この穴を、埋めて

「うぅ…ｯあぁあ」

後部座席から聞こえる白石の泣き声と、車のエンジン音だけが聞こえる

「…すまなかった

俺のせいで、小豆沢は」

「なんで…！なんで冬弥が謝るの！！

私が！私がこはねに選ばれなかっただけなのに！」

白石は、俺に怒鳴った

今日、初めて

「冬弥は何も悪くない！！！

わるく…ないからｯ！」

「…そうだな」

「私だって彰人の背中押したことは悪くなんて思ってない！冬弥も、同じだよ

一緒に、堕ちてくれる…？」

少し渋った自分がいた

まだ、彰人に連絡を取りたいなんて思っている自分がいた

また歌いたい、彰人と

いや、歌えなくたって

彰人のそばにいられたら、それで

それでよかった

それももう、叶わないなら

「…当たり前だ」

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こは ねが好きだって気持ちを抱えて、9年がたった

まだこの気持ちを引きずっている私が、嫌だった

冬弥との関係だって、彰人の背中を押したことだって、こはねの不幸を願ってしまうことだって、全部全部嫌だ

こはねなら

彰人なら

こんなの間違ってるって否定してくれたはずだよね

そうでしょ？

でも、冬弥は違うんだよね

冬弥は全部肯定してくれる

白石は間違ってないって言ってくれる

だからよくないって、わかってる

でもだめなんだ

もう私は、冬弥から離れられない

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最低限の荷物だけを車に詰めて、マンションを後にした

もう、ここには戻らない

またな、なんて言えない

さようなら、彰人

もう、終わりなんだ

この恋も、全部

また会えるなんて思ってないから

ばいばい、こはね

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「…なぁ、よかったのか」

オレは、こはねにそう聞いた

「なにが？」

「…とぼけんな」

「えへへ、ごめんね」

悲しそうに窓の外を見たこはねは、続けた

「…もう、わたしたちは戻れないから

恋愛感情が混じっちゃったら、もう友達も、仲間でいるのもだめなの」

「……」

「東雲くんだって気づいてたでしょ？

青柳くんのこと」

「まぁ、」

「東雲くんは、青柳くんの気持ちに応えるより、奥さんに告白することを優先したの

それでもう、東雲くんの優先順位は決まってた

青柳くんのことも大事だったよね

でも、恋愛感情じゃなかったんだもん。東雲くんのせいじゃないよ」

「…それでもオレは、冬弥のそばにいたかった」

「…わたしだって

わたしだって杏ちゃんのそばにいたかったよ

友達として、相棒として」

オレは唇を噛んだ

どうして親愛と恋愛は別なんだろうな

いつのまにか冬弥と繋がってたSNSも全部消えてた

こはねも同じだったらしい

杏と冬弥がヤってるのに気づいた時、とんでもないことをしたと思った

セフレ？冬弥と杏がそんな関係になるなんて思わなかった

ふざけるなって

言いたかった

オレは、そんなことを言える立場じゃない

そこまで追い詰めた、張本人が、言えることじゃない

「……ごめんな、冬弥」

「杏ちゃん、ごめんね」

わたしは、高校生の時の杏ちゃんのDVDを再生した

会場を沸かせるあの歌声を

もう一回でいいから

聞きたかったなぁ

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「ｯあ”、う…//んんっ♡ふ、お”、//」

白石が急に誘ってきた

今はまだ、車の中だ

「ふっ、♡はぁ…」

「…ねえとーや」

白石は、涙を流して言った

「キスしていいよ

愛してる、冬弥」

「…そんなの、違」

「違くないよ

愛してるの、冬弥のこと」

悲しそうな笑みを浮かべて、白石は続ける

「もちろん、恋愛感情じゃないよ。ほら、母親が子供に愛してるって言っても、恋愛対象ですって意味じゃないでしょ？」

白石の中が、ぎゅっと締まった

「…ﾂ♡しら、いし、締まっ」

「冬弥は、愛してない？」

「……愛してる

愛してる、白石」

「…うん、私も

堕ちてくれるって、約束したもんね」

ただ、俺たちは求め合い、心も、体の穴も埋めるだけ

ただ愛してる

それだけだ

これが恋愛感情なら、まだ楽だったのにな

どうして、親愛と恋愛は違うんだろう

なぁ、白石

「…忘れよう、何もかも」

「…うん、こはねも、彰人も、全部」

歪（いびつ）だって言われてもいい

変だって言われてもいい

幸せになろう

俺たちには、幸せになる権利がある

「冬弥、私、幸せだよ」

「…俺には、わからない」

「…じゃあさ、

幸せだとしか思えない生活しないとね」

白石は静かに俺と唇を重ねた

俺たちはそのまま、快楽に溺れていった

「この穴を、埋めて」

完結

最後まで読んでいただきありがとうございます

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あとがき

お久しぶりです。おだんごと申します

以前から、セフレ、歪な愛、メリバに興味があり、全部詰め込んでみました

何処までも救いようがない話でしたが、いかがだったでしょうか

コメント、大変励（はげ）みになりますので、ぜひご感想聞かせていただけると嬉しいです

また次回作でお会いしましょう

それでは、また