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「ぱたーん?」
咎めるようにじーっと見られ、アタシは口ごもった。
「い、いや、こっちのことや」
コイツが噂のヒッキーの1人か。
むぅ、こんな怖い奴やったとは……。
「れれれ霊道って?」
ワンちゃんの震える声。
そうや、その話や!
突然の霊感少年登場に、アタシはちょっと浮き足立っていた。
「においがしたでしょう」
「は? 臭い?」
「つよいれいはねぇときにきょうれつなにおいをはなつんだよぅ……」
強い霊は時に強烈な臭いを放つものだと、Gは言う。
長い年月、同じ所に留まっている霊もまた然りと。
「そういや入った時、この部屋ヘンなの臭いしたな。煙草の匂いみたいな。窓開けたから消えたけど」
吸わない人間にとって、あれはキツイ臭いや。
しかしうちのアパートには煙草を吸う人はいない筈。
意外とみんな健康的やし。
「オキナ、アンタが吸ってんのちゃうん? 隣りの部屋やし、臭いがこもってもおかしくないわ」
「やめてよ。ボクは3ヶ月前に禁煙達成したんだから」
「ホンマか?」
「ホントだよ~」
怪しい。
「じゃあ、かぐやちゃんは?」
「ワシが煙草を? まさか! 戦場で特有の匂いを残しては命取りに……」
「せんじょう? ああ……分かった。吸ってへんねんな」
お姉でもうらしまでも、ワンちゃんでもカメさんでもない。
ということは、この部屋で煙草吸ってたのは誰や?
「ゆゆゆ幽霊ですぅ!」
ワンちゃんの叫びに、アタシらはざわついた。
いわくつきのこの部屋、やっぱり出るんや。
んん? 煙草吸ってるヤンキーの幽霊を想像して、アタシは一瞬混乱した。
「ちょっと待って。オカシイって! 煙草吸ってる幽霊が、アタシのパンツと桃太郎のズボン盗んで部屋に並べとくのか? その幽霊、一体何がしたいの?」
「………………」
誰も答えられなかった。
その時、アタシは目撃する。
アタシらが凝視する中、窓が勝手にソロソロと開いたのだ。
これこそ心霊現象かと肝を冷やしたものの、窓の外からニョキッと伸びた腕にすぐ気付く。
「よっ」とかけ声をあげながら、ランドセル背負った男の子が窓枠を越えて入ってきた。
慣れた様子で靴を脱いで、ランドセルから体操服(使用済)を取り出す。
さらに、次から次へとランドセルの子供が部屋に入ってきた。
「くっせ~~~っっ」
「おれのがくっせ~~~っ」
汗ビショの体操服を振り回して遊びだした。
キャハハハと何だか無邪気に笑っている。
ようやくアタシらに気付いた様子。
お互い硬直すること数分。
「ヒィー!」
「キェー!」
思い思いの悲鳴をあげて、子供らは散っていった。
「ま、待てやっ!」
アタシも窓枠を越えて追いかけようとしたものの、足が引っかかって庭に落ちる。
「あ痛っ! 右足がっ……!」
騒ぎで舞い上がったパンツが、ヒラヒラとアタシの上に落ちてきた。
結局パンツ泥棒は近所の悪ガキだと分かった。
アタシのパンツに興味があったわけではなく、近所のボロアパートでの肝試しの一環だったらしい。
一人ずつアタシの部屋に忍び込んでパンツを一枚取って、それを1─3に並べて帰るという企画。
剛の者は、更にその部屋で汗臭い体操服を振り回して遊んだということだ。
それが最近、この近所の小学生のブームになってたらしい。
アタシがしたり顔で煙草の匂いとか言ってたのは、小学生の汗の臭いやったんやな。
「訴えてやるわ! うちのアパートを何だと思ってるのよ!」
お姉はそう言って息巻いて出て行ったが、しばらくしてからグッタリした様子で帰ってきた。
小学校に怒鳴り込み、校長に直談判。
すぐに全校集会が開かれたらしい。
校長が事件のあらましを全校生徒に説明し、そしてみんなが声を合わせて「大家さん、ごめんなさい。妹さんにもごめんなさい」と謝ったということだ。
「それ、晒し者にされただけやんか……!」
お姉、力なく頷く。
「ハゲの校長が講堂で、大きな声で事件の説明をするのよ。その間中わたしは一人、壇上にパイプ椅子置いて座らされて……。わたしと校長以外、生徒も先生もみんな笑ってるの。特にパンツの件。あれは拷問だわ」
さすがのお姉もこれはツラそうだ。
ご主人のテンションに合わせてうらしまも落ち込み、それをカメさんが必死に慰めている。
「それよりリカ殿、足は大事ないか」
「いや、それが……」
桃太郎に言われるまでもない。
アタシは右足甲の激痛に耐えていた。
これは……イッたかもしれんな。折れてるかも?
騒ぎが収まってから気付いた。
いつの間にか花阪Gの姿が消えている。
部屋に戻ったのだろうと2─4の扉をノックするも、返事はない。
まさかコイツが幽霊だったのか?
そういうオチなのか?
まことしやかに囁かれ始めた花阪G怪談説。
しかし夜遅くに、パチンコの景品を抱えて、Gがのんびり戻ってきた。
何やねん、このオチは!
「27.花阪G・妖精事件~不毛にツルっツル」につづく