…彼女がそう望んだから与えただけで……」
「望む…?」
「殺して…と…」
「だからって…!なんて事を!!人間なら誰だって悩んで…戯言でそんな事をいう事だって在るでしょう?」
そう拘束されながらも掴みかかってきそうな勢いで俺にどなった。
「俺は人間じゃないらしいから…そんな気持ちわからないな…」
「人間じゃないなら…何なのよ…」
「‥俺は‘悪魔の子’らしい…」
何の感傷も無く言った言葉をどう受け取ったか知らないが少し神妙な顔をした彼女は俺を真っ直ぐ見据え…
「分からなくても…人の命を奪うなんて…そんな事してはいけないのよ…」
そう悲しい顔をする彼女を見ていて胸の辺りに少しの違和感を感じそっとそこを撫ぜた。
「ねぇ…私は…殺していいわ。その代わり…もう二度とこんな事しないで…」
そんな妙な懇願する彼女に「君の命はそんなに価値が在るの?」と聞くと
「‥そう言われると何とも…自信は無いんですが…」と何とも気の抜けた答えを返してくる彼女が妙におかしくて思わず噴出してしまった。
そんな間の抜けたやり取りを続けている内にお腹が空いたのか腹から妙な音を出した彼女が
「出来れば何か食料を貰えると嬉しいんですが…」と
情けない顔をして俺に言ったが
「君を拘束したまま食事に…なんて行けないし…料理など出来ないし…申し訳ないが…そういう訳にはいかないな…」と断ると
「材料さえ用意してくれたら…私!作りますから!」
と力いっぱい俺にアピールする彼女に思わず笑った。
「あはは…!まさか!そんな事許可出来ないよ!君が料理中に調理器具を使って俺に攻撃して来ないとも限らない。君が思うほど、俺はそんなに馬鹿じゃないよ。」
「しませんってば!何なら何か飛び道具を私に向けて警戒しながら見張ってれば良いじゃない!怪しい動作をすれば撃てば良いし…」
そう必死に食い下がる彼女の熱意に負ける形で俺は彼女の口に再びガムテープを貼り食材を買いに行った。
彼女の言った食材をメモした紙を片手に行く
一度も行った事の無い‘買出し’に正直、心はときめいた。
この家に誰か居た時はその誰か…が勝手に購入し、調理してくれていたので時間になったら俺は食卓に座るだけだったので生まれて此の方こんな経験をしたことが無かった。
店では散々迷子になった挙句、何とかいくつかの食材をかごに詰め
他の材料はお手上げ…とばかりに店に居るスタッフに食材メモを見せたら
正しいと思っていたそのどれもがメモとは違った物を選んでいたらしく
見かねたスタッフに全ての品を揃えられる…と言う恥ずかしい思いをした。
そうして俺は帰路につき、大量の食材を抱えてキッチンに運ぶと
二つの奇妙な形の野菜を両手に持って彼女の待つ部屋へと向かった。
日が暮れて真っ暗な室内でベッドに横たわる彼女…
その姿が見えないので野菜をサイドテーブルに置き、
その脇の燭台に火を灯し改めてベッドの上を見ると
オレンジ色の炎に照らされた彼女はまるで人形の様に
拘束されたまま幸せそうに微笑み、寝息を立てていた。
一体どういう神経の持ち主なんだろう…
出逢ったばかりの…しかも人殺しと分かってる人間の家でこんなにスヤスヤと眠れるなんて…
…理解できないが…彼女を殺すなら今だな…
変に騒がれて手こずる事もないし…
折角買ってきた食材も無駄になるが…
まぁ仕方が無い。彼女は俺が人殺しという事を知っている。
遅かれ早かれ処分しなければならないのだから…
そう思い、女性独特の触れれば折れそうな細い首に
コートから出したメスを当てた……が…どういう事だろうか…どうしても自分の手首を返し
いつもの様にぐっと引く気になれない…
そのままどうする事も出来ずに立ち尽くしていると
気配に気が付いたのか…ゆっくりその瞳を開き
俺の手にある刃物に気が付いたのか
「すいませんが…殺すなら食事の後にして頂けませんか?…お腹が減って…ひもじいので夜な夜なベッドサイドに出て食料をせびる幽霊になる可能性が非常に高いので」
そう真顔で言う彼女に俺は盛大に噴出した。
「…っくくく…っぁはは!!分かった!分かったよ!降参だ!食材揃えたのでキッチンに行こう!」
そう言って彼女の口を塞いだガムテープと手足の拘束を取り彼女の背中にメスを押し当てて自力で立つのを待った。
彼女は起き上がり、ベッドサイドに目を向けると
そこに置かれた奇妙な形の野菜を手にして「食材って…これだけ?」と首をかしげた。
「いや、他のはキッチンに置いてきたんだけど…
君に聞きたい事があって…」
「…何ですか?」
「君は…どっちがブロッコリーか分かる?」
【続く】
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