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Ep8 喧嘩祭り

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2023年12月22日

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 あれから二日間、ぎこちなくも、楽しそうなカナンを連れて、僕たちは楽園の国を回った。

 日本にも存在する物も多くあり、一時ではあったが、龍族の一味と戦う不安感も拭えられていた。

 そんな折、一際目立つ賑いを見せる場所があった。

「なんだろう? ステージ……?」

 ステージ上には、赤い髪の女性が立っていた。

 一目見て分かった。

「控えろ!! 炎の神 ゴーエンだぜ!!」

 キィン……とハウリングする声量でマイクを手に持つ。

 マイク要らないだろ……と思ったが、国民たちからの人気は壮絶で、誰もかもが大きな声を上げていた。

 包み隠そうとしないオーラ、立ち振る舞い。

 そして、自らの炎の神宣言

 燃え盛るような赤い短髪に、女性らしからぬ筋肉量が伺える、格好のいい女神。

 嘘偽りない、きっとこの人が、炎の神 ゴーエンだと、誰しもに思わせる魅力があった。

「野郎共!! 今年もやって来たぜ!! 漢と漢の熱き血潮が宿る最強の祭りが!!」

 そう、楽園の国を回っている際、何度も聞いた。

 楽園の国とは真逆なはずなのに、活気があり誰からも人気のこの祭り。

「『喧嘩祭り』だぁ!!!」

 ドォン! と大きな音でドラが鳴らされる。

 それだけ告げてゴーエンはステージから降りた。

 次第に、周囲は騒然とし始める。

「俺、出場してみようかな!」

「やめとけ、お前なんか一発でノックアウトだ」

「今年も出るらしいぞ! あの爺さん!」

「ダンさんと爺さんの試合見てえなぁ!」

 どうやら注目株は、ダンさんと老人らしい。

 当然だが、神は監督役で出場はしないそうだ。

「よう、お前たちだな」

 すると、僕らの元に炎の神 ゴーエンが現れた。

 神がこんなところにいるのに、誰もその姿を前に平伏さないのは、この人の統制なのだろう。

ダンから話は聞いてるぜ。特に黒髪のお前、喧嘩祭り出場決定な。炎の神からの命令だ!

え、え!? 僕がそんな……物騒な……」

「なんだ? ダンからは漢気の溢れる奴と聞いていたが……。それじゃあ、出場して準決勝まで勝ち残ったら炎の加護を与えてやる、と言ったら、どうする?」

「加護は、この世界を救う為に必要な……」

「だからこそだ。この世界を救うんだろ? ちょっと祭りを盛り上げるくらいなモンだぜ」

 そう言うと、ゴーエンは藪から棒に僕の腕を引き、受付へと参加表明の記載をさせた。

「ハハハっ、ヒーロー様も大変ですね」

「うるせぇやい」

 アゲルもいつもの調子に戻っていた。

 翌日、喧嘩祭り出場者と、観戦人を乗せた五隻の船が出航し、ゴーエンが貸し切っている小さな離島へと着陸した。

「まさか離島で行われるなんて……流石大イベント……」

「住民や国へ被害を出さないようにする為らしいです。魔法攻撃ダメだなんて、尚更ヤマトには勝つ術が無くなっちゃいましたね。こりゃ炎の加護はまたの機会かな〜」

「ふっふっふ……」

 僕も、最初に魔法攻撃禁止の話を聞いた時は少し焦ったが、すぐに勝つ算段を閃いていた。

 それは、ルールの隙を突くこと。

魔法での攻撃はダメでも、魔法での移動がダメとは言われてないもんね〜!」

 そう、それは他を凌駕する力、風神魔法を駆使して、相手より常に先手を打ち続けること。

卑怯者! と言いたいところですが、見てください、他の出場者の装備。最初から皆さん、そのつもりのようですね」

 辺りを見渡すと、出場者らしき人たちは、皆脚に装備を嵌めて準備を進めていた。

 防具や装備からであれば魔法が繰り出せる

 僕は再び焦ることとなった。

 ……しかし、まあ、風の加護の風神魔法だし、と、なんとか気持ちを落ち着かせていた。

「対戦表、もう表示されてますね。最初の相手は……旅人VS海兵。海兵さんが相手みたいですね。喧嘩祭りに参加するなんて、余程腕利きの、海のモンスターと対峙しているような人なんでしょうね」

