テラーノベル
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松明の光がどんどん近づく。
犬の吠え声も、すぐそこまで迫っていた。
紗羅は縄に絡まった健を見上げ、唇を噛む。
このままじゃ、2人とも終わりだ。
「健……ごめん」
そう呟くと、紗羅は腰に差していた小さな果物ナイフを引き抜き、縄に刃を押し当てた。
乾いた繊維が少しずつ裂け、健の足がわずかに下がる。
『おい、危ないやろ!』
「いいから黙って!」
必死で縄を切る手は震えていた。
焦りと恐怖で、呼吸が浅くなる。
ガサッ。
すぐ背後で茂みが揺れた。
振り返ると、複数の村人たちが松明を掲げ、こちらを見つめている。
その顔には怒りと憎悪が浮かんでいた。
《逃げられると思ったか、化け物とその仲間め!》
紗羅は反射的に健の体をかばった。
村人たちの何人かが、手に持った縄や棒を振り上げながら近づいてくる。
あと一息で縄が切れそうだ……
そう思った瞬間、背中に鋭い痛みが走った。
誰かに後ろから突き飛ばされ、地面に倒れ込む。
視界がぐらりと揺れる中、最後に見えたのは、健がまだ宙に吊られたまま必死に叫んでいる姿だった。
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