テラーノベル
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朝、目が覚めた瞬間、
体が重くて、頭がぼんやりしていた。
喉が熱くて、息をするのもしんどい。
「……」
起き上がろうとして失敗し、そのまま布団に戻る。
少しして、ドアが開いた。
「ないこ? 起きてる?」
まろの声。
「うん。」
掠れた声に、まろがすぐ近づく。
「顔少し赤いな……熱あるわ」
額に触れられる。
「…ごめんなさい」
無意識に出た言葉だった。
「なんで謝るん」
そう言いながら、まろは水を持ってくる。
コップを受け取ろうとして、
指先に力が入らず、少し零した。
「ぁっ、」
「ええよ、ええよ」
まろがすぐ拭く。
その動きが、やけに近く感じて、
胸の奥が少しざわつく。
「……まろ」
名前を呼んだつもりはなかった。
「ん?」
「……その、」
言葉を探そうとして、頭がうまく働かない。
「……いなくならない、で」
言った瞬間、 自分でも驚いた。
質問の形をしているのに、
どこか縋るみたいな声音だった。
まろは一瞬だけ黙ってから、
穏やかに答える。
「何言うてんねん」
責めるでも、からかうでもなく。
「ちゃんと、ここにおる」
その言葉が、
胸の奥に静かに落ちる。
「……そっか、」
少しだけ、肩の力が抜けた。
「今は寝とき。 考えんでええ」
布団を整えられて、
その手が離れる前に、ないこは小さく言った。
「……ありがとう」
それだけ。
本音までは、まだ言っていない。
でも、感情は確かに、滲んでいた。
目を閉じると、
熱のせいで意識が遠のく。
(……変なこと、言ったかも)
そう思いながらも、
不思議と不安は少なかった。
目を覚ますと、
頭の重さはだいぶ引いていた。
喉はまだ少し痛むけれど、
昨日ほどの熱はない。
(……下がった、かも)
体を起こして、ふと昨夜のことが脳裏をよぎる。
まろの手。
近い距離。
自分の声。
いなくならないで
一気に血の気が引いた。
(……言った)
確かに、言った。
どうしてあんなことを。
熱のせいだとしても、
あれは、あまりにも素直すぎた。
「起きた?」
まろの声に、心臓が跳ねる。
「う、うん」
「熱下がったな。 無理せんでええけど」
いつも通りの口調。
昨夜のことには、触れない。
それが逆に、落ち着かない。
「……昨日の、俺っ」
言いかけて、止まる。
何を言えばいいのかわからない。
謝る?
忘れてください、って言う?
まろはないこの様子を見て、 小さく息を吐いた。
「覚えてるんや」
その一言で、
逃げ場がなくなる。
「う、ん…」
結局、それしか言えなかった。
「変なこと、言って…」
まろは首を横に振る。
「変やないで?」
あっさりと。
「熱出てたしな。 誰でも弱る」
それ以上、深掘りしない。
でも、
完全に流されたわけでもないと、ないこにはわかった。
「……忘れてほしい」
思わず、そう言ってしまう。
まろは少し考えてから、
穏やかに言った。
「忘れへんけど」
「別に、気にせんでええ」
ないこは俯いたまま、
小さく頷いた。
「……はい」
胸の奥は、まだざわついている。
でも、
突き放されなかった。
それだけで、
昨日の言葉が完全な失敗じゃなかったと、
少しだけ思えた。
まろが部屋を出るとき、
振り返って言う。
「昼、雑炊にしよか」
「うん、ありがとう」
その返事は
昨日よりも、少しだけ落ち着いていた。
感情は、
出してしまったら終わりじゃない。
こうやって、
ゆっくり整理していけばいい。
まだ、時間はある