「うわっ、海のモンスターとかと戦ってる人かな……勝てるかなぁ……」

「武器はこちらから借りるみたいです。海兵ですから、相手はとか長物で来そうですけど……」

 控え室には、金属の一切使われていない、木製の武器が点在されていた。

光剣すら使えないとなると……準決勝まで進むことも本当に危うくなってきましたね……」

 しかし、なんの打開案もなく、僕は第一試合の会場に足を踏み入れた。

「まあ、光剣しか使ったことないし、順当に木剣だよね……。剣術とか分からないけど……」

 やはり海兵は木槍を携え、足元にはゴム製の靴を装着していた。

「あのガキがダンさん一押しの旅人か?」

「あんな図体の差じゃ、勝負は決まったモンだろう」

 と、このようにダンさんの熱い吹聴のお陰で、僕はゴーエンの狙い通り、良い注目株の一人になっていた。

《それでは、旅人VS海兵 勝負開始!》

 MCの合図で大きなドラがゴォン!と鳴らされた。

「すまないな、旅人よ。ダンさんから熱い支持を受けているようだが、この熱い国が誇る屈強な海兵として、負けるわけにはいかない!」

 そう言うと、海兵のゴム製の靴からは水が吹き出した。

「 “水魔法 アクアダッシュ” !」

「うぇえ!? そんなのアリ!?」

 海兵の靴から勢い良く水が放射され、海兵は瞬く間に僕の目前へと長い槍を突き立てた。

 しかし、

「なんだ……?」

 僕はスルリとその槍を避けた。

 そして、魔法を使わずとも、木剣を振り下ろすだけで、海兵の木槍をへし折った。

 何故だか、魔法で速度も速いはずの海兵の動きが、とてもゆっくりに感じられた。

「つ……強い……! 流石はダンさんに見込まれるだけのことはある……な……」

 何が起きたか分からない観客席の静寂の後、海兵の俯いた姿勢から、大きな賑わいを見せた。

《しょ、勝負アリ!! 勝者! 旅人!!》

 一瞬の出来事に、MCも慌ててアナウンスをした。

「す、すげえ……あの海兵を一瞬だぜ!」

「流石はダンさんの見込んだ男だ!!」

「あのしなやかで無駄のない動き、あの若さにして相当数の修羅場を乗り越えて来たと見える……」

 観客席の賑わいは一向に静まることがなかった。

 しかし、一番困惑していたのは僕だ。

 相手の動きが、とてもゆっくりに見えたんだ。

「始まりましたね。覚醒が……」

「アゲル、なんか言ったー?」

「ヤマト流石ですね、って言ったんですよ」

「うん! ヤマト流石! つよ!」

 第二試合、第三試合と、徐々に行われていく。

 次第にダンさんの姿も見えたが、ダンさんの毎試合に重なる大きな掛け声とは裏腹に、激闘を演じる訳でもなく、相手を一瞬にして場外させていた。

 なんだか物足りなさそうに苦い顔を浮かべるダンさんが逆に面白く見えた。

「続きまして、こちらも旅人……な、なんと、狼村ろうそんからわざわざ出場しに来た若手の冒険者です!」

 今まで忘れていた嫌な予感が脳裏を駆け巡る。

 僕は急いで観客席まで駆けた。

「狼村って、ここから何日掛かるんだよ……」

「わざわざ喧嘩祭りの為に来るなんて、余程腕に自信でもあるのか、余程のバカだな」

 違う……! 絶対に前者だ……!

「流石、直感は働くみたいだね」

 いつの間にか僕の横には、旅館内で忽然と姿を現したルークが立っていた。

「大丈夫。ルールは則るように伝えてあるよ」

 現れたのは、狼の耳を生やした少年だった。

「彼の名はヴォルフ。見ての通りだけど、狼と人間のハーフなんだ。使う魔法は……」

 試合開始直後、ヴォルフは狼のように四つん這いになると、会場内は全て水浸しになった。

水魔法水龍の加護を受けている」

 そして、次の瞬間には相手の懐に入り、一撃を喰らわせると、相手を即座に気絶させた。

加護魔法は、彼のプライバシーだから秘密かな」

 またも大歓声が巻き起こる。

 ヴォルフは愛想悪く会場から去って行った。

「うーん。愛想の無い子だけど、観客に危害を加えないだけ大人しい子とも言えるのかな……」

「なんでわざわざ伝えに来たんですか……?」

「言ったよね、腕試しに来たって。ヴォルフはきっと君の姿を見れば本気で襲い掛かると思う。君も、今ある最大の力で迎え討たないと、本当に殺されるよ?」

 祭りだと思って油断していた……。

 コイツらの本当の目的は、守護神のダンさんすら出場する、喧嘩祭りでの腕試しだったんだ。

 ゴーエンやダンさんは自分の正体を隠さない。

 それを逆手に取られて、逆に利用されたんだ。

 祭りという場を使って。

「負けないですよ」

「ん?」

龍族の一味を止めるまで、負けないです」

 ルークは一度キョトン顔を見せ、微笑んだ。

「そうしてくれると助かるよ」

 そして、ルークは去って行った。

 暫くして、アゲルが駆けて来た。

「ヤマト、探しましたよ。控え室にいないから……」

「ごめん。アイツの戦いを直に見たくて……」

「どうです? 勝てそうですか? まだ龍の加護を隠しています。ルール上、使えないだけならいいのですが……。力は計り知れないですよ」

 僕は、久々の緊張感に少しだけ身体が震える。

 殺されるかも知れない恐怖だ。

 純粋悪。それが向けられている恐怖。

「そう言えば、この国に入ってから、炎魔法を試してないですよね?」

「そうなんだよ……。僕も使おうと思ったんだけど、風魔法の時みたいに発動できなくて……」

 そう、自然の国では、国に入った途端に、感覚的に魔法のエネルギーを感じ、発動魔法なんかも、昔から知っていたかのように、思い出すような感覚で脳裏に浮かんだが、楽園の国炎魔法のエネルギーは感じられなかった。

発動条件があるってことですかね……」

「何か分からないの? アゲル、自然の国では知った風に僕に命じてたじゃんか」

「中身までは知らないですよ。アレ、適当ですもん。国に入ったら、その地の属性魔法が使えるようになるのは知ってましたけどね」

「適当って……。もし今回みたいに発動条件があったら、あの戦い……すごい危なかったじゃん……」

「その時は、僕のオーバーがありましたので」

 アゲルはニヤッと手を差し出した。

 そして、直ぐに真面目な顔に切り替える。

「死なないでください」

 アゲルの真剣な表情には、毎度困らされる。

 でも、僕は笑ってアゲルに向き直した。

「ダイジョーヴイ!」

 そして僕はピースサインを向けた。

 「古っ」と笑われたが、なんとなく、龍族の話になるとアゲルが真剣な顔付きになる理由が伝わった気がした。

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