──葬儀の当日、その場にはいたたまれなくなって、斎場の裏手に回った。
父が、恋しかった……。
もういないということが信じられず、現実を受け止めることさえできなかった。
止まらずに溢れる涙に周りも目に入らないでいた耳に、不意に砂利を踏む靴音が響いて、
誰かいるのか……と、顔を上げた。
そこには、あの彼女の姿があって、
「……どうして……。……私のこんな姿を、なぜあなたが……」
泣き腫らした目を隠すこともできないままで見つめた。
「見るつもりでは……」と、行きかける彼女を、
「……行かないでください」
咄嗟に腕を引いて捕らえていた。
もう、感情を取り繕っているようなことすらもできなかった。
堰を切って溢れ出す悲しみを、彼女に受け止めてほしくて、
抱きついて、泣くことしかできなかった。
こんなことはみっともないとも感じながら、流れる涙は止まらなかった……。
一度、箍の外れた感情の波は、抑え切ることはできなかった。
「……父が亡くなるなんて、思っていなかったんです……父が、あの優しかった父が……」
くり返して、彼女に抱きついた。
「……そんなにも、お父様のことが……?」
自分が一体どんな姿を晒しているのか、考えるような余裕もなかった。
「……父は、私にとっては、唯一の救いでした……ただ一人の、理解者だったのに……」
父と食事をした時のことが頭をよぎった……これからだったのに、まだこれから目の前の彼女と話をして、そうして気持ちをはっきりさせようとしていたのにと、
なのに、もし気持ちが確かめられても、それを伝えるはずの父は、もういなかった……。
「先生……」
呼びかけられ、戸惑うように彼女の腕が背中にまわされた。
私は、人前で感情を剥き出しにすることなど情けないと、祖父や母から言われて育てられてきた……。
だから、今まで誰にも涙を見せたことなどもなかった。
いつも完璧でいなくてはならない……と、
他人の前では本心を覆い隠し感情を押し殺して、無理にでも完璧さを装ってきた。
そうして生きてきたはずだったのが、一人きりではもう、完全な自分自身など保てなくなっていた……。
彼女に、そばに、いてほしかった……。
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