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シン、と静まり返った病室で、康二は眠れずにいた。消灯時間をとうに過ぎ、非常灯のぼんやりとした光だけが、だだっ広い部屋を頼りなく照らしている。
(めめ、来んかったな…)
目を閉じれば、メンバーたちの顔が次々に浮かんでくる。その中に、一番会いたかったはずの彼の姿だけがない。忙しかっただけだ、きっとそうだ。そう自分に言い聞かせようとしても、楽屋での冷たい瞳が脳裏に焼き付いて離れなかった。昼間の賑わいが嘘のように、孤独がじわじわと心を蝕んでいく。
誰かを呼びたくても、面会時間はとっくに過ぎている。携帯を握りしめても、発信する勇気はなかった。
どれくらい時間が経っただろうか。心身の疲労からか、康二の意識はゆっくりと沈み始め、やがて浅い眠りへと落ちていった。
そして、夢を見た。
目の前に立つ目黒が、氷のように冷たい目で自分を見下ろしている。
『お前のせいだ』『もう顔も見たくない』『いなくなれ』
次から次へと、鋭い言葉がナイフのように突き刺さる。何かを言おうとしても、声が出ない。口を開くことさえできず、ただ罵声を浴び続けることしかできなかった。目黒は背を向けると、どんどん遠くへ行ってしまう。
『待って!』
そう叫ぼうとした瞬間、康二の体は現実の世界で大きく跳ねた。
「…いやや…っ、きらわ、ないで…!」
現実と夢の境が曖昧になり、涙が止めどなく溢れる。
「…いか、ないで…っ、ひゅっ…はっ…」
過呼吸を起こし、シーツを固く握りしめて懇願の言葉を繰り返す。その苦しげな声に気づいた巡回中の看護師が、足早に病室へと入ってきた。
「向井さん、大丈夫ですか!?しっかりしてください!」
肩を優しく揺すられ、背中をさすられる。看護師の落ち着いた声に導かれ、康二の呼吸は少しずつ、だが確実に落ち着きを取り戻していった。
「…大丈夫ですか?悪い夢でも見ましたか?」
優しく問いかけられ、張り詰めていたものが切れたように、康二はぽつりぽつりと話し始めた。
「ともだち…いや、親友に…捨てられて…」
もう会ってくれないかもしれない。嫌われてしまったかもしれない。弱々しく語る康二の話を、看護師は黙って聞いてくれた。
「…明日も、仕事、なんですけど…」
「そうでしたか。もし眠れないようであれば、睡眠導入剤をお持ちしましょうか?」
その提案に、康二はこくりと頷いた。
しばらくして、看護師が水と一緒に小さな錠剤を持ってきた。「これを飲んだら、少し楽になると思います。もしまた何かあったら、すぐにナースコールを押してくださいね」と言い残し、部屋を出ていく。
一人になった瞬間、静寂が再び康二を襲った。そして、夢の中の目黒が、冷たい声が、脳内でフラッシュバックする。その声はどんどん大きくなり、頭の中で反響して、康二を内側から苛んだ。
(もう、いやや…)
苦しくて、辛くて、逃げ出したかった。
(このまま…死ねたら、楽になれるんかな…)
そんな無理な願望が、ふと頭をよぎる。気づいた時には、無意識に薬を手に取り、水で流し込んでいた。薬が効いてくるまでには、まだ少し時間がある。
康二は、ただ静かに、もう一度眠りの底へと意識を沈めていった。悪夢の続きを見ないことだけを、心の底から願いながら